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鎌倉橋残日録  ~井本省吾のOB記者日誌~

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2014.05.13
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カテゴリ:外交・軍事
ウクライナ情勢の行方を探る上で、JBプレスに掲載された菅原信夫氏の「緊迫するウクライナ、日露貿易への影響は?」が参考になった。

 菅原氏は元伊藤忠商事の商社マンで、日ロ貿易に詳しい。カギはロシア軍がウクライナ東部に侵攻するか否かだが、「ロシア国民は内戦にこりごりであり、それを知っているプーチン大統領はウクライナへの侵攻はしないだろう」とみている。

 ウクライナ国境に近いロストフ市役所の女性は菅原氏にこう語っている。

<「今、ロシアにとって最も大事なことは、どんなに時間がかかろうとも、すべてのプロセスをウクライナ人自身でやらせることだ>

「ロシアがクリミア半島のようにウクライナ東部を併合するようなことは考えられないか」と菅原氏が聞くと、彼女はこう答えた。

<それは絶対あり得ない。なぜなら、ロシアはソ連崩壊で周囲の低所得国を切り捨てることができた、そのため統計的にも、また実感としても、豊かになることができた。国家財政が破綻すると言われているウクライナを再度ロシアが併合し、そのつけがロシア国民に回るようなことが起これば、プーチン政権が持たないだろう>

 また、菅原氏の旧知のロシア人の友人は、ロシア軍のウクライナ侵攻の可能性についてこう答えた。

 「内戦というものをロシアはチェチェンでいやというほど経験した。内戦を始めると終わりがない。ウクライナの状態は内戦だ。そこにロシアが参加する、ということは我々の子供たちの時代まで戦闘が続くということ。それだけは絶対にあってはならない」

 菅原氏はこれを聞いて、さすがのプーチン大統領でも、ロシア国民を敵に回してまでウクライナに乗り込むことはなかろうと感じ、ロシア企業との商談を積極的に進めようかと考えたという。

 クリミア半島はロシア系住民が6割強を占めており、歴史的にも元々ロシアのものだった。だからプーチン大統領はクリミアだけはウクライナから分離してロシアに併合すると決め、断行した。

 でも、それ以外のウクライナ東部地区にまでは手を出さない。確かに東部にはロシア系住民が少なくないが、クリミアのように過半数を占めている都市はない。だから、そこまで侵攻して欧米との決定的な対立を招くことはしたくない。

 第一、ウクライナは貧しく、併合したら、その面倒をロシアがみなくてはならない。チェチェン紛争で内戦にもこりごりしている。プーチン大統領はウクライナ東部のロシア系住民への支援を口では唱えても、侵攻まではしない。ロシア国民がそれを望んでいない、ということだ。

 納得できる見方である。欧米もウクライナ東部に侵攻しなければ、クリミア併合までは認めるという態度ではないか。

 安倍首相は5月の連休中にドイツ、フランスなど欧州を訪問、相次いで首脳会談をしたが、その内容は「上記の線でロシアと妥協しよう」ということの確認ではないだろうか。

 安倍首相は、欧州各国首脳との会談でしばしば「積極的平和主義」という言葉を出している。これは「ロシアに本格的な制裁はしませんよ、日本は米国のようにロシアと敵対することを望んでいない」というシグナルであり、それは
プーチン大統領も知っている。

 5月11日付けの日本経済新聞はこう報道している。

 <谷内正太郎国家安全保障局長が5月の大型連休中にロシアを訪れ、プーチン大統領の最側近とされるパトルシェフ安全保障会議書記と会談していたことがわかった。ウクライナ情勢や日ロ関係について意見交換したとみられる>

 安倍首相は今秋、プーチン大統領と会談し、北方領土問題の解決とロシア極東開発への協力問題を大きく前進させたいと考えている。

 それが米国や欧州とのミゾを開くことになってはまずい。だが、日ロの交渉が、ウクライナ東部への侵攻をしないことの確約を伴えば、むしろ日本は欧州、そして米国に対しても大きな外交上の貸しを作ることになる。

 中国の脅威を押し返すためにも、安倍首相の対プーチン外交は大きな意味を持っている。谷内氏のロシア訪問はその大きな一歩として注目したい。






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Last updated  2014.05.13 07:07:21
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