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日常・・・

日常・・・

第6章 【彼方へ】

第6章【彼方へ】



ダラックであった人間は体は人間なもののリッカーと化している。
強靭な足腰を利用し、まっすぐ通路を進んでいた。
奴が歩いて通り過ぎると、その付近の扉が閉じて戻れなくなる。
さらに進むと、そこの扉も閉じて戻れなくなっている。
完全に何処かに行けと仕向けられているようだ。
人の気配は無く、先へと進む通路があるのみだった。
リッカーマン・・・HGアンデット―HG<ハイグレード> Lウイルスを使用―は、仕向けられた方へと歩いていた。




ジョンはついに出口を突き止めた。
あと数100m走れば出口である。
しかし、警備員の姿も、追ってくる部隊の姿も完全に見えない。
「成功だな!」
ウィルが感激の声で言った。
「妙にあっさりといったわね」
エレナも便上する。
「作戦は成功だな。ダラックも連れてくれば・・・」
そうジョンが呟いた時だった。
広い通路を遮断するように、上部から大きな板がゆっくり降りてきた。
いわゆるシャッター型の扉である。
ジョンは驚いた。
「くそ!何で降りてくるんだ!」
「場所がばれたのよ!」
ジョンはエレナの言葉を聞いてはっとした。
そういえばしばらく監視カメラを破壊していなかった・・・
「しまった!」
「どうでもいい!あの向こう側へ行くぞ!」
ウィルが皆を促すと、一番に駆けて行った。
しかし、扉をくぐる寸前に、板は・・・扉は床にぴったりとついた。
「くそ!」
「こっちもだ!」
ソーンが叫ぶと、後方の扉も同じように閉まった。
「ばれたか!」
ジョンがついつい叫ぶ。
出口まであと数十メートルだというのに・・・
すると、次の瞬間スピーカーから男の声が聞こえ始めた。
『ハハハ、どうにか捕まえたぞ、脱獄者たち』
どうも嫌味がましい声だ。
「誰だ!?」
『私はお前達の世話をしていたリーダー、デレック・アローンだ』
アローンはスピーカーの向こうで咳払いをした。
『いいか、よく聞け。お前達はもうすぐ死ぬ』
唐突に言い出したので、エレナは目を丸くして、強気に反論した。
「何言ってるの?あなたに何ができるってのよ。ここにはものすごい力の持ち主がいるのよ!」
エレナはそういってジョンをチラッと見た。
『あ、そうだそうだ。その力について、詳しく知りたいか?』
デレックはまたもや嫌味っぽく尋ねた。
「お前知ってるのか?」
ウィルが、今度は信心深く尋ねる。
『ああ、知ってる。何せわたしが、お前達をその体にした張本人だからな』
「なに!」
ジョンがデレックたちが見ていると思われる、マイク付きカメラを見ながら叫んだ。
『どうせ死ぬんだ・・・教えてやろうか』
デレックはカメラで4人の様子を確認して、反応を見てから語り出した。
『お前達はLウイルスというウイルスを知っているだろ?体内に入ると細胞を侵食してゾンビになってしまうというな。
そのウイルスを開発したのが私の祖父だ。で、私はそのウイルスを研究している・・・で、ついに強化版を生み出した。
HG<ハイグレード> Lウイルスといって、体内に直接注入すると、体がリッカーになってしまうというウイルスだ。
お前達はその実験材料だった・・・しかし、お前たち4人は完全に失敗だったんだ。
で、その強力なウイルスを細胞レベルで体に取り入れたんだ・・・浸透させたんだな。
だから超能力のような力が持てる。今は1人だけのようだが、しばらくしたら全員気付くだろうな』
デレックは一旦そこで言葉を切った。
ジョンたちは驚愕の事実に驚きを隠せなかった。
「私は材料だったのね・・・」
エレナが落胆したように呟く。
「・・・で、ここに閉じ込めて殺すのか?ガスかなんかか?それとも銃撃の始まりか?」
ウィルがカメラに向かって尋ねた。
『いや、成果を見てもらう』
「成果?」
ソーンが真面目に首をかしげた。
「成果とはどういうことだ!?」
ジョンが今度はカメラに向かって叫んだ。
すると、後方の扉がゆっくりと開き始めた。
『こういうことだよ・・・では、健闘を祈る』
デレックはそういってスピーカーを切った。
そうしている間にも、扉はどんどん開いていった。
「何がくるのかしら・・・?」
エレナが真剣にジョンを見た。
「知らない・・・多分・・・何かが・・・」
ジョンがそこまで言った時、全貌が明らかになった。
筋肉剥き出しの全身、長い爪、黄色く鋭い目、鋭い歯が並び長い舌もチラチラ見える口、人間より一回り大きい体・・・
ジョンたちの前に立ちはだかったのはHGアンデットであった・・・
「真実は覆せないな」




