第四章 【異変】SSF入隊のための筆記試験が終わった。 (自称)天才であるロイもさすがに精神力がすり減らされていた。 肩を叩いていた所、早速アナウンスが入った。 『お疲れ様、将来の隊員たち。』 なかなかカッコイイ入りだ。 『君たちは明日の実力テストに備えてゆっくりと休む事だ。これから16時までに多目的ホールに迎え。 そこで責任者の指示を受けること。』 ロイは廊下をあるきすぐ近くにある多目的ホールに向かった。 そこは広い部屋でただたくさんのベッドがあるだけの部屋である。 「ここで寝泊りか?」 「試験だからな・・・」 周りからそういう声が聞こえる。 ロイも部屋を歩き、自分の番号210番のベッドへと向かう。 ベッドが無造作においてあるだけでもちろんプライバシーというものは存在しない。 「おい!入隊希望者諸君!」 そのとき、部屋に聞き覚えのある声が響いた。 ロイを案内したあのむさい中年男である。 「私は入隊試験総監督、ドルジ・パーソンだ。これから今晩の動きについて説明するのでメモが必要ならメモをするように!」 彼の声が部屋中に響き渡る。ロイも耳を澄ますことにした。 「現在時刻は16時14分だ。18時までは自由にする。18時になったら食事で食堂に集合だ。 食堂の場所は手元の説明書を読むように。30分以内に食事を済ませ、19時30分までに入浴。 そして20時に明日の説明を開くからそれまでにここにいるように。そこから先はその又後々話す。 言っておくが、食事、入浴も態度として評価するからそのつもりで・・・以上!」 そのドルジ・パーソンが部屋から出ると、多目的ホールは再びざわめきだした。 「しんどいな」 「そうか?意外と楽に思えたんだが」 「とにかく気を引き締めろってことだよな」 そんな声が響く。 先ほどは10人しか同じ部屋にいなかったが、このホールにはロイ含め210人もいるのだ。 ロイはようやく胸の高まりを感じていた。 「ふぅ、今年は多目的ホール、1つに収まったな」 ドルジが歩きながら隣を歩く部下に話しかける。 「入隊希望者、これどうせ全員合格なんでしょう・・・?だったら、試験なんてやる必要あるんですか?」 部下の言葉にドルジは立ち止まった。 「SSFのシステムを忘れたか?合格者のテストの総合点が順位として表示され、それを元に各部隊が その入隊者を引き抜いていくシステムだ。早い者勝ちのシステムがあるからテストをしないと順位を出せないだろ」 「そうでしたね」と部下も頷く。それをみてドルジは再び歩き出した。 そしてドルジと部下はエレベーターへと消えていった。 ―戦艦<クラッシュ> 「燃えてきたぁ!燃焼だぜ!なぁ、燃えてこないか!?」 ザックが廊下を共に歩くアダムとメリルに問いかける。 メリルがため息混じりに返答する。 「燃えてくるわけないじゃないですか。リカルアの第三衛星オリアといったらリカルア衛星で一番初めに手をつけられた衛星で 都市も産業も発達している大都市じゃないですか。そこに攻撃予告が出たんですよ?マジでやばそうじゃないですか」 「そうだな。オリアに攻撃なんかされたら、今まで辺境でしかやってなかった戦いが一気に大都市に広がって やつらと全面戦争になるかもしれないし・・・それを食い止めると言うのに、燃えるわけないだろう」 メリルとアダムの冷静な突っ込みにザックは一瞬落ち込んだが、すぐに顔を上げた。 「おいおい、そんなことないだろって。考えてみろ、もし攻撃が実行されて、俺たちはオリアを守るために戦う・・・だろ?」 アダムが「それで?」と見つめる。 「そこでオリアの大統領やら最高官やらを救ってごらんなさいよ。一気に俺たちはスターだぜ!?」 「お前は馬鹿か。攻撃予告が出された今、オリアの人たちはシェルターや別衛星に避難が始まってるだろ」 「それもお偉いさんとなれば、最優先に避難させられるんじゃないですか?」 アダムとメリルの間髪いれない突込みで、ザックは今度こそ撃沈した。 「まああれだ、とにかく戦いに備えろってことだ。」 ザックが自分の中でまとめをつけ、アダムとメリルが頷くと3人は各自室へと向かっていった。 「エクス、さっきアイザック艦長と話してたろ?何をはなしていたんだ?」 ベンが壁にもたれながらエクスに聞いた。 2人は今、暗くて狭い格納庫にいる。 「すまんなベン、今は・・・言う事ができないんだ」 エクスは暗い顔で言うと銃を取り出した。 さっき、バーでオリア攻撃予告のメールを見た後、エクスはアイザックに呼び出されて2人だけで話をしていた。 