鎌倉橋残日録 ~井本省吾のOB記者日誌~

2015/02/23(月)19:49

少子化と「男女平等」思想

生活・人生(43)

 前回の続きを書く。私が夫婦別姓に反対ないし慎重な理由は以前のブログで示したが、補足的に、ある助産師の発言を取り上げる。  日経ビジネスオンラインが特別企画「遺言 日本の未来へ」の連載の中で、インタビューした国内最高齢の現役助産師、坂本フジヱ氏(91)の「遺言」である。  坂本さんは約70年に渡り、赤ん坊を取り上げてきた。総計4000人。「遺言」のタイトルは「男と女が同じなら、そらセックスもせん」  核心の発言は以下の通り。  <近頃は男女平等、平等って言いますけど、女は昔っから特権階級ですよ。神様が子供を産むということを女の人に与えているわけじゃないですか。日本の昔の女性が賢かったのは、自分が上位であるけどそれを表向きは隠していたことです。旦那を立てる。でも実際は自分が上位。そういう家庭が、多くあったんですよ>  <でもそれがいつの間にか、仕事の面で「女性が抑圧されている」って世の中がなりました。それで安倍首相なんかもいろんな政策をやっとるんでしょうけど「女性が安心して働けるように」っていう感じのものが多い。でもそれは自己中心主義の気持ちを、助長させるような政策に思えるんです>  <男女雇用機会均等法ができて以降、家庭でも会社でも、女性と男性が同じような役割を果たすべきという考えが当たり前になりました。でも私はこれには断固反対です。男性と女性は本来、全く違うんです。同じようにしたら歪みが出てくるんは当たり前です。セックスレスの夫婦は最近ほんとに多くて、深刻な問題やなぁと思うんですが、男と女がおんなじようになってきたら、セックスせん人が増えるんは分かる気もします>  以前(2013年11月15日付け)で「絶食系男子が増殖している!」というブログを書いた。結婚願望の女性から聞いた話で、草食系男子は「女性との交際に興味があるが、自分からは誘わずに女性のアプローチを待つ受身型」。これに対して、絶食系男子は「そもそも女性との交際に興味がなく、女性からのアプローチにも反応しない男性」を指すのだという。  これでは女性が結婚したくて接近しても打つ手がない、とくだんの独身女子は嘆くのだ。確かに周辺を見渡しても絶食系がふえているように感じられる。彼らは同性愛者でもない。  では、なぜ、絶食系がふえたのか。原因はそのブログでいろいろ推測したが、大きな要因の1つとして、坂本説があると思うのだ。すなわち「男と女が同じなら、そらセックスもせん」である。  女性に積極的に迫って「オレについて来い」という、生まれながらの「肉食系男子」は実はそれほど多くない。全体の1~2割ではなかろうか。残りの8~9割は「一人前の家庭を持てる男子になれよ」という子供の時からの両親のしつけや立ち居振る舞いの指導、それを支える地域社会の文化的な要請、習慣によって徐々に肉食系男子になって行くのである。消極的な男子でも受身型の草食系にはなり、絶食系はほとんどいない。社会がそうさせないからだ。  加えて思春期、結婚適齢期に入ってからは女性の態度が男子を肉食系に変えた。坂本さんのいうように「女性は自分が上位であっても表向きはそれを隠し、旦那を立てる」からだ。  女性が男子を一人前の男性に変えてきたのである。「あなたと一緒になりたい。私はあなた次第、私を守ってね」と言われることで、若い青年は自分の中の「(肉食系)男性」を意識する。  「そうか、自分を頼り、自分に身を委ねる女性がここにいるのだ。よし、彼女と添い遂げ、彼女を守って生きよう」と決意する。  8~9割の若い男性は女性に「立てられる」までは、一人前の男性としての力量があるのかどうか、本当のところ自信はないのだ。女性(もちろん親しみを感じている女性ではある)に頼られることで、自信をつけ、信頼に答えるべく努力し、結果として一人前の男性に成長するのである。  子供が生れればなおのこと。「この子を養ってね」と妻に言われることで、さらに家族のために一生懸命働く。親も先輩も学校の先生も、地域社会、会社の上司がみな、そうした「男性」に成長するよう促した。相手がいなければ、あちこちから見合いの写真を持って、結婚を促してきた。  だが、今はどうだ。坂本さんの語るように、男女雇用機会均等法ができて、家庭でも会社でも、女性と男性が同じような役割を果たすのが当たり前という考えになってきた。  女が男を立てるなど、男女平等に反する。雇用機会均等法の精神に反するという空気である。それが悪いと言うのではない。対等、平等では男は自信を持って女性に接近できない。  「男のくせにだらしがない」というなかれ。大方の若い男性は昔からそうなのである。昔も「男を立てる」習慣があったから、(肉食系)男性に変貌することができていたのだ。  女性の多くもそうした「男を立てる」男女関係の中で安定した人生を見い出していた。  その文化と習慣が男女平等、雇用機会均等法の浸透で徐々に破壊されてきた。男女別姓はその破壊をさらに推し進める働きをするだろう。  少子化の原因は保育所の整備、働く女性の労働環境の遅れにあるといわれる。それは一面の真実ではあるが、「男を立てる」文化、習慣の衰えも大きな原因だと思えるのだ。  「男を立てる」文化に長く不満を覚え、不自由を感じてきた女性、それに同調する男性がいることはわかる。「夫婦同姓」「夫婦別姓」のどちらを選ぶか、選択の自由を与えるのが自由と民主主義の望ましい社会だ、という考え方もわかる。  だが、それが安定した家庭環境を損ない、絶食系男子をふやし、少子化を促し、人々がバラバラになる社会不安を助長しないかという不安が、私にはある。助産師の坂本さんは言う。  <「子供がいたら子供に邪魔されて、自分の人生が面白くない」という今の考え。これが一番の大きな問題なんですよ>  <最近は離婚も増えているといいますね。私はこれも、自己中心的な考えの結果やと思うんです。人のために我慢することができなくなっている。若い夫婦で親の干渉がないように、関係をほぼ切っているような人も多いですね。こういう人は学はあるのかもしれんけど、それは見せかけの賢さや。子供のために自分はどうしたらいいか、ってことを考えられないんや>  <若い人に言うことがあるとしたら「夫婦仲良く」。それが全ての基本ですよ。そうでなかったら、そもそも子供も生まれないわけですからね。生まれても、仲良くなければ子供に影響がでる。お母さんが旦那を馬鹿にしていれば、子供だって父親をないがしろにしますよ。人生は計画通りになんて行きません。自分中心じゃなしに、周りにいる人と互いに思いやって生きることですよ>  <努力の努は「女のマタの力」と書きますけど、子宮の力は国の礎ですよ。子供が生まれんかったら国は亡びるんですから、いわば最後の砦です。そういう女の股の力がね、全部なくならん間に何とかしてほしいなと思う気持ちがやっぱり私にはあるんです>  4000人の赤子を取り出した91歳の助産師の言葉には含蓄と重みがある。

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