「にしても泥臭いな~」
トンネルを歩きながらラリーが愚痴った。
トンネルの中央に、幅約3メートルほどの水路が走っており、その脇にある同じく3メートルほどの人用通路を歩いているのだ。
水路に水はかなり溜まっており、しかも泥で濁っている。
さらには泥の臭いがトンネル全体を包み込んでいる。
「確かに臭くて溜まんないな」
マーティがラリーの愚痴に同意する。
「そこ、愚痴らない・・・グリー、今どこら辺だ」
ロスソンがグリーに尋ねる。
「あ~・・・やっぱ何年か経つと忘れるな・・・上に出るか?」
「今更何を言ってるんだよ!」
「確認だよ。ゾンビ共の」
グリーはアポーの反感を買ったが、近くにある梯子で上に上がっていった。
「気をつけろよ」
アーデスの心配そうな声が聞こえる。
グリーは梯子を上がってマンホールに手をかけた。
「あら?」
どんなに下から押しても開かなかった。
力尽くで頑張って押してみた・・・が、やはりびくともしなかった。
「どうしたグリー」
ロスソンが梯子の真下に来た。
「頑張って押しても開かないんだ・・・どうなってんだろうな」
「暗証番号入力タイプじゃないのか?」
アポーが考えられる事態を挙げる。
「いや、外からは多分そうかもしれないけど・・・内側は簡単に開く様になっているんだ」
グリーがゆっくりと考えてから、問いの答えを言った。
「もう1度押してみろよ」
ラリーが銃を構えながら言った。
促されたので、グリーはもう1度力強く押してみた。
すると、いとも簡単に開くではないか。
「あれれ?」
「なんだよグリー、簡単に開くじゃないか」
アポーがグリーを馬鹿にするように笑った。
「うるさいな・・・」
そんなことを言いながらグリーが外に頭を出そうとした・・・
外から腕が伸びてきた。
「うわ!」
その腕に、頭をつかまれそうになったグリーは高さが4m少しはあろうかと思われる高さから落下した。
グリーは背中から通路に落下した。あと少しで水路に落下するところであった。
「あぶねぇ・・・」
とはいったものの、地上に出るのは無理そうだ。
そんなことを思っていると、ラリーに頭を叩かれた。
「馬鹿か!外はウイルスにあふれてるんだぞ!あともう少しでお前も怪物の仲間入りだったんだ」
ラリーに言われ、グリーは若干落ち込んだ。
しかし、落ち込んでいる暇はなかった。
「でもこのトンネルを抜けろ、ということだよな」
ラッセルが腕組しながら分析する。
ロスソンはウンと頷いた。
「そうだ。でもこのトンネルのほうがいいな・・・今のところはゾンビもリッカーもいないようだしな」
ロスソンがそういってグリーを立たせた。
グリーも今のところは怪物がいないことを思い出して安心していた。


