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日常・・・

日常・・・

第五章 【出会い】

首都惑星リカルアの第3衛星、オリアに反乱軍から攻撃予告が届いた。
オリア住民は避難を続けていたが、ついに統一軍のシャトル860が撃墜されてしまった。
その情報は軍を通じて、全ネットワークに配信された。


『緊急事態です。衛星オリアからの避難船が撃墜されました。位置はオリアからリカルアまでの距離でいうと・・・』
第21小隊の面々は、アナウンサーがこの言葉を何回も繰り返しているのを<マザー>のテレビで見ていた。
ここはハースホールといい、映画館のように大きなスクリーンが壁にいくつも設置されている。
ソファやテーブルなども置いてあり、隊員が<マザー>に帰還して別の部隊の隊員とばか話や雑談したりする中心的なスペースだ。
ちなみのそのようなホールは5つ設けられていて隊員があふれることもない。
「これマジかねぇ」
そんなハースホールで流れている緊急ニュースをみながら、ザックが呟いた。
「マジだとしたら、俺たちも緊急集会がもうすぐあるな。」
アダムがテーブルにひじをつけながらいう。
「入隊試験の方はどうなるんでしょう?」
続けてメリルがいった。それにエクスが答える。
「多分騒がしくない所をみると普通に行われているんだろう。一服したら様子を見に行くとしよう」




ドルジは入隊希望者の食事が終わったところで呼び出しを受けた。
通話端末コネクターに通信が入っている。相手はSSF最高司令官である。
「もしもしすいません、何か用でしょうか?」
ドルジが言うと、通話相手の最高司令官は驚いたような声を出した。
『お前、ニュースを見ていないのか!?』
その声にドルジがきょろきょろする。
丁度別の部屋のモニターがチラッと見える。
「マジか・・・」
そこには”避難中のシャトル撃ち落される”との見出しが大きく出ていて、アナウンサーが慌しく喋っている。
『見たか?』
「はい、見ました。いつ頃の話なんですか?」
『丁度10分くらい前からニュースが流れている。軍が情報を流したのが先か、偶然カメラに映ったやつを流したのが
先かはわからないが、ざっと20分くらい前の出来事だろう。』
最高司令官が冷静に語る。
「それで・・・軍はどう対処をしたんですか?」
ドルジが今まで以上に深刻な顔つきになって質問する。
『詳しい事は分からん。避難シャトルは中止して、オリアの地下シェルターに避難させることになったくらいしか。
そして今まで以上にリカルア住民は怯えているだろう。なんせ避難民の乗ったシャトルが撃墜されたんだ。
いつ攻撃されてもおかしくはない。』
それを聞いたドルジは、ひとつ間をあけてから再び質問した。
「この件で、SSFはどう動く予定ですか?」
『とりあえず<マザー>にいる部隊はいつでも動けるように待機させる。軍からの協力要請、
政府からの出撃命令、またオリアが攻撃されたら即急に動けるようにさせる予定だ。』
「入隊試験の方は?」
『・・・既に筆記試験は終えたのだろう。だったら、明日のうちに実技試験も行え。・・・ただ、このような状況だ。
それから先のことはまた考える・・・それでは、ドルジ、試験の方は任せた。』
最高司令官はそういって通話を終了した。
さすがのあの人も、そうとう焦っていたようだとドルジは痛感した。




