「カノン - 緑が呼ぶだろう -」 11
「カノン - 緑が呼ぶだろう -」GUIDE No.1~No.10清渓川(チョンゲチョン)でビオトープを見学する留学生たち。韓国語のレッスン。レポートの作成。ホームステイ先の家族との生活。留学生やチューターたちが持ち込む問題を整理・解決したり、関係各所との打ち合わせに忙しいカノン。ジンもテウも、皆がそれぞれの仕事に打ち込む日々が続いた。18時半。教授の部屋から腕時計を気にしながらカノンが出てくる。鍵をかけていると、愛が大きなカバンを背負ってやってきた。その後ろから、相変わらず仏頂面の高橋がついてくる。「あれ、カノンさん、もうお帰りですか?」「愛さん、どうしたの? その荷物」「でかけたついでに南大門でお買い物してきちゃった♪」「高橋君、あなたが持ってあげなくちゃ」カノンが愛の荷物を高橋に渡そうとする。愛はカバンをひったくるようにカノンの手から取り返した。「いいんです! 自分で持てますから!」愛はちらっと高橋を見たが、すぐに目をそらせた。少し言いにくそうに、カノンだけに聞こえるように顔を寄せてしゃべる。「持ってもらわなくちゃいけない訳じゃないでしょう?」「愛さん・・・?」「だって、どうにも気が合わないんだもん・・・」カノンはやれやれと苦笑しながら二人の間に立って歩いた。階段を降りる途中でカノンの携帯が鳴った。「テウ先輩。ちょうど今出たところです。はい、それじゃバス停で」愛が敏感に反応し、意味深な表情で聞いてきた。「カノンさんはこれからデートなんですか?」「デートなんかじゃないのよ。 チューターのチョンウさんの誕生日が来週だから、CDを買いに行くの」「そういうの、デートって言うんじゃないんですか!?」横から高橋が鋭く突っ込む。「あの、別につきあってる訳じゃないし」あわてて手を振るカノン。しかし、あまり強く否定するのも変な気がして手をおろす。3人の間に微妙な空気が流れた。「カノンさん、もっと正直に生きないと。 あたし、そんなの損だと思うわ」「木ノ下さんはストレートすぎると思うけどね」「それが何か? あたしがストレートで高橋君に迷惑かけたかしら?」「ちょ、ちょっと待って・・・」カノンが二人の間に割って入った。バス停で待っているテウ。カノンを見つけて手を挙げるが、意外な表情になる。「すいません、テウ先輩。この二人も一緒にいいですか? ついでに送って行きたいので」「あぁ、いいけど・・・」そう答えつつも、テウは明らかにがっかりしていた。『ここにも正直に生きられない人が・・・』「え?」「いいえ、何でもありません」愛は日本語でつぶやいたため、テウだけがわからなかった。新村(シンチョン)のCDショップ。カノンはテウがすすめるジャケットをながめ、説明を聞きながら選んでいる。ガラスの仕切りの奥では、愛と高橋がドラマのDVD-BOXを見ていた。「叔母さんが韓ドラファンなのよね。おみやげにするなら日本に無いやつがいいな」「字幕なしじゃ、何しゃべってるかわかんないだろ?」「うちの叔母さん、読み書きはできないけど、ヒアリングはできるのよ」「へぇ!? 好きこそってやつか」洋楽のコーナーからそんな二人の様子を見て、カノンがくすっと笑ってしまう。「どうしたの?」「あ、いえ、あの二人、文句言いながらも仲がいいなって」「あぁ、そうだね。愛さんはまったく眼中にないみたいだけど」「そうなのかしら? 案外気が合うみたいですよ?」「恋愛対象じゃなくて、男友達のひとりってところだろうな」「そうなんですか・・・!?」テウはカノンの顔を見た。そして軽くため息をついた。「えっ!?」カノンが急にうつむき、挙動不審な様子でいくつかCDを手に取った。順に見ては棚に戻していく。顔は上げず、視線だけ上げたかと思えばさっとそらす。「カノンさん?」「いえ、なんでも・・・」一歩下がり、テウの影から向こう側をそっと伺う。クラシックのコーナーに、メジャーリーグのキャップを被った男がいた。うぐいす色のMA-1ジャケットに濃い色のサングラス。無精ひげと乱れた髪。おそらく30代後半。CDを手に取っては戻し、時折カノンたちのほうをちらっと見る。「テウ先輩、あの方、お知り合いですか?」テウがカノンの視線をたどり、男のほうを見る。男は慌てて背中を向け、そそくさと店を出て行った。「今の人? 知らない人だったなぁ。 僕の知り合いなら声かけてくれるだろうし」「そうですか・・・じゃぁ、あの人が私たちのどちらかを 知り合いと見間違えたのかもしれませんね」カノンは笑顔をテウに向け、またCD選びに戻った。テウは男のことが少し気になり、出入り口の自動ドアを見ていたが、カノンに袖をひっぱられ、それきり忘れてしまった。4人が地下のCDショップから出てきて、信号が変わるのを待っている。信号待ちをしている人々には大学生らしき若者が多い。カノンはその中に、さっき見たメジャーリーグのキャップを見つけた。男はカノンの視線を避けるように、ふたりの間に立つ大学生の影に隠れた。地下鉄ホーム。5,6メートルほど離れたところにキャップが見え隠れしている。轟音と共に地下鉄が滑り込むと、男は隣のドアから乗り込んだ。「あ、お店に忘れ物してきちゃいました!」カノンは閉じる寸前のドアをすり抜け、ホームに戻った。驚いた表情でドアに張り付き、カノンを見送る3人。カノンは笑顔で3人に手を振る。その前を隣の車両が通り過ぎていく。乗客に隠れて顔は見えなかったが、男が慌てているのがわかった。カノンは次の列車の到着を待たずに地上へ出た。タクシーを停め、乗り込む。窓の外をカラフルなネオンが流れていく。「誰なんだろう・・・」気味の悪さが不安に変わる。カノンは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出して鼓動を落ち着かせようとした。携帯を取り出し、テウにメールを打つ。『タクシーで帰ります。ふたりのこと、お願いします』送信ランプが点滅する。それを見ながら、もう一度ゆっくりと深呼吸をした。-- To be continued --★次回も読むよ~という方、ポチっとクリックお願いします☆よろしければ、このお話の感想をコメント欄へお寄せください(^-^/LBHcafe きつね雑貨市in楽天 / きつね雑貨市本店