今のところは・・・




「くそ!・・・こういうことか!」
通路に閉じ込められたソーンがそう歎いた。
閉じ込めるだけならいいが今回は・・・
完全に血に飢えている怪物さんと一緒だった・・・
「死んだな」
ウィルが誰にも聞き取れないような声で呟いた。
次の瞬間、HGアンデットはそのウィルめがけて爪を振りかざしながら突進してきた。
ウィルは一撃を辛うじて交わした。
しかし、次の攻撃で鋭い爪に背中をかき切られた。
「ぐはぁ!」
声にならないような声をあげてウィルが吹っ飛んだ。
ウィルが壁にぶつかった瞬間には、次にジョンのもとへと突進していた。
ジョンは手をかざし、自分のものとした超能力<パワー>をアンデットへ向ける。
するとアンデットは壁に激突するように吹き飛んだ。
「先に行け!」
恐怖に怯えるエレナとソーンにジョンはそう言った。
「マジか?」
ソーンが目を丸くして言った。
「早く行くんだ!」
「行きたいのは山々なんだけどね・・・」
エレナがもじもじしながら呟いた。
「閉じ込められているのよ」
ジョンは抜かれた。
そういえば密室状態もいいところであった。
何か名案は・・・
思いついた。
すぐに起き上がったアンデットに、もう一度パワーを浴びせる。
例によって吹っ飛んだ。
「エレナ!ソーン!」
ジョンは思い切り声を張り上げた。
「すまんが・・・奴をおびき寄せてくれ」
「俺達がか?」
ソーンが一瞬、倒れて起き上がろうともがくHGアンデットを見る。
「なんで?」
エレナは疑問符をつけてジョンに訊いた。
「この扉を俺の超能力で開ける・・・それまでに多少時間がかかるだろ。その間だけだ」
ジョンが納得のいくように説明する。
そのおかげか、ソーンはやる気になったようだ。
「よし・・・やろうじゃないか・・・でるためだもんな」
ソーンは今ようやく立ち上がったアンデットに向かって言い放った。
「醜い化け物が!俺だ!俺を狙え!」
その言葉に反応してか、HGアンデットはソーン目掛けて走った。
「こっちよ!こっちよ化け物!」
しかし次はエレナが便上して叫んだ。
アンデットは進路変更した。
「ば~か!こっちだよ~!」
次はソーンが叫ぶ。
完全にHGアンデットが迷いだした。
知能レベルはそこまで高くはないようだ。
ジョンはそんな彼らに名案を託し、神経を集中させていた。

体から、彼らから、アンデットから、床から、壁から・・・全てに流れる何かを感じた。

それが指先に集中し、何かで遮断した扉をつかんでジョンは腕を振り上げた。

遮断されていた通路が見えた。
扉が持ち上がったのだ。
「よし、開いたぞ!早く来い!」
早速自分が扉の向こう側に行く。
エレナが倒れるウィルを肩に担ぎながらジョンを追った。
ソーンもそのエレナを追う様に扉の近くまで来た。
しかし、ジョンが扉を閉めようと準備した次の瞬間、ソーンの体をHGアンデットの爪が貫通した。
「くそ!・・・」
爪に突き刺したソーンをHGアンデットは、軽々と持ち上げた。
「扉を閉めろ!・・・早く閉めないと・・・」
ソーンがそういった瞬間、HGアンデットはソーンを軽く放り投げた。
壁にソーンが激突する。
その映像を脳で感知したジョンは、素早く扉を閉めた。
HGアンデットが扉を越える寸前だった。
「やった・・・」
ジョンが歓喜の声で呟く。
「さぁ、早く行かないと」
エレナが強気な声でジョンを促す。
ジョンはエレナが担ぐウィルを、自分の背中に乗せた。
「出口はすぐよ!」
エレナが前方の通路を指差した。




通路を進む特殊部隊一行は先の長い試練を浴びせられていた様だった。
何故かあまり進んでいる気がしなかったのだ。
「どこまで行けばいいんだよ!」
ラリーが歎き、後ろのマーティーが頭を叩いた。
ロスソンはどこまでも続いているかのように思われる通路の前方をよく見た。
「通路だな・・・」
そこでロスソンは気付いた。
壁に面している通路を歩いているわけだが・・・壁にも所々鉄格子がはめてある。
何故だろう?
「グリー」
ロスソンは先を歩くグリーに声をかけた。
「何?ロスソン」
「ああ、この壁にある・・・小さい穴はなんなんだ?」
グリーは壁にある小さな鉄格子を見た。
「これか?これは水路があふれた時、ここを流れていくように作られたんだ。ってか、小さくって・・・
人間だってかがめば入れるくらいの大きさだろ?」
グリーが解説と突っ込みを同時にした。
ロスソンはその穴をまじまじと見つめた。
「この緊急用水路・・・もスタジアムに通じているのか?」
「ああ、そうだ」
グリーが弾倉を入れたり出したりしながら言う。
すると今度はアポーが質問した。
「水路の深さはどのくらいなんだ?」
「知らん」
「いや知らん、て・・・」
アポーはため息をついて呆れた。
「ウソウソ、冗談」
グリーが急に元気を取り戻す。
アポーはあきれ返った顔を上に上げた。
「で、深さは?」
「ああ、通常は水路自体の深さは3mだ」
グリーはあっさりと答える。
アポーはふいを突かれた様に崩れ落ちた。
そんな話題で盛り上がっている後ろで、水路を眺めていたラッセルが、突然声をあげた。
「揺れた」
「は?」
ラリーがラッセルを睨みつけた。
「何が揺れたんだ?」
「水だよ。水が揺れ動いた」
その言葉で、一斉に水面に銃が向けられた。
「気をつけろ・・・接近戦になる」
ロスソンが慎重に呟いた。
手に汗握りつつ、銃を構えていた。