ベンはそれの内容が気になっていたのだ。 「言うことができない?おいおい、何か陰謀でもたくらんでるって言うのかよ!?」 ベンがたまらず叫ぶ。狭い格納庫でベンの大声だ、とても響く。 それに対しエクスは対照的に、静かに呟いた。 「大丈夫だ。そんな事はない」 「・・・なら、なぜ言う事ができないんだ!?」 エクスはベンをじっと見つめると、大きくため息をついてからつぶやいた。 「いいかベン、俺がお前に対して嘘をついたことがあるか?」 ベンはそれを聞いて、少し顔を背けながら答えた。 「いや・・・なかった」 「なら俺を信じてくれ。陰謀ではない、アイザックと2人で裏切るとか、脱走を図るとかそんなこともない。 しばらくしたらお前にも話すことにする。わかったな」 エクスはそういって銃を片手に格納庫を後にした。 ベンはエクスがいなくなると、その場に座り込んだ。 「・・・一体、なんなんだ・・・」 エクスとベン、2人は20年間同じ部隊で共に過ごしてきた。小隊長を決めるときはジャンケンで決めた仲だ。 ずっと隠し事なく過ごしてきたが、ここに来て初めてエクスに隠し事をされた。 ベンはそれに疑問を感じずにはいられなかった。 「フラッシュ航行解除。本船は惑星ヴァーノンから4ビート離れた地点にヴロウする」 ロックが席に座りながらマイクに向かって言った。 それを聞いた<クラッシュ>のブリッジに緊張感が走る。 「フラッシュ航行解除5秒前・・・」 となりに座るナリがモニターを眺めながら呟いた。 「・・・3・・・2・・・1・・・解除」 ナリの言葉で今まで光っていた窓の外が一瞬にして暗くなり、通常の宇宙空間に戻った。 そして窓の外には大量の戦艦が見える。首都惑星リカルアを守る防衛艦である。 「船体に異常なし、解除は成功しました。」 ナリ、ロックの操縦士組とは少し離れた場所に座るジュリアが大きめのモニターを見ながら報告した。 「よし、SSFにつなげ、通信をな」 ブリッジの中央で立っていたアイザックがジュリアに命令する。 ジュリアがキーボードを叩き、ボタンを押す。するとブリッジ内に女性の声、恐らくオペレーターの声が響いた。 『こちらはSSF本部<マザー>。』 それを聞いてアイザックは近くにあったマイクを取る。 「こちらは第21小隊専用軍艦<クラッシュ>。帰還の要請を受けて戻ってきた。受け入れ準備を求む」 『了解。』 女性オペレーターはそう言って通信を切った。 アイザックがマイクを持ったまま待っていると、再び女性オペレーターの声が響いた。 『軍艦<クラッシュ>、54番格納庫を開放します。』 「了解した。感謝する」 アイザックがそういってマイクを置いた。 ―SSF本部<マザー> SSFは特殊部隊といえど、扱いは軍隊とほぼ同じだ。 食事だってもちろん戦い、どれだけ短時間で食べられるか、どれだけ少ない量で健康管理を 調節する事ができるか・・・それがSSFだ! ・・・と、ロイは思っていた。 ロイは食堂に行ってその無難さに目を丸くした。 各試験受験生に席が割り振られていて、そこにはわりと無難なメニューが並んでいる。 「なんという・・・」 メニューはタイの照り焼き、カリカリの葉、赤米、アルカリスープという一般人にとっての常識的なメニューだ。 さすがに量はちょっと多めだが。 ロイが席についてしばらく料理を眺めていると、また入隊試験総監督のむさい中年男ドルジ・パーソンが入ってきた。 と同時に18時を合図するチャイムが鳴る。 「よし、皆席についたようだな。心構えは完璧だ。」 ドルジが話し始める。ロイは背筋をピンと伸ばした。 「いいか、30分以内に食事する事。さっきも言ったよな。よし、各自に食事開始だ」 ドルジがさすが総監督らしくきびきび指示する。 ロイも目の色を変えてタイの照り焼きにがっついた。 しかし、ロイにとってはどこか緊張感のないことが続いていた。 第21小隊専用軍艦<クラッシュ>は、SSFの母船<マザー>の格納庫に収容された。 軍艦と名前は着いているが、かなり小型な専用軍艦を収容するのは<マザー>にとって容易な事であった。 <クラッシュ>は浮遊しながら格納庫に進入し、その後停止し着地した。 それと同時に周りから整備班の人間が駆け寄ってくる。 <クラッシュ>内のブリッジから、その光景が見えた。 「よし、着艦成功。着きました、艦長」 ロックが操縦桿を手放しアイザックに向かって言う。 「よくやった諸君。我々は21小隊さんの命令があるまで基本フリーだ。