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日常・・・

日常・・・

第五章 【アローンの実験】

―ドドドドドドド―
絶え間なく銃の連射音が響く。
レベル2にある事務室では入り口から途切れることも無く、ゾンビが入り込んできている。
何とか綺麗に配置されている机やPCに身を隠して、応戦することができるが、
部屋から出るのは困難になった。
「くそ。減らないぜ!」
カルが悲鳴にも似た叫び声で歎く。
カルのとなりではヘブリックや先を急ぎたがるエージェン、やる気の無かったキットが銃撃で応戦している。
ユアンは机の上に立ち、上から射撃をしている。
カルロス、スコット、クロウの三人は、あれから連携を組んで攻撃をしていて、
誰か弾切れを起こしたら、他の二人でカバーをするというような体勢でやっている。
ネイオももちろん、コルトM4タービン ―マシンガン― をゾンビの脳天めがけて発射している。
この銃は連射が利いて、かなり効率がいい。
ネイオはコルト銃を投げ捨てると、腰に装備しているステアー銃 ―銃の連射も利くし、装弾数も多い―
を手に持って、再びゾンビたちを狙い撃ち始めた。
果てしなく続く銃撃戦。銃撃音がするたび、PCのモニター画面が割れる。
次第にネイオたちは不利な状況になってきた。
しかしながら、敵の数もだんだんと減ってきている。
が、それでもまだ百体近くいるだろうか。
徐々に壁際に追い詰められていく特殊部隊員。
「ネイオ!逃げ道は無いのか!死んじまうぜ!」
スコットが一番奥に追い詰められていた。
ユアンは椅子で攻撃をしている。
ネイオはユアンの奥にある、普通の扉に目をつけた。
「よし、ユアンの脇にある扉だ!そこに入るぞ!」
ネイオは扉の方向に走りつつ、マシンガンを連射し続けた。
スコット、カルロス、ユアン、クロウ、カル、ヘブリック、キット、エージェン、サーフの順で
扉の前に辿り着き、先を行くネイオは扉の鍵を開けた。
ゾンビは足がのろいためネイオたちに追いつけない。
最後に扉へ入ったスコットは捨て台詞をはいた。
「あばよ~ベイビ~!」



マックスたちの班はレベル4に辿り着いた。その途端にルークが歎く。
「あの二つ階をあがるのか・・・」
「とりあえず・・・あと二つ階をあがってネイオたちと合流を・・・」
マックスがそういったとき、階段の下のほうから何かが上がってくる音がした。
こつこつこつこつ・・・そんな音が心なしか大きく響く。
「誰かいるぞ!」
デックスが叫んだ。
階段から上がってきた奴の、全貌が見えた。
片手にショットガンを持っているエルバトフスだ。
「エルバトフス!」
マックスたちは驚きの声をあげた。しかし同時に不審に思った。
あんなにズダズダなのに生きている・・・顔も青く、生きている感じがしない・・・
そのとき、一人エルバトフスに近づいていった。
地味なセフテンである。
「おい、セフテン・・・近づくな!」
すると近づくセフテンをエルバトフスはショットガンであっけなく撃ち殺した。
一瞬の出来事で言葉が出なかった。
セフテンが撃ち殺された瞬間、マックスを始めメンバー達は一斉にマシンガンを
発射し、後ずさった。
すると、エルバトフス・・・スーパーアンデットはショットガンをリロードした。
ルークはそれを見て逃げ出した。
マックスやデックス、G.E.、スパンも続く。
最後尾のスパンの後ろで銃撃音が響いた。何とか命中は免れて壁に当たる。
スーパーアンデットは銃を片手にマックスたちを追いかけ始めた。
しかものろのろとした歩き方ではない。
走っているのだ!
マックスはそれをみてスピードを上げた。
スーパーアンデットはオリンピック選手並みのスピードを出してくる。
マックスは廊下と交わっている狭い通路に駆け込み、他のメンバーもマックスを追う。
狭い通路の先には普通の扉 ―ドアノブを回すやつ― があった。
マックスはそこに飛び込んだ。
スパンは最後に入ったので、かぎを閉める。
「何だここは!?」
先頭のマックスが驚きの声をあげた。
他もメンバーたちも、入った部屋の全貌を見た。
するとやけに特長的な形をしている。
学校のホール・・・体育館ほどの広さで円形である。
壁の高さ四メートルほどのところには、押し引きドアが数箇所見当たる。
さらに部屋の中央には、青い液体が入っている大きなプールがある。
「あそこの扉からどうやって入れというんだか」
ルークは噛んでいたガムを捨てると、また新しいガムを口の中に入れた。
「あのプール・・・なんであんなところにプールがあるんだ?」
G.E.が首をかしげ、独り言のようにつぶやく。
「よし、敵も入ってこない。休憩しようぜ」
最年長のデックスはタバコの箱を懐から取り出すと、その中の一本に火を点けた。
「おいおい。こんなところで休めって?」
スパンがあわただしく言う。
「こんなところで気が休まるか!」
「今は敵も入ってきちゃいない。休むんだったら今のうちだ」
デックスはそういうと、プールの近くまでいき、しゃがんでタバコを楽しみ始めた。
ルークはプールが気になり、周りを巡回し始めた。
長方形型の大きなプール、その中には青い液体、そして側面からは泡が吹き出している。
つまり、この施設はまだ稼動しているということだ。
「マックス。ここはまだ動いている。蛻の殻じゃない」
マックスはその言葉が気になった。
「何、まだ動いているだ?」
マックスがルークに向かって歩き出した時、同じくプールを見ていたG.E.が叫んだ。
「おい!中に何かいる!」
マックスとルーク、そしてプール付近でタバコを吸っていたデックスはプールの方を見た。デックスはタバコをくわえながら目を凝らした。
「・・・何がいるんだ・・・?」
すると突然、前のほうから何かが向かってきてデックスはプールに引きずり込まれた。
彼が手に持っていたタバコが、プールの水で消火される。
青い液体が赤く染まった時、中にいる物がバシャバシャと暴れ、凄い波が打たれる。
「デックス!!」
「逃げろ!」
マックスはさっき来たところと、別の扉へと向かった。
プールの中では、依然何かが暴れまわっている。
ルークはプールから円形のひれが浮き上がってくるのが見えた。
しかし、その光景もすぐに終わった。
次の瞬間には全長十五メートルはあろうかと思う恐竜が・・・スピノサウルスが出現したからである。
「はしれぇ!!」
誰かの声が飛ぶが、各隊員の耳には届いていない。パニックだ。
ルークはマックスの向かった扉に向かい、頑丈そうな扉を閉め、恐竜を広い部屋に閉じ込めた。