しかし、水からは何も現れない。


銃を向け、1分も経ったころだろうか、アポーが銃を降ろした。
「何もこないぞ」
ラリーも銃を降ろした。
「ラッセルさんはまた勘違いだな」
ラリーは笑いながらラッセルを見た。

とことん腹の立つ生き物だな

ラッセルの気持ちがそう思ったとき、グリーが前方を指差した。
「チェックポイントだぞ」
グリーが先を走っていった。
するとトンネルの幅が広くなって、1つの部屋が出来ていた。
入って初めに立った場所のように、機器類が脇に並んでいる。
「おお~中継所か」
水路部分もプレートで覆われているので、久しぶりに広々とした空間に出られた気がした。
といってもたたみ10畳ほどの部屋のスペースであるが。
そして地面はコンクリート、やはり、休めそうな場所ではない。
しかし歩き疲れた特殊部隊員達にとっては、最高の休憩所である。
「ふ~・・・楽ちんだぜ」
ラリーが置いてあった椅子に座り込みながら言った。
グリーはまた計器類をチェックし始めた。
「う~ん・・・電気以外は全てシステム不調・・・そりゃそうだな」
1人呟くグリーに、ロスソンとアポーが近づく。
「ここからあとどのくらいだ?」
アポーがグリーの背中に回りこんで訊く。
「ええと・・・ここが確か半分地点だ。正確にスタジアムまでは4.9キロだから・・・その半分」
グリーが思い出しながら答える。
「となると2キロと少しか・・・まだまだ頑張らんとだな」
ロスソンが急に老けたような声を出した。
「あ、グリー。お前には先導を頼むから・・・道に迷ったりはしないように」
「了解ロスソン。でも通るのは1本道だ・・・道に迷うなんてことは・・・まずない―」
そこまでグリーが言った時だった。

―バチャン―

賑わっていた部屋も、この音で一瞬にして静まり返った。
普段なら聞き逃すかすかな音だが・・・今回は違った。
一斉に音のした方へと銃口が向く。
「水だ」
ロスソンが小さな声で言う。
確かに奥の方の水路から聞こえた音だった。
何かいるのは確実である。
「気をつけろ・・・接近戦だ」
さっきも聞いたことあるような台詞をロスソンは吐いた。

―静寂―

今回も、1分経ったが何も出てこない。
マーティが一番に口を開いた。
「気のせいか?」
「まさか・・・あれは確かだったぞ」
ラッセルが銃を向けたままマーティに言う。
「でも何もこないってのは、おかしい―」
グリーが口を開いた瞬間だった。
すっかり意識を奪われたグリーに向かって、水中から何かが飛び出してきた。
すごいスピードだったので、グリーは避ける間もなく倒れこんだ。
リッカーだ。
「くそ!!」
完全にリッカーの下敷きになって、今にも噛み付かれそうになっているグリーは必死に助けを求めた。
「撃て!こいつを撃ってくれ!」
その言葉を聞いて、アポーが銃をリッカーに向ける。
「馬鹿!銃はダメだ!」
「じゃあ、どうすんだ!」
ロスソンは銃撃をやめさせて、ラリーの方を向いた。
「ラリー!ミサイルだ!」
ロスソンに指示を受けたラリーが、ポータブルミサイルをリッカーに向ける。
今にもグリーに噛み付く・・・そんな感じだ。
「こっち向け・・・」
ラリーがリッカーに向け挑発をする。
すると見事にその挑発に乗ってくれ、リッカーが舌を伸ばしてラリーを睨んだ。
次の瞬間、リッカーの顔は文字通り吹っ飛んだ。
というより、リッカー全体がミサイルの勢いに乗って壁に運ばれていった。
さすがにすごい轟音が響く。
リッカー地獄から開放されたグリーが起き上がって、首元をぬぐう。
「死ぬかと思ったぞ」
ロスソンに九死に一生体験を投げかける。
「しかし・・・まだいるかも・・・」
ロスソンが水路の方へ近づいていった。
「気をつけろ、ロスソン・・・」
ラッセルの声が響く。
ロスソンは泥に濁った水路の水を眺めた。
枯れ葉、枯れ枝、砂・・・その中に見つけた。
リッカーの影を・・・
「!」
次の瞬間、リッカーが水中から飛び出してきた。

