芥川賞候補作「パン焼けぬ」1
地球から100000光年さきのとある惑星には、地球人からは想像を絶するようような世界が広がっているという伝説がある。その伝説を広めたのは、車、船、飛行機、宇宙ロケットなどあらゆる乗り物を一人で、設計から開発までしてしまう大天才エンジニアの中年男であった。天才エンジニアではあるのだが、彼はそれで生計を立てているのではなく、驚くことにパン屋として働いている。彼を知るものは一様に、何故天才的頭脳を生かせるような職業に就かないのか疑問を感じ、彼のことを哀れむような目で見ていた。それでもやはり人を超越しているかのようなその創造溢れる頭脳から、人は彼が主張している伝説を受け入れるようになった。