「下がって!落ち着いて!」
新宿のビル通りでは警官が必死に人通りを抑えようとしている。
あのリッカー騒ぎがあったのは朝の八時・・・
現在は既に夜の十時である。
暗闇の中、人々が騒ぎまくっている。
情報によると、リッカーは再び下水管の中に逃げ込み、そこを封鎖してことによって閉じ込めている。
というのが現状である。
自衛隊や企業で閉じ込めてある間の、下水の出口がある東京23区を取り囲むように
即席のゲートが作られ、リッカーが地上に出てきても区外には出られないようにしてある。
ただし、即席ゲートなので頑丈なものの金網式で、高さは十メートルほどしかない。
リッカーなら登ってこれそうな高さだ。
そのゲートの出口はいたるところに設置してあり、板橋と練馬のゲートに最大の人が集まっている。
一応自衛隊が誘導しているが騒ぎは収まらない。
「落ち着いて!いっぺんに大勢は出られません」
高いところに位置している部屋には、自衛隊員がいて、ガラス越しにスピーカーで指示している。
「落ち着いて・・・はぁ、これじゃ収まる気がしないぜ」
一人の隊員がスピーカーを口から離し愚痴をこぼす。
「はは・・・でも内田さん。さっきよりはだいぶ落ち着いてきましたよ」
「お前な。東京には人が何人いると思ってるんだ。全然減って無いだろ」
「そういやお前何見てるんだ」
内田と呼ばれた隊員は、若い男に言った。
「ああ、これは2006年のリッカー襲撃事件の島からの生存者のファイルです。
生還者は5人。二人特殊部隊員で、残りは素人に近い元犯罪者達です。
それよりこれ。アフタショットですって。何系の名前でしょうね?」
「知らんよ。今ではアメリカでも珍しい名字や名前あるからな。
そうだ山井。聞いた事無かったがお前どこ出身だ?」
「北海道です」
山井と呼ばれた若い隊員は響きのある声で出生地を述べた。
「北海道か・・・北の大地だな。」
「「こら!誘導しろ!無駄口はダメだ」
山井の言葉は隣にいた上官にさえぎられた。
この内田と山井、これから体験することを知らないのである。