お疲れさん」 アイザックがそういうと、全員が椅子から立ち上がり大きく伸びをした。 「とりあえずしばらく宇宙飛行はお休みですね」 ナリが腕を伸ばしながら呟く。ジュリアも足と腕を伸ばす。 アイザックはマイクを持つと、マイクに向かって話し出した。 「専用軍艦<クラッシュ>、第21小隊ただ今帰還した。我が艦の整備を頼むぞ」 そして『了解しました』と言う声が返ってくる。 「よし、本当に今回の任務はご苦労だった。明日集会を行う。次の任務が決まり次第報告する。」 アイザックがそういうと、ブリッジには明るい空気があふれ出した。 一方、こちらもブリッジと同じよう明るい空気に溢れていた。 <クラッシュ>内のバー『Interplay』に第21小隊の面々は集結していた。 メリルは手元にあるサトイモドリンクをすする。 その時船が<マザー>に着艦したのを感じ取ると、エクスが立ち上がった。 「どうやら着艦したようだな。現在時刻は・・・?」 メリルはサトイモドリンクを傍らに置くと、懐から周波時計を取り出した。 「えっと・・・18時30分ですね。」 メリルがそう報告すると、エクスは今度はベンを振り返った。 「今入隊試験をやっているか?」 「今は恐らく食事中・・・ってところですかね」 ベンが考え込みながら言う。メリルはその態度に疑問を感じていた。 いつもは上司と部下の関係でありながら親友でもあるエクスとベンはもう少しフレンドリーな会話をするはずなのに・・・と。 「よっしゃ!メリルちゃんに続く可愛い後輩を見つけるぜ!」 ザックが相変わらずな発言をするので、メリルは抱いた疑問を空に放った。 「今は衛星オリアに攻撃予告が届いているという非常事態だ。結果は恐らく実技試験直後の明日の夕方には出るだろう」 ベンが淡々と解説する。 メリルは丁度1年前のことを思い出していた。 昨年は入隊試験は数日に渡って行われ、より細かな数値を出していた。 メリルは昨年のSSF入隊希望者501人の中でも30人に入る成績を叩きだし、満16歳という 入隊規格最年少の年齢で入隊したのである。 しかし、16歳という年齢と珍しい女性隊員ということからしばらく部隊には入れなかった。 それに目をつけたのが第21小隊の隊長であるエクス・クラウンである。 若手の人材を探していた第21小隊に無事に入隊、今に至るというわけである。 もっとも、エクスロリコン説、アイザック趣味説、ザック彼女希望説など色々噂はあるのだが。 「メリル、お前はどうだ?」 と、突然回想していたところにエクスの声が割って入る。 「?・・・なんの話です?」 メリルがぽかんとする。見かねたアダムがため息交じりに説明する。 「どんな新入隊員を獲得するかの話だよ。俺とベン大尉はもちろん賭けで入隊試験1位の奴を狙うってことになって。 で、ザックは・・・」 「おう!俺はメリルちゃんみたいな可愛くて若い後輩を獲得したいんだ」 「とのことだ。で、メリルはどうなんだ?ということで・・・」 アダムが腕を組みながら説明した。 メリルは考えた。どうせ後輩ができるなら年下の方がいい。 でも、さすが2年連続で入隊規格最年少の隊員が入ってくるとは思えない。 いや、確率なんて問題じゃない・・・でも今年は入隊希望者少ないという話しだし・・・ 「メリルちゃーん。聞こえてるー?」 ザックがメリルの前で手を振る。それでメリルは我に返った。 「・・・やっぱ生で見ましょう。それからです」 メリルはとりあえず答えを出してみた。それでザックの顔も変わる。 「よし!じゃあそうしましょうぜ!」 「・・・なんか、急に元気になったな」 エクスは呆れ顔になりつつ、入隊希望者の視察に行くことにした。 ・・・というわけである。 ロイは食事をせっせと食べていた。 こんなに無難なメニューだが、前のドルジの言葉を忘れてはいなかった。 『食事、入浴も態度として評価するからそのつもりで・・・』 こういう場合、食事の礼儀かスピード、どちらを取るか考えたものだがロイは結局スピードをとった。 広い多目的ホール、入隊希望者210人が食事にがっついている中、テーブルの合間を試験監督たちが歩いていた。 総監督のドルジも、もちろん歩き回る。 今年の入隊希望者は威勢のいい奴が多いな・・・あまりにも激しい勢いで食事をする210人を見てそんなことを考えた。 そのとき、彼の部下が駆け寄ってきた。 「ドルジ総監督、今思ったらあんなこと言っちゃってよかったんですか?」 「どのことだ?」 