ヨン様ヨン様「いらっしゃい♪」 「オヤジさん、人気のヨンみたいな髪型にして!」 「ヨンって?」 「オヤジさん、ヨンを知らないの?いま社会現象になっている、ヨンだよ」 「・・・知っているさ、ヨンだろ。この前も役場の広報に載っていたし・・・ うちの孫も、好きだと言っていたぐらいだからな。 だけど、社会現象になるまで、騒ぎになっているとは知らなかった」 「そうさ、日本中すごい人気でさ、この島の女も、ヨンの話題でメロメロさ」 「そんなに、すごい人気なのか?」 「島の女に、この島で一番の話題を聞いてみたら、みんな口をそろえて、『ヨン』と答えるさ」 「ヘ~ 知らなかった。 たしかに・・・可愛いと言えば、そうなのかも知れないけど、変なものが流行るんだな・・・」 「オヤジさん、『変なもの』なんて口を滑らしたら、こんな店なんか、島の女に火を付けられるよ。 なんたって、眼に星を入れてサ、ヨン様なんて言っているぐらいだから」 「眼に星まで入れているのか? そんなことになっているとは、まったく知らなかった。長生きをするもんだな」 「そうだよ。だから女の子の気を引くために、髪型をヨンみたいにしてくれよ」 「本当にヨンみたいにするのか? 髪を染めるんだな」 「そうさ、顔の方はちょっと難しいから、髪型とメガネで雰囲気を出そうと思ってネ。 メガネもすごい人気で、同じヤツは手に入らないからサ、バッタ物を通販でやっと手に入れたんだから」 「エェ~ ヨンは、メガネをしているのか?」 「オヤジさん、本当にヨンを知っているの? なんか心配になってきた・・・」 「ナニ、俺をバカにしてるのか? この島で生まれて、おまえみたいなハナタレの、3倍は生きているんだぞ」 「客に向かって、ハナタレなんてすごいことを言うよ」 「ハハハ。俺にド~ンっと任せろてっ! 島に遊びに来る、街のおね~チャンにフト様と言わしてみせるから」 「フト様?」 「おまえの名前がフトシだから、フト様だろ。俺だって、昔は鹿のように可愛い目だといわれて、注目度一番だったぐらいだ。 嘘だと思うなら、隣のばあさんに聞いてみろよ。 たしかにフトシの顔は、昔の俺に比べてもヨンには似ていないが、島一番の俺のセンスで決めてやるからサ」 「頼んだよ!」 「そうだな、最初に短く刈り込んで、飴色に染めるか・・・それから、真ん中で分ければイイな」 「なんだよ、ソレ? オヤジさん、本当にヨンを見たことあるの?」 「オウ、ガキのころから、友達付き合いをしてるゾ」 「えっ・・・ガキのころから?」 「そうさ、この頃は数が少なくなったけど、昔は裏山に遊びに来ていたから、よく知っているサ」 「裏山に遊びに来ていた?・・・それって、ナニ?」 「何って、この島で大切に保護しているやつだろ?」 「オヤジ・・・それは八丈島のキョンだろ」 |