川越町あいあいホールで開かれた「舘野泉 ピアノリサイタル」に行ってきました。
舘野さんという演奏家について事前の情報で知っていたのは、
ほとんどフィンランドで演奏活動をしていること、
数年前、脳溢血で半身がまひされたこと、
その後、左手のみでの演奏活動をされていること、
この3点だけでした。
左手のための曲、、というのはいったい…
想像してもしきれません。
以前、NHKで舘野さんのドキュメンタリー番組が放送されたこともどこかで読みましたが残念ながらその放送は見ていませんでした。
様々な疑問を持ちながら会場に入りました。
バッハのシャコンヌ…プゾーニ編しか聞いたことがなかったのですが、本日の演奏会ではブラームス編曲のもの。
片手での演奏であることは確かなのに、全く違和感がありません。
確かに両手のように一度に多くの鍵盤を同時に鳴らすことはできませんが、ヴァイオリンでの演奏のように旋律と伴奏が忙しく駆け回る部分はピアノならではの音域の広さを十二分に表していました。
左手のための楽譜というのは舘野さんがこの演奏活動に踏み切られるきっかけとなったブリッジという作曲家のほかには少数で、今日の演奏会では舘野さんのために作曲されたもの以外にはあまりないそうです。
このブリッジという人は第一次世界大戦で右腕を失ったピアニストの友人のために作曲したのだそうです。
ピアノは両手で弾くもの、と絶対的に信じて疑わなかったわたしには衝撃的な話です。深い友情がなければそのような作品は生まれなかったでしょう。
そしてその楽譜を演奏してみて「氷が溶けたのです」と書いておられました。
半身にまひが残ったと知ってさぞ力を落とされたことか。そしてその楽譜に出会ってまた演奏家としての自分の左手に光を見出したとき、「氷が溶けた」と表現されるほどの思いだったのでしょう。
素晴らしい演奏でした。
3手のための連弾も心地よい響きでした。
しばらく心の重荷になっていたことと疑問に思っていたことをさっぱり忘れることができて、いい午後を過ごすことができました。
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車でしか行けない会場で、昨日からの雪が溶けなかったり道路の凍結で国道が渋滞したらどうしようか不安に思いましたが、幸い好天に恵まれて渋滞にもあわずスムーズに往復することができました。
しかし天気はいいものの風が大変強くて寒い一日でした。