それも1体だけではない。
5体だ。

ロスソンは反射的に後ろに避けたが、よろけて転倒してしまった。
その上を、どんどんリッカーたちを通過していくのを確認した。
銃声も聞こえてきた。

「やれぇ!ぶっ殺せぇ!」
ラリーの一言で、リッカーに対する総攻撃が始まった。
といってもグリー、アポー、ラッセル、ラリー、アーデス、マーティの6人ではあるが。

しかし、相手は血に飢えたモンスターである。

勝てるわけがなかった。

「くそぉ!!」
グリーがマシンガンをぶっ放しながら叫んだ。
「アポー!後ろだ!」
背中にとんで来たリッカーをアポーは体をかがめて避けた。
アポーはそのリッカーに対し、多くの弾をぶち込んだ。
しかし効き目はない・・・
「手ごたえはあるのに!」
アポーが1人歎く脇で、グリーが1対のリッカーに向けマシンガンを連射していた。
どうやら標的を決めた様だ。
アーデスが怯えながら銃を連射するのを、ラリーがランチャーで援護していた。
「お前特殊部隊員だろ!もっとしっかりしろ!」
ラリーに急かされ、アーデスはようやく落ち着いて銃を連射し始めた。
そのラリーは横転すると、華麗にリッカーの脳天をポータブルランチャーで撃ち抜いた。
ド派手にリッカーの肉片が飛び散る。
「やったぜ」
ラリーがそういった脇で、マーティが水路付近で銃を連射していた。
「お前、少しは進歩したようだな!」
マーティが銃撃音にかき消されないよう、大きな声でラリーに嫌味を言った。
ラリーはその嫌味を大いに受け入れた。
「どうもありがとよ」
「でもお前は、口だけの方がいいと思うけど―」
その時、マーティのすぐ足元にある水路からリッカーの手が伸びた。
それがマーティの右足をがっちりつかんだ。
そして思い切り水の中へと引っ張られた。
「うわぁ!」
マーティは腹から地面に激突した。
それをラリーが目撃する。
「マーティ!!」
そうだけ叫んでマーティのところへ滑り込んだ。
そして華麗に腕だけつかむ。
しかし、リッカーの力はすさまじかった。
既にマーティの下半身は水路の水に沈んでいた。
ラリーは腕をしっかりと握った。
「放すな!放すなよ!」
ラリーがマーティの顔をしっかりと見ながら話す。
ラッセルも近づいてきて、同じようにガッシリと腕をつかんだ。
しかし、ついにラリーの体はほとんど水に沈んでしまった。
こうなればリッカーのものである。
最後は強引にマーティを引っ張った。
2人とマーティを結んでいた各自の腕という命綱は、ぷっつりと切れてしまった。
ラッセルはすぐに起き上がってヘッドスライディングしてその場から離れる。
腕が解けたラリーは後ろを向いた。
しかし、すぐにリッカーが飛び掛ってきた。
それをスタントマンさながらの横転で、何とか避けたのだ。

