「靖国神社はリンカーン記念堂」という卓見
サンケイ新聞17日付けニュースによると――。 <米下院外交委員会のロイス委員長は17日、超党派の日米国会議員連盟で会長を務める中曽根弘文元外相と都内のホテルで会談し、昨年末の安倍晋三首相による靖国神社参拝について「中国を利するのではないか」と懸念を伝えた。……中曽根氏は「不戦の誓いのための参拝だ」と理解を求めた> 日本人は米国から「失望」とか「懸念」とか言われるとすぐに腰が引けてしまう。行為の正当性を度外視して、「とにかく穏便に」となりがちだ。政界も、そして(産経を除く)マスコミも。だが、昨日の続きで言うと、ここでひるまず、靖国参拝の正当性を、同盟国である米国の議員に対し、情理を尽くして説明することが大事だ。その点、中曽根氏が「不戦の誓いのための参拝だ」と弁明したことは評価できる。 しかし、さらに、踏み込んで米国の政治家が納得できる内容を伴った弁論術が求められる。 この点、国際政治学者である大礒正美氏のブログ「よむ地球きる世界」(1月28日付け)は有益だ。題して「靖国はリンカーン記念堂と同じ」。 内容を要約すると、米ワシントンにある「リンカーン記念堂」は、リンカーンの遺骨ではなく、リンカーンのメモリー(記憶)が祀られており、「祈りの場」となっている。 靖国神社も同じで、英霊の遺骨が眠っているわけではない。合祀された英霊の名前を記した和紙の霊璽簿が納められているにすぎない。まさに亡くなった軍人たちのメモリーである。 リンカーン記念堂では、巨大なリンカーン座像の背後の壁に、この建物のいわれが簡単に5行、刻み込まれている。 <"In this temple, as in the hearts of the people for whom he saved the Union, the memory of Abraham Lincoln is enshrined forever."(この聖堂を建立し、エイブラハム・リンカーンを永遠に記憶する。合衆国を救った功績をわれら国民は決して忘れない)> 靖国神社も壁面にこれと同様の文章を刻めば、しっくりとした表現となる。 <"In Yasukuni Shrine, as in the hearts of the people for whom they saved the united Japan, the memories of the War Dead are enshrined forever."(靖国神社を建立し、統一日本を守った人たちを永遠に記憶する。祖国のために命を捧げた功績を国民は決して忘れない)> 靖国にA級戦犯が祀られていることに対する中国や韓国の非難に対して、米国内でも同調する声があるが、リンカーンも敗北した南部人の恨みが強烈であること、そして、祈りはすべてを鎮めると考えるべきであること。この点を説明すれば、米国の政治家や識者の多くは納得するはずだ。 安倍首相が「靖国神社をアーリントン国立墓地と同じだ」と示唆したことについて、オバマ政権は受け入れず、国務・国防の両長官が千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参拝することで反対の意思表示をした。 だから、靖国参拝を納得してもらうには靖国神社はアーリントン墓地よりも、リンカーン記念堂なのだと言って説明した方が南北戦争以来の米国史を熟知している米国の政治家に対し説得力を持つ。4月に予定されているオバマ来日のとき、上記の2つの銘文を渡して説明したらどうだろうか、と大礒氏は説いている。 名案である。 中国や韓国はいくら言っても納得しないだろう。だが、正直言って中国と韓国は二の次なのである。日本の国益と外交にとって最重要なのは、米国のオバマ政権や政府高官に納得してもらい、支持を得ることにある。 安倍首相及び政府閣僚、外務省高官が、そこへ向けて知恵を絞ることを期待したい。