―――ロス市警

「情報収集部の情報じゃない?ならどこのだ・・・分からなくていい・・・最高司令官直々?
つまりどういうことだ・・・ああ、任務発案者が最高司令官なのか?よく分からない・・・
普通は最高司令官は指示を出すだけ・・・でも違ったのか。分かった、最高司令官の名前は?
アン・ソニック。分かった、調べる。また連絡をする」
ドアーは受話器を置いた。
施設が稼動しているという情報を得たのはどうやらアン・ソニックという最高司令官直々らしい。
やけに熱心な司令官だな、と特殊部隊のことを知らないドアーでさえ想像ついた。
彼はとりあえずアン・ソニックの名前を検索にかけた。
最高司令官就任のニュースが、やはり上位に表示される。
しかし、彼の経歴を調べていくうちに、あることに気付いた。
「・・・妙だな」
彼が特殊部隊に入隊してから15年、1度も目だった戦果をあげていない。
それだけではない、一般の隊員を45歳で退任してからデスクワークをしていた。
だが彼が50歳の時、つまり2008年、前任のランコア司令官殉職後、いきなり上位の
地位を経験せず最高司令官に就任したのだ。
彼の一番大きな戦果を見ると、その2008年、アメリカ本土にリッカーが出現した時、
取り残されていた隊員たちに救助ヘリを送った、それくらいである。
しかし支持を得るには十分だったようで、見事ランコアの後釜に納まった。
「なんか気に食わない・・・」
ドアーは画面をスクロールし、どんどん下位のニュースまで見ていく。
そしてあるものが目に止まった。
アローン社 重役名簿 たるものである。
そこにはいるはずの無い人間の名前と写真が表示されていた。
"研究部副部長 アン・ソニック"
写真を慌てて就任時のニュースにあった画像と見比べる。
年齢差はあるが、同一人物そのものであった。
「うそだろ・・・いや、おかしい」
もしこれがアローン社の陰謀だとしたら、ソニックの重役時代の記録はすべて削除するはずだ。
陰謀の大きさと危機感のなさが反比例しすぎている。
しかし、これは大きな事実である事は変わりない。その時電話のベルが響いた。
慌てて電話に出る。
「もしもし」相手は特殊部隊の情報収集部の友人である。
『今回の詳しい作戦を指示しているソニック最高司令官の音声が入手できた。
監視カメラから音声だけ切り抜いてみたぞ。
あまりしてはいけないことだと思うが、パソコンのメールに送る』
ソニックはともかく、この友人も見つかったら解雇どころじゃすまないだろう。
ドアーはパソコンのメールを開く。添付ファイルも同時に開いた。

―――


「その通りだ。そこは地下にある研究所。あるところからトロッコに乗ってそこへ行くんだ。
マックスに来てもらったのは、マックスにも同行してもらうからだ。
君らを含めて十五人のメンバー達が研究所制圧をする。
研究所の主核施設を破壊するんだ・・・出来るかね?」
「・・・いや、俺達は断りますよ」
「何でかね?破棄されているらしいから制圧は容易だ。
それにそろそろ君もリッカーに対面したくなる頃だろ?君はリッカー離れを・・・」
「何がリッカー離れだ!お前はリッカーの恐ろしさをしらねぇからだ!お前がいけよ・・・」
「黙れ!!」
「・・・言いすぎだぜ」
「いいか。私は最大の権力を持つんだ。逆らうな。一ヶ月後の八月十三日、指定する場所に集合するように。分かったな」

―――

音声は1分と無かったが、なんとも緊迫した状況というのは伝わってきた。
そしてソニックという人柄も伝わってきた。
しかし、再びドアーはそれを再生する。かなり真剣な顔だ。
「・・・この矛盾点は・・・?行かせるための作戦か?・・・」
ドアーはもう一度聞き入った。
そしてドアーは目を輝かせた。
どんな陰謀があるかしら無いが、ソニックには一度話を聞かせてもらいたい。




施設のレベル3、かなり狭い部屋。
ここは電気室で、いわゆるブレーカーなどが部屋一面にある。
そこに黒ずくめの男、アローンはいた。一つの機会の前で、真剣に作業をしている。
一つのレバーを降ろし、キーボードで文字を入力した。
すると隣の機械で、ぱかっとプラスチック製の扉が開き、ブレーカーが現れた。
十数個はあるだろうか。
アローンはそれを、一つずつ丁寧に下げてゆく。
すると一斉に電気が消えた。
アローンは再び、何処かへ向かった。