グリーとアポーは、背中合わせで撃ちまくっていたが、マーティの死を見て悟った。
「きりがないぞ!」
今まで倒したリッカーは、ラリーがミサイルで倒した奴と、グリーとアポーで協力して倒した、計2体であった。
グリーはいろいろな案を考えてみた。
ロスソンに提案できるような案を。
水路を辿っていくわけにも行かなかった。
そこで思い出した。
ラリーのミサイルなら確実に倒せると。
(ああ、俺って頭いい)
「ロスソン!非常用水路だ!そこに入り込め!」
「奴ら追ってくるぞ!狭い場所は危険じゃないか!?」
ロスソンは起き上がって、リッカーに力戦奮闘しているところだった。
「大丈夫だ!ラリーのミサイルだったらすぐ吹き飛ばせる!それに、狭いところの方が狙いやすいだろう!」
グリーの言葉に、ロスソンはしばし、迷ったような顔をした。
しかし、すぐに決断を下した。
「お前を信じるぞグリー!」
ロスソンはグリーとアポーのもとへと駆け寄った。
グリーは近くにあった鉄格子を外し、高さが1mほどの四角い空洞へと入っていった。
アポーがそれに続く。
「ラッセル!アーデス!ラリー!こっちに来い!」
ロスソンが残っている3人を、自分のもとへ呼ぶ。
ラッセルがすぐに駆けつけ、先に頭を抱えながら狭い通路へ身を入れた。

その頃、先に通路―正式には緊急用水路―に入ったグリーとアポーはどんどん先へ進んでいた。
直角の曲がり角はもちろん曲がる。
しかし、十字路なども多い。
そして直角の曲がり角の量が尋常ではなかった。
「おいおい、これは非常用にしてもスタジアムへ直通しているんだろ?だったら、真っ直ぐな道だけじゃないのか?」
アポーがグリーに質問する。
「地盤の都合だ。最近は地面に電線を埋めたりしてるから、それも原因だよ」
グリーが早口に答えると、また直角の曲がり角が現れた。
「くそ・・・くねくねしてるな」
アポーがグリーに向かって愚痴った。

ラッセルがはいってしばらく経ったあと、ロスソンとアーデスが通路に入った。
アーデスは怯えながら逃げ込みながら・・・
ロスソンが先を行き、殿をラリーが務め、アーデスを真ん中に挟む形にした。
そして殿のラリーが入り込むと、もちろんリッカー共も追って来た。
「これはあんまり・・・たいしたプランじゃないな・・・」
ラリーがポータブルランチャーを常に構えながら呟いた。




外は天国の世界ではなかった。
アラスカだと場所は判明していたが、こんなだとは知らなかった。
出てきた場所は何もない、ただの平地。
木々の一本も無いが、遠くに山だけが見えた。
そして地面は干上がった土で、コケが何故だか生えている。
「エレナ、あそこの影に」
亀裂が入って地面が盛り上がった下の地面・・・大げさに言えば低い崖の下にエレナを案内する。
ジョンもその陰に隠れて、ウィルを降ろした。
「脈はあるの?」
「ああ・・・ある・・・生きているには生きているが・・・死んだも同然だ」
2人とも、ウィルがゾンビ化するのを知っていたのだ。
この時代では常識であった。
それに、重症を追った彼は・・・悪い言い方をすると邪魔としかいえなかった。
「すまんな、ウィル」
ジョンはウィルの手を、ぎゅっと握り締め立ち上がった。
「これからどうするの?」
エレナがジョンを見つめながら真剣な顔で問う。
ジョンはしばらく考えた。
「こんな世界だ。歩いても何もないだろうな」
ジョンは遠くの山を見つめた。
まだ木も覆っている。
ジョンはこころを決めた。
「あの山を・・・目指そう。安全という保障は出来ないけれど」
エレナも賛成したようだ。
「でも・・・食料も水も何もないわよ」
「だからといってここにいても捕まって殺されるぞ」
2人の間に、気まずい沈黙が訪れる。
しかし、ジョンはあえて明るく声を発した。
「まぁ、真実は覆せないから・・・歩くしかないな。身を潜めながら・・・だぞ」
最後にジョンは、ウィルの頭の脇に・・・干上がった地面に咲いている1輪花を見つめた。

彼らの長い旅は、今始まったばかりである。




ジョンたちが去ってすぐ後に、施設の中から武装した部隊が出てきた。
「くそ!見逃したぞ!」
「でもこの世界じゃ生きてはいけないだろ」
「仕方ないな・・・だが付近の捜索はする」
舞台の人間達がそんな会話をしながら、付近のあらゆる場所を歩き回った。
それは、ジョンとエレナが旅立ちの始まりを迎えた、あの崖下も対象だった。
「あの崖下に潜んでいるかもな」
1人が銃をしっかりと構えながら崖下を覗き込む。

しかしそこにあったのは、この状況下でもしっかりと咲く1輪花だけであった。




2人は彼方へ旅に出た・・・それは終わることの無い旅である。






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