鎌倉橋残日録 ~井本省吾のOB記者日誌~

2014/12/29(月)10:09

若者の日本脱出を勧めるジム・ロジャーズ

日本(16)

24日付け日本経済新聞朝刊の投資家、ジム・ロジャーズ氏へのインタビュー記事(「展望・2015」)を読んで、いろいろ考えさせられた。彼は日本経済への長期展望について、こう答えている。    「(向こう1,2年は楽観できるが)、長期的にはかなり悲観的だ。債務が膨らみ、人口が減り、通貨の価値が落ちていく。大惨事ではないか。日本は世界で最も好きな国々の一つだ。でも、私が仮に20歳以下の日本人なら国を出ていくだろう」  若者の日本脱出を奨励する最期のくだりは、世界を歩きながら様々な投資をして成功し、現在はシンガポールに住み、中国経済の拡大をにらんで娘に北京語を習わせているコスモポリタン的なロジャーズ氏らしい忠告だ。  引用した部分は、前回紹介したトマ・ピケティ氏の「展望・2015」とつながる。ピケティ氏は「日銀の金融緩和政策はインフレによって日本の公的債務を削減する方法」として評価しているが、ロジャーズ氏は「それは困難」と見ているようで、「大惨事が待っている」と悲観的だ。  大惨事とは、前回のブログで私が懸念したハイパーインフレを伴った日本経済の崩壊だろう。日本政府は年金、医療、介護などの社会保障費を削減せず、若者に負担をかけているのだから、「大惨事」を見込んで若者の日本脱出を促すロジャーズ氏の忠告もわかる。  言うまでもなく、私はハイパーインフレの到来を望む者ではない。富裕層を中心に国民の預貯金を半減させる「徳政令」のアイデアを論じたのも、そのためだが、そんな荒療治は政治的に困難だとも思っている。そこから、ハイパーインフレの危機が忍び寄る。ロジャーズ氏の「大惨事」はありうるシナリオだ。  ただ、前回のブログの最後に次のように書いた。  <悪性インフレに陥ったとしても、それは数年で終わる。インフレ政策という「荒療治」の後は戦後の日本のようにまた、焦土の中から復活できるという考え方もある>  インフレは年金受給者を中心に高齢者の生活を圧迫するが、自ら働く若者は物価上昇に伴って給与も上昇する。円の価値暴落によって輸出は伸び、海外に移った生産拠点も一定程度日本に戻り、雇用も増加する。  結果として若者にシワ寄せされた負担は大幅に軽くなる。ハイパーインフレは政治的に解決困難だった高齢者と若者の経済格差、不平等を暴力的に解消する作用を持つのだ。  政府は経済危機を理由に規制緩和や行政改革を断行しやすくなり、経済焦土の中からベンチャー企業が続出、既存企業でも新事業の芽が育つだろう。  戦後の日本経済もそうして復活した。ロジャーズ氏の言うように、国外に脱出しなくても、若者の活躍の場は広がるはずだ。  もちろん、海外進出を否定しているのではない。ヤル気と能力のある若者はどしどし世界に飛び立てばいい。日本と海外との多彩なネットワークを構築、創造する役割も担ってもらいたい。   以上の経済再建シナリオはすべて「うまく行けば」という楽観論である。事はそう簡単には運ばない。ただ、大惨事を生き抜くすべはあるということは書いておきたい。

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