「うぉ!」
電気が消えたレベル2、事務室の隣の部屋でスコットが叫んだ。
「電気が消えたぜ!」
「何でだ!?」
カルが大きな声で言う。
「知らない!」
ネイオも冷静になれなかった。
扉も打ち破られそうで、今にもゾンビが入ってくるかもしれないという恐怖がある。
その上この部屋は結構狭く、出口もその扉しか無い。
「ここに入ったのが間違いだった」
ヘブリックがつぶやく。
「入るしかなかったの!」
スコットが反論という形を取る。
「で、どうするんだ?」
カルロスが全員に訊いた。自然に沈黙が出来る。
「グレネード」
クロウが不意に言う。
「はい?」
スコットは聞き返した。いかにも疑問形だ。
「手榴弾を使って・・・事務室のゾンビを倒して・・・そうすれば脱出出来る」
「おいおい待てよ。いまさらそんな案で・・・」
「いや、いけるかもだ」
スコットが愚痴るのをネイオの強い声でさえぎる。
「しかし、扉を開けてすぐぶち込まないと、奴らはいってくるぞ」
カルロスが冷静に分析する。
「そうならないよう・・・」
ネイオは間を開ける。
「手短に済ませる」
ネイオはいかにも手榴弾という感じのものの栓を抜いた。
メンバー達は一歩後退する。
続いてクロウも同じことをする。
「キット、扉を」
扉の前で事を見ていたキットに扉を開けるよう、クロウは指示する。
「分かった。」
「早くしろ、爆破しちまうぜ」
スコットは慌てながら言った。そしてキットが扉を開けた。
それと同時にゾンビが扉を押し込んでくる。
「クソが!」
カルが叫び、助太刀に来たユアンと共にゾンビが入ってこないよう扉を押さえる。
ネイオとクロウは扉がわずかに開いている隙間に手榴弾を投げ込んだ。
それと同時にカルロスとサーフ、スコットも扉を押さえ込む。
扉はしっかり閉まった。
「みんな離れろ!」
遠くで見物していたヘブリックが頭を抱えながらしゃがみこんだ。
一斉に扉から離れるメンバー達。
すると、それを計っていたかのように、扉の向こうで爆発音が響いた。
途端に衝撃が走る。
ネイオはユアンの上に倒れこんだ。
爆発音と衝撃が止んで、スコットが扉の向こうを確認する。
「大丈夫・・・成功だ」




マックスたちはあの後、結局またレベル5に逃げ戻ってきていた。
スーパーアンデットは既にいなくなっており、リッカーも見当たらない。
「結局戻ってきたか・・・」
G.E.が呟く。
「上に逃げられれば良かったものの・・・」
ルークは嫌みったらしい声でマックスに言う。
「仕方ないだろ。上に行く階段には少し歩かなければならなかったんだから・・・
今は、こっちの方が安全だろ」
その言葉を聞き、ルークは口を閉ざした。
マックスは左腕のオールに口を当て、喋りだした。
「ネイオ、聞こえるか、俺だ。マックスだ」
オールの向こうから声が聞こえる。
『マックスどうした。緊急連絡か?』
「いや、それがだ・・・俺達レベル5で立ち往生している。それで・・・お前に頼るのもなんなんだが
こっちに援護にきてくれないか・・・頼む・・・こっちは既に四人死んでる・・・」
『四人もか・・・こっちは今のところ負傷者はゼロだ・・・よし向かう』

負傷者ゼロ。
この言葉をユアンはどれだけ嫌うか。
そっと自分の右足に目をやる。
うまい具合に隠れているが、ズボンをめくると傷口はどうなっているか分からない。
「よし、マックスのところへ行く。レベル5だ。行くぞ」
ネイオは自らの班の人数を確認すると、部屋を出る。
手榴弾で攻撃した事務室内には、大量のゾンビの焼け焦げた死体が転がっている。
一同はそれをまじまじと見つめながら事務室を出た。



ネイオたちがいるのはレベル2の中心部だが、同レベルの奥には実験室がある。
その実験室に、再びアローンは赴いた。
最初にアローンがいた場所である。
部屋奥の水槽では相変わらずある人間がコードにつながれ、青い液体に沈められている。
しかし、それは人間とはいえなかった。
下半身は完全に筋肉がむき出しで、上半身は左側こそ普通の人間の状態 ―この場合は普通のゾンビの状態・・・―なのだが
右側は下半身と同じよう、筋肉むき出しである。
顔も同様で、どちらにしろ鋭い顔で目を閉じている。
「よし・・・これくらいでいいだろう・・・」
アローンは水槽脇のパネルをいじくり、水槽内で絶えず吹き出ていた泡をとめた。
途端に鋭い形相の顔を見せた。
水槽内でかなり戸惑っている様子だが、すぐに戸惑いはなくなったようだ。
「後は任せる・・・」
アローンはそういうと実験室を後にした。
中にいるゾンビ・・・いやリッカー・・・表現に困る。
その生物・・・いや怪物は、水槽を内部から強引に割った。
あふれ出す青い溶液に流され、怪物は外に出た。
怪物は部屋内を巡回し始めた。
テーブルには、アローンが置き忘れたと思われるファイルが置いてあった。
怪物はまじまじと見つめる。
書いてあった内容は・・・
〔リッカーアンデット  製作に向けて〕
であった。


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