銀河統一軍は騒がしかった。
住民が乗ったシャトルが撃墜されたのだ。
ファイター部隊を総動員して、シャトルを撃墜した敵戦闘機を探している。
そこに宇宙空間を飛び交う一機の軍の戦闘機があった。
「こちらアール1、捜索部隊と合流する」
軍のファイターのパイロットはそういって、たった今撃墜現場にやってきた敵機捜索部隊に合流した。
撃墜されたシャトル860を護衛していた戦闘機のうち、生き残った1機である。
『こちら捜索部隊の隊長機、カイザ1だ。アール1、合流を確認した。まずは敵機の情報を頼む』
アール1のコックピットにそう声が響く。
「ああ、敵は先端、前方方向がとてもとがっていた・・・そしてかなりコンパクトな小さな機体だった。
あと、これは見た目ではないがとても素早い動きだった。もう人間業じゃなかったな。
それと、私が指示するのもあれだが、撃墜されたのは30分ほど前になるはずだ。だから敵機が
ここら辺をうろちょろしているとは思えない。」
パイロットがそういうと、再び通信が返ってくる。
『情報提供感謝する。』
「それと・・・もう一つ気になったんだが・・・」
『どうした?』
アール1パイロットは考え込むようにしながら口を開いた。
「・・・あの機体には・・・たしか窓がなかったような気がするんだ・・・」
『つまり・・・?』
「外が見えないから中でコンピュータ操縦するか・・・パイロットが乗っていないかのどちらかだと思う。
・・・まぁ、かなり特徴的な機体だ。ここら辺に潜んでいるとしたら、発見は難しくはないだろう」
パイロットは「捕らえられるかどうかは別として」というのを心の中で付け足した。
余計な説明は不要だ。おそらく、捜索班の面々はそんなことくらい分かっているだろう。
『分かった。それでは、各機捜索を開始せよ』
カイザ1の一言で、宇宙空間のファイター達は八方に広がった。




ロイは入浴に向かっていた。
あえて入浴時間ギリギリに行って一通り皆入浴し終えたあとを狙った。
このSSF本部<マザー>は誰が導入したか知らないが、広い大浴場があり温泉成分まで入っているのだ。
ロイは衣服を脱いて大浴場に入った。
「ほんとに広いな・・・」
ロイが浴場への扉を開いて呟いた。その後彼は湯船に入ろうとした。
その前に目に何かが飛び込む。

【 心得五箇条

一 湯船に浸かる前に体をシャワーで流すべし
ニ タオルを湯船につけるな
三 飲食は禁止!
四 階級はここでは関係なし
五 湯船内で小便は厳禁(処罰対象)

以上】

「細かいなぁおい」
温泉という慣れないシステムにロイは戸惑いながら、シャワーの方へと向かった。




第21小隊の面々は入隊希望者達が集まる多目的ホールに来ていた。
丁度入浴時間と被っているので入浴に向かう者、戻って来る者で出入りが激しい。
そしてよく見ると、別の部隊も入隊希望者の視察に来ているらしく、厳しい顔の大人たちがあちらこちらにいる。
そのとき、別の場所に行っていたエクスが戻ってきた。
「入浴時間はあと15分で終わるらしい。それまで今いる奴の視察といこうか」
エクスがそういい後ろを向いた。が、その直後にザックがわめきだした。
「ちょっとまてエクス!」
「お前なぁ・・・隊長に向かって呼び捨てとか・・・」
アダムが呆れながら言うが、ザックは続けた。
「風呂場までいこうぜ」
その言葉に、第21小隊全員がザックを見た。
「なんという」
「それはどういう作戦だ、ザック」
エクスが咳払いをしながらザックを見つめ返した。それにザックは、同じように咳払いをして答える。
「アピールですよ、アピール。というか、溶け込んでもらうため!ってとこですよ。例えば、
今風呂場には今回の試験で1位になる人材がいるかもしれない!それを!!・・・我が小隊が獲得する!
しかしぃ・・・彼は慣れない環境のため本気が出せずにSSFをやめる・・・という事態に陥らないよう、
今から俺らの顔を覚えててもらえば、「あ、あの時の~」ってなって早く溶け込めるもだろ?」
ザックがドヤ顔で全員を見る。
「う~ン・・・あんまり・・・」
「いや、さいこうだ!」
メリルが否定しかけた時、そう叫んだのはエクスであった。
「ですよね!エクス隊長様様!」
ザックがエクスに駆け寄ってそう叫ぶ。
「なら早速風呂場へGOだ!」
エクスとザックは多目的ホールを駆け出していった。
エクス隊長、見た目こそガッシリとしたまさに戦士だが、内面はまだ男子中学生である。
そしてもちろん今のやり取りはつつぬけである。
「・・・アダムさん、ベンさん・・・私とても恥ずかしいです・・・」
メリルが静かに呟く。
「大丈夫、ザックはああいうもんだ。」
「エクスもああいうもんだ・・・・・・・多分な」
アダムとベンも、かなり小さな声でしかフォローが出来なかった。




ロイは温泉に浸かっていた。体を洗い終え、ゆっくりと体を伸ばす。
1日の疲れが温泉に染み出していくように、急にロイは眠くなってきた。
「ダメだ!・・・ねちゃダメだ・・・」
ロイはそう自分に言い聞かせて、これから予定されている明日の説明会にむけて気合を入れた。
そしてゆっくりと目を閉じる。つい昨日まで、辺境の星にいたのが嘘のようだ。
もう何日もこの首都惑星リカルアにいるような気がする。
「・・・ハァ・・・コレからどうなるんだ・・・」
ロイがそう思っていると、不意に扉が開いた。
「Yo!Yo!未来のSSF隊員諸君!」
突然広い大浴場いっぱいに響く声がしたので、湯船にいたロイ含め、数名の入隊希望者が一斉に目を向ける。
立っていたのは顔に十字の傷をつけた年上の男・・・ざっと30歳くらいだろうか・・・いや、それより若そうだ・・・
その男は大またを広げ片手を突き上げた。
「諸君、我々は君たちのような勇敢で優秀な兵力を必要としている!明日の実技は特に力を入れること!」
補足するが、もちろん風呂場なので素っ裸である。ロイはちょっと尊敬の目で見る反面、案の定引いた。
「ちょっとそこの微妙にイケメン」
傷の男はそういいながら、ロイの方を指差した。
「・・・なんですか?」
「その桶をとってくれないか」
ロイは”微妙に”イケメンという表現に引っかかりながら湯船の近くに転がっていた桶を滑らせて
入り口近くに立つ傷の男のもとへと滑らせた。
「サンキュー。とにかく、明日は頑張れ。君たちにも未来は待っている・・・ぜぇぇぇぇ!」
なんということだろうか!
将来的に先輩になるかもしれないその男は、桶にのって床を滑り出したではないか。
もちろん浴室の床なので、水も滴っているのでよく滑ってはいるが。
「よろしくな!ちなみに・・・」
「あまいわぁ!!!!!」
傷の男がようやく静かになりかけたとき、再び浴場一杯に声が響いた。
しかも今度は野太くて低い男の声だ。
「ザック!お前もまだまだアピールが足りんな」
そういって入ってきたのはかなりがたいのいい体格、そしてかなり年配でまさに戦士といった感じの男だ。
「げっ、エクス隊長!」
先に浴室をすべりまわっていた傷の男が慌てたような声を上げる。
「隊長は俺のアピールが終わったら入ってくる約束でしたって!何で途中で来るんですか!」
「お前のアピールが足りなすぎるからだ。もう少しSSFの事を詳しく教えないとダメじゃないか」
そういうといかつい男 ―入隊前の未熟者が”男”と呼ぶのは生意気すぎるが― は傷の男を抱きかかえる。
・・・一応言っておくが、やはり風呂場なので素っ裸である。
「ちょw何するんですか。ガチで小隊から抜け・・・」
「ちょっと君たち、どいてくれないか?」
じたばたする傷の男を抱えたいかつい男は、湯船に浸かりポカーンとしている数名の入隊希望者にそういった。
もちろん(おそらく)大先輩の命令に従いロイもささっと湯船を出る。
「SSF入隊祈願の花火を見せてあげよう」
痛い、痛すぎる。ロイは心でそう思っていた。
「隊長?まさか、あのぉ・・・ちょっと!!!」
傷の男が慌てだすが、隊長と呼ばれる男は思い切り反動をつけると、
「皆の入隊を願って~~~とおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
と言って傷の男を広い湯船に投げ入れてしまった。
そして壮大な水しぶきがあがる。まさにそれは入隊祈願の花火・・・なのだろうか・・・
しばらくして傷の男が顔を出した。
「痛!いででででで!!意外と浅い!この湯船!・・・」
「皆、是非明日の実技試験も頑張り、SSFに入隊してくれ。頑張れよ」
いかつい男はそういって大浴場を後にした。
ロイや他の入隊希望者もポカーンとしていた。そりゃする。
しかし我に帰ると、明日の説明会のことを思い出し、あたふたと大浴場を後にした。
ひとり残された傷の男、ザックは腰を押さえながら、しばらく後に大浴場を後にした。

これがロイと彼らの初めての出会いになるとは、知る由もなかった。・・・なかった。




「馬鹿か。ほんとに・・・」
アダムがザックの背中にシップを貼りながら言う。
それを聞いたザックは、珍しく真面目な顔で訴えかけた。
「俺は作戦通りにやっただけだぜ。少しでも奴らにSSFはこんなにいい所、ってことを教えようとしたんだ。そしたら・・・」
「その作戦自体がおかしかったってこと風呂場の外でベン大尉と話してたの、しらなかったか?」
アダムが嫌味っぽくいい、最後にシップを貼った背中をぽんと叩く。
「あいた!・・・くぅ~いてぇ・・・」
「お前、怪我の原因が所属する部隊の隊長に湯船に投げられた、ってSSF始まって以降初めてのことだと思うぞ」
アダムは最後にそういって救急箱を閉じると、部屋を出て行った。
ザックはしばらく1人で考え事をしていたが、5分ちょっと経ったところでアダムが飛び込んできた。
先ほどの馬鹿にしたような呆れる表情じゃなく、かなり緊急事態のような顔をしている。
「ザック!ニュース観たか!?」
「ん?見ての通り見てませんが。見ての通り見てない?・・・これって言い回し面白くね?」
「そんなことより早く電源いれてくれ!」
ザックの話を無視したアダムが強く言うので、ザックは2Dテレビの電源を入れた。
薄いスクリーンに現れたのはニュースキャスターだった。
緊急ニュース、と銘打ってある。先ほどの撃墜事件の報道と同じ感じである。
しかし、内容は完全に違っていた。
『先ほどオリアからの避難船が撃墜された事件で、船を襲ったとみられるファイターが捕らえられました』
「なんだって!」
報道内容を聞いたザックは大声を上げた。しかし、アダムに静かにしろとジェスチャーされて黙る。
『詳しい情報は入ってませんが、そのファイターはちょうど事件現場から数百ビート離れた地点で放棄されており、
パイロットの姿は確認できなかったようです。そのため、そのファイターは無人機ではないかと言う情報も入っており・・・』
「無人機だって?」
今度はアダムが驚きの声を上げた。
「無人機って、10年前に暴走事故を起こしてまだ研究機関が原因解明中じゃなかったか?」
「そうだったな。それ以来一般じゃもちろん、SSFや軍でさえ使用禁止されてたんだっけか」
2人はそういう会話を交わしたあと、再びTVに耳を傾けた。
しかし、情報はまだ錯綜中らしく、同じ情報の繰り返しだ。
そのとき、二人がいた部屋にメリルが飛び込んできた。
「やっぱりここにいましたね!」
ちなみに二人がいるのは簡易治療室である。そうSSF本部で怪我をするものなどおらず、他には誰もいない。
「メリルちゃん、ニュース見たか?」
ザックが聞くと、メリルは即答する。
「はい、見ましたよ。それより大変です。エクス隊長がSSFの軍事作戦会議に集められました。」
「・・・とすると、かなりの緊急事態なんだろう」
普通、軍事作戦会議はお偉いさん方で行うものだが、エクスが招集されたので各部隊の隊長が集められているようだ。
「ですよね。かなり緊急事態ですよね」
メリルはどことなく口数が多い。さすがにこの事態に慌てているのかもしれないと2人は思った。
「ところで・・・入隊試験の方はどうなったんだ?」
ザックが気分を切り替えるつもりで言う。
「さぁな。でも試験監督達も招集されたんじゃないか?」
「だよなぁ」
ザックとアダムがそういう会話を交わす。メリルは近くの椅子に座り、3人でひたすら情報を待った。




ロイは大浴場から出ると、急いで多目的ホールへと向かった。
20時からの明日の説明会、遅れたら態度面の評価で大減点が待っているだろう。
そんなロイが多目的ホールへと戻ってきたのはちょうど1分前であった。
ほとんどの入隊希望者が静かにして、恐らく現れるであろう総監督ドルジ・パーソンをまっていた。
しかし、予定の時間より5分以上経ってもドルジ・パーソンは現れない。
むしろ、どんどん多目的ホールに下見に来ていた隊員たちが減ってきている。
「何があるんだ?」
「緊急事態か?」
そんな声があちらこちらから聞こえる。
この多目的ホールにはテレビもなければネットも通じていない。
しかも外部との接続手段であるコネクターは試験終了までSSF本部に預けてあるため外の情報は全く入ってこないのだ。
ロイはどこか、SSFに不安を感じるようになっていた。




「招集命令のあった各部隊の隊長は集まったかな?」
そのドルジ・パーソンは、ひときわ大きいホールにいた。
ホールの内部にはスタジアムの観客席のようなものが一回り広がり、ドルジは下の平面部の中央にいた。
「時間だな。招集完了シグナルを」
そうドルジがマイクに言う。すると、ドルジが持ってる小さなスクリーンに各部隊の名前が入っていく。
無事に<マザー>にきている各部隊の隊長の名前が全員はいると、ドルジは浮き上がった。
厳密には、ドルジが乗っていた小さな丸い円盤のような台が浮き上がったのだが。
ドルジはホールの中央で浮いたまま話し始めた。
「いいですか、これからとても重要なことを話します」
ドルジは咳払いしながらインカムに向かって話すと、ホール中に声が響き渡った。
「先ほど衛星オリアから飛び立った輸送船が撃墜された事件・・・それを撃墜したであろう機体を軍が回収しました」
ドルジがそういうと、ホールが暗くなる。そしてドルジが合図するとホール中央にホログラムのスクリーンが現れた。
そこには、言葉通り軍によって回収された機体が映っている。
「一見普通の戦闘機でしょう。でも、クローズアップすると・・・」
ドルジの言葉でスクリーンの戦闘機がアップされる。
「見てください。コックピットが見当たらないのが分かりますか?恐らくこれは、無人機です」
ドルジが言うと、ホール中の部隊長達はざわめきだした。


「コックピットが見当たらないのが分かりますか?恐らくこれは、無人機です」
その言葉に、エクスはスクリーンの戦闘機を凝視した。
たしかにコックピットはない。ただ内部からレーダー探知をしながら飛行する戦闘機だってある。
エクスは手を上げて大声をだした。
「ちょっと気になるんだが!」
中心にいるドルジ含め、ホールにいる全員がエクスに注目する。
「なんでしょうか!?」
「無人機って何年も前に暴走事故を起こして開発と使用禁止されたよな!それで軍の技術部が再開発中だとか。
そんな無人機を、どこから金が出てくるかも分からないレジスタンス共が創りあげるわけないと思うがね!」
エクスは大声で言った後に、ドルジの反応を待った。が、返答はそっけなかった。
「それが謎なんですよ。」
ドルジがそういうと、ホールは明るくなり、ホログラムのスクリーンも消えた。
「確かに無人機は開発も製造も禁止されている。エクス小隊長の意見どおり。そう考えると無人機なんてありえないんですよね。
でもですよ、皆さん、もしあの反乱分子レジスタンスが無人機を作れるほどの科学力を手にしているとしたら・・・」
ドルジの言葉は、ホール全体に響き渡った。
「・・・・・まぁ、もちろん仮定での話です。まだ詳しい事はわかってません。詳細が分かったらまたお知らせします。」




エクスはホールを後にした。
信じられん、まさか我々の従う政治にはむかう奴らが、我々より優れた軍事力と、科学力を持っている可能性があるとは・・・
さっきまで燃えていた自信は消え、一気に不安も流れ込んできた。
あくまで仮定での話し・・・そう頭に刷り込ませておかないと落ち着いてはいられない。
こんな事は今までの経験の中で始めてだ。首都惑星が攻撃されるから・・・前代未聞の事態だから・・・先制攻撃を仕掛けられたから・・・
理由は分からないが、嫌な予感がすることに変わりはない。
彼は通話端末コネクターを取り出した。唯一の家族にコネクトする。
エクスがとりあえず人気のない廊下の壁にもたれたとき、コネクト相手の声が漏れた。
『おじさん、こんな時間に何の用・・・?』
相手は女性である。声からは年齢は判断つかないが、まだ少女といえる年齢である事は想像できる。
「あ、すまない、起こしたか?」
相手の少女は相当眠そうである。まだ21時を過ぎたばかりであるのに、なぜだろうか。
『明日は朝早くからフリースカイフライングの実習なんだ』
少女はそう告げる。といっても攻撃予告が出ているから、そんな実習は中止だろうが。
そんなことを思っていると、少女の方が先に言葉を発してきた。
『ニュースで見たけどオリアに攻撃予告が出てるんだってね。おじさん、リカルアは大丈夫だよね?』
彼女はリカルアの都市部、エリア9に該当する地区に住んでいる。エクスは考え抜いて返答した。
「ああ、大丈夫だろう。実際に撃墜されたシャトルもオリアの経済宙域だった。レジスタンスもフェアな奴らだ、
実際に攻撃を行うとしても、リカルア本星には攻撃は行わないはずだ。」
エクスは正直、衛星のオリアのみならず本星のリカルアも攻撃してくる可能性のほうが大きいと考えている。
しかし、ここは年長者の心配りだ。相手を安心させるため優しい声で呟いた。
「大丈夫だ。心配しないで、明日のために早く寝るんだぞ」
『分かった。おじさんも気をつけて』
相手の少女はそう言うと、一旦は通話が終了しかけた。しかし、思い出したかのように再び少女の声がコネクターから漏れた。
『あ、結局用事は何だったの?』
エクスは慌ててコネクターを口に持っていると、即座に返事をした。
「いや、久々に帰ってこれたんで家に寄ろうとしたんだが・・・政府が非常事態宣言まで出してしまった・・・
だから、今回も帰れない。すまないな、リン」
エクスが暗いトーンで言うと、相手の少女は静かに返答した。
『そうなんだ・・・じゃあ、頑張って』
今度は確実に通話が終了した。エクスはコネクターをしまうと、近くにある窓に近づく。
SSF母船<マザー>は浮遊する球状の要塞である。窓のから下をのぞくと上空1000m以上からの首都惑星リカルアの夜景が眺められる。
正面をみれば<マザー>より小柄ながら同じような浮遊要塞がいくつも見られる。巨大企業や一部の省庁のものだ。
ふと、背後に気配を感じ、振向くと反対側の壁にベンがもたれかかっていた。
「おっと、いつからそこにいた?」
少し驚いたエクスが、慌ててベンに向き直る。
「いや、リンちゃんに帰れないって報告をした当たりからだな」
腕を組みながらベンが言う。そしてエクスに歩み寄ってきた。
「思ってるのか?今回の騒動がただ事じゃないって」
ベンはエクスの前に立つと、彼の目を眺めた。エクスは頷く。
「ああ。今回の攻撃予告、もし抑え込んだとしてもこの先、奴らがどう動いてくるか・・・ってことだ。
多分、以前より挑発してくるだろう。そして、全面戦争になる日も遠くはないはずだ」
エクスはベンから目をそらし、再び窓の外を見た。
ベンはゆっくり頷くと、「じゃあな」と言って立ち去った。
上空1000mからのリアルアの夜景は綺麗だ。あまりにも綺麗すぎる。
しかしこの夜景が、近い将来見れなくなる事態になるかもしれない。エクスは唇を噛んだ。


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