2人は小声で会話する。 「いや、食事、入浴も評価に入れるってやつですよ。今年はそこまで採点する時間がないって 会議の時自分で言ってたじゃないですか」 部下の言葉を聞いてドルジははにかんだ後に答えた。 「いやいや、個々としては評価には入れないが、だが総合態度として話を聞いていたか、ちゃんと覚えているか、 これを心がけているかを評価するんだ」 ドルジが言った後、部下が納得できない表情を作った。 「・・・そんなこと、分かるんですか?」 今度は真剣な顔をして、ドルジは喋り始めた。 「今は入隊試験中だ。自分の将来を決める場・・・緊張していれば、考えていることは態度として出るよ」 このドルジ、見た目は冴えない中年男のような感じだが、試験総監督を務めているだけあって 表情を見抜くという点ではプロである。 「お前も早く俺に追いつけ!分かったな」 笑いながらドルジは部下の肩を叩くと採点に戻った。 この男、人をやる気にさせる方法も心得ている、人間を扱う上でもプロ級である。 ―惑星リカルア 第3衛星オリア 反乱軍から攻撃予告がだされているリカルアの第3衛星オリアでは住民の避難が続けられていた。 たった今、軍のシャトルがまた一機飛び立った。 大気圏を抜けて宇宙空間へと出る。 そして比較的目立たない航路へと出る。衛星オリアから大きく迂回してリカルアに入る予定である。 「よし、このままリカルアまで直行だ!」 コックピットで指揮をする上官兵士が叫ぶ。胸には少佐の勲章がはりつけてある。 そのとき、レーダーを見ていた兵士が叫んだ。 「少佐!緊急事態!ここから2ビート離れた地点に未確認の機影を捉えました!」 「なんだと!」 少佐はレーダーへと駆け寄る。 本船の周りに見方の3機のファイターの情報が出されている。そのさらに外周に別の船の機影も捉えられていた。 見方の船なら情報がレーダーへ表示されるはずなのだがその表示がない。 ここは航行区域からはずれているので一般の民間機である可能性も低い。 少佐はマイクを取った。 「こちらシャトル860、護衛機、レーダーに別の機影を捉えた。そっちのレーダーには以上はないか?」 通信相手は船を護衛する3機のファイターである。 『こちらアール1、こちらのレーダーに異常は見られません。』 『こちらアール2、異常は無しです。』 『こちらアール3、同じく異常はありません。しかし、こちらのレーダーはそちらのシャトルより補足範囲が狭いですので、 念のため私が確認してきます。』 「たのんだアール3」 少佐はマイクを置くと、レーダーを再び凝視した。 未確認の機影はほぼ見方のファイターと同じくらいの大きさであるという事くらいしかわからない。 詳しい性能や機体名はまったく情報として入ってこない。その時、コックピットにノイズが走った。 『こちらアール3!攻撃を受けてます!敵は1機!ですが、とても・・・!・・・』 そして声が消えてノイズがとって変わった。 「やばいぞ!通信をつなげ!」 少佐が怒鳴りながらマイクを取る。通信相手は軍の司令部である。 『こちらベース0、シャトル860、そちらの機影はキャッチしている。異変か?』 これはまずいことになった。司令部は気づいていない。 「緊急事態だ。護衛機の一機が撃墜された。護衛機が撃墜された地点の座標を送る」 少佐がそういって脇の兵士がキーボードをいじくる。 アール3が撃墜された地点の座標が司令部へと送られた。 『その座標の周辺をレーダーで検索した。確かに未確認の機影を確認。待機中の・・・』 『こちらアール2!』 司令部からの声がと入れる前に、アール2パイロットの声が割って入った。 「どうした!?」 『敵機を確認!あいつは・・・!!!』 そして沈黙。 「司令部!また護衛が!」 少佐がたまらずマイクに叫ぶ。 『レーダーで確認した。シャトル860、何とか生き延びろ!』 「そんなこといわれても!・・・」 そのとき、シャトルが大きく揺れた。コックピットの兵士達が大きくよろける。 「少佐!敵機にケツを取られました!」 「少佐!敵のレーザーが!!」 『こちらアール1!シャトルの背後に敵機です!撃墜します!』 アール1パイロットと、レーダー兵が続けて叫ぶ。 『くそ!敵の動きはまるでコンピュータのバグのようにすさまじい動きです!全く攻撃があたりません!』 「なんだと!・・・皆、体勢を保て!回避行動だ!」 そう少佐が叫んだ直後、衝撃が走りコックピットは熱気に包まれた。 シャトル860は何者かに撃墜された。 |