農林業に競争政策を導入せよ
補助金行政が日本の財政を悪化させ、非効率な事業を温存して経済成長率を下げる。と、久しく指摘されながら、少しも改善しないのは、政党が票田を確保しようと、脆弱な企業や個人に補助金をばらまくからだ。 典型例は民主党政権が作った農家の戸別所得補償制度だ。お米を主体に農産物の販売価格が標準的な価格より下がった場合、販売価格と標準的な価格との差額を支給する。 2004年の改正食糧法でお米の販売価格が自由化され、デフレ経済のもと米価はどんどん下がった。そこで経営が苦しくなった農家を保護しようと、所得補償制度を導入したのだ。 せっかく農業に自由市場制度を導入したのに、これでは元の木阿弥である。 価格下落に対応できない非効率な農家が倒産し、頑張って生産性を上げた農家や農業法人に農地が委ねられるからこそ、大規模化によって農業の生産性が高まり、経済成長率が押し上げられる。 だが、努力せずとも値下がり分が補償されるなら、生産性を高める意欲も薄れてしまう。 実際、この補償制度ができたころ、あるテレビがドキュメント番組で問題点を焙り出していた。兼業農家の農地を借りて大規模化を進めていた意欲的な専業農家のもとに、ほとんど農業をやっていない兼業農家の地主が、個別所得補償制度の導入でやっていけるようになったから、貸していた農地を返してくれと迫る。若い意欲的なの農業経営者はがっくりと肩を落とし、新天地を求めて北海道や海外の適地を探すという流れだ。 これで、農業が再生できるのか、と大きな