momokoの*Tinierタブロイド・創刊号

2014/12/03(水)21:42

「人は悪夢で死ぬことがあるのか?」眠れない夜に読む「夜驚症」についてのお話

病気(81)

「人は悪夢で死ぬことがあるのか?」眠れない夜に読む「夜驚症」についてのお話 ι コメント(34) ι 知る ι 人類 ι #  真夜中、自分の部屋に何かがいるような気がして飛び起き、クローゼットの中にうずくまる。何かが靴の棚の後ろにいるが、何だか得体が知れない。早く逃げなくては死んでしまうとパニックに陥る。目覚めると、飼っている犬が隅でうずくまり、部屋はめちゃくちゃだった。このようなことが何年も続き、眠るのが怖くなった。  誰かに見張られている。息を殺してじっとしていないと、死ぬ。彼らに動いたのがばれたら、殺される。  巨大なゴキブリやネズミがベッドにいたので、叫び声をあげる。一緒に寝ていたボーイフレンドが目を覚ましたので、そのことを伝えると、いなくなっていた。壁、天井、床がゆっくりと迫ってきて、押しつぶされそうになる。逃げ出さないと息ができなくなる。  こういったことが夜になると起こるのだ。     2010年、35歳の芸術家が首を吊って死んだ。明るいごく普通の人間で、精神病暦もなかったが、睡眠障害に苦しんでいて、寝ている間に物を壊すなどの暴力行動があった。これは夜間恐怖(夜驚症)というもので、子供に多く見られる症状で、成長するにつれて少なくなっていくが、大人にも3%くらいの割合で見られるという。       夜中に急に叫び声をあげながら眠りから覚め、呼吸が荒く、心拍が増してパニック状態になる。夜驚症と悪夢の違いは、夜驚症はレム睡眠が始まる前の徐波睡眠の時に起こり、悪夢はレム睡眠の時に起こる。夜驚症は夢ではなく、半分目覚めていて、半分意識がある状態なのだ。       これは、睡眠障害の中の覚醒障害の分類に入る。急な目覚めが繰り返され、たいてい眠りの最初の3分の1の間に起きる。パニックに陥った叫び声と共に始まり、強い恐怖と自律神経系の覚醒、つまり瞳孔拡張、頻脈、速い呼吸、急速な発汗が見られる。             夜驚症に苦しんでいる人たちは、息が詰まって、死んでしまいそうな感覚になったり、誰かが部屋の中にいるような気がしたり、だいたい似たような状態を訴えている。自殺した芸術家の例を考えると、仕事に忙殺されている時に、よくこの症状が現われ、寝ても、夢遊病のような眠りで、ちゃんと横になって眠っていないので、よけい疲れてストレスがたまるという悪循環になっていたという。       死が恐怖から逃れる唯一の方法だったようだが、自殺すらも、睡眠時異常行動の偽の自殺だと考えられ、いわゆる死のうという意思をもった自殺なのかはわからない。       ある夢遊病者の脳の活動を調べたところ、感情的に覚醒し、体は動き、判断力、理性的思考、内省力も高いが、記憶力は眠っていたという。彼らは混沌とした、中間的なものにとらわれていて、脳スキャンやその行動から、半分起きて、半分眠っている状態なのがわかる。脳の前頭葉は働いておらず、恐怖や危険といった基本的な刺激に集中しているだけだ。       自殺するほど深刻な症状でなくとも、さらに悪くならないとは限らない。寝ている間に何が起こっているのか、睡眠専門の医者で調べてもらっても、異常はなく、抗てんかん剤の薬を処方されるだけで、夜驚症の症状は改善されなかというケースもある。             私たちは、眠りに興味を持ち、眠っている間に何が起こっているのか、ずっと研究されているが、まだよくわかっていない。       プルタルコスは、睡りは誰も知らない深い自我なのだと言う。ハムレットは、眠りとは死ぬ運命にある生き物にとって死に一番近いものだという。古代メソポタミアやエジプトでは、眠りを瀉血や薬草などと同じ治療として発展させ、夢の分析を初めて試みた。ギルガメッシュ叙事詩にも、夢の解釈をする場面がある。アリストテレスは夢に興味を持ち、消化が完了すると、眠りから目覚めると結論づけた。ユダヤ人哲学者のマイモニデスは、12世紀に正しい眠り方というようなガイドラインをまとめた。シェークスピアのマクベス、オテロなどにも眠りのテーマが使われている。       初めて眠りに関する科学的な実験が行われたのは、18世紀のこと。フランスの物理学者が、植物と暗室で実験をして、人間には概日リズムが存在するという説を導き出した。わたしたちの体は24時間のサイクルに支配されていて、完全に真っ暗な部屋でも、体内時計がちゃんと働くという。             何千年もの間、人間は眠りの魅力にひきつけられてきたとはいえ、それで必ずしも理解が進んだかというわけでもない。フロイトとユングは近代の夢分析時代の先駆けとなった。       ふたりは、夢は、起きているときには立ち向かえない物事を扱う方法なのだという。1920年代には、スイスの精神科医ハンス・ベルガーが、脳波を発見し、電極を使って脳内の活動を追うことで、睡眠の科学的な測定ができるようになった。       1952年には、急速眼球運動(REM)が認められ、夢はこのレム睡眠の間にみることがわかった。初期の睡眠研究所は、睡眠障害についての研究はあまりせず、もっぱら睡眠のパターン研究に時間を費やした。専門的な睡眠医学が確立したのは比較的新しく、睡眠の詳細が解明され始めたのは、ここ20~30年のことだ。       睡眠研究は、睡眠障害を抱える人が増え、それに注目した製薬産業によって盛んになった。不眠症には、睡眠薬が処方されるが、その種類はさまざまに変遷してきている。最近の研究では、睡眠補助剤の常用者は、ガンや心臓疾患のリスクが高くなるという研究結果も出ている。             製薬会社が睡眠研究を支え、促進しているとはいえ、それは主に不眠、睡眠時無呼吸や、むずむず脚症候群などの研究に偏っている。夜驚症は優先順位が低く、世間の理解も、研究も進んでいないのが現状だ。てんかん研究がこの研究の助けになるだろうという説もあり、睡眠時異常行動の心理学的な原因に大きく注目する研究者もいる。      不安が高ずると、ホルモンに影響が出て、細網内皮系の覚醒を引き起こし、それが夜驚症の原因になっているのではないかという仮説がある。ミネソタ多面人格テストを使って、夜驚症の患者を検査してみると、攻撃性の表出の抑制、自尊心の欠如、不安症、憂鬱症、恐怖症という特徴があるという。普段はいい人間なのに、愛する人を攻撃したり、物を破壊したり、自分を傷つけたりする。      心的外傷ストレス障害や、人格障害もなく、極限状態に陥ったこともなく、実生活において得にストレスや不安を感じたことのない人間が、夜驚症を発症するのは、夜のパニックは、昼間のパニックと関係しているからだ   という。昼間には意識していない(立ち向かっていない)抑圧された不安が、夜、トラウマとなって脳内に現われるのだ。自分ではたいしたことではないと思っていた些細な出来事が、案外大きなストレスになっている場合があるようだ。生きている以上、ストレスをすべて避けるわけにはいかないため、夜驚症は完全には治らないかもしれないが、うまくつきあっていくしかないのだろう。       夜驚症再現映像      人間に適した睡眠パターンは「二度寝」だった?(米研究)         血液から簡単に「体内時間」を知る方法が開発される(日本研究)         「心の傷を治すのは時間ではなく睡眠」 レム睡眠中夢を見ることで心を癒す効果が検証される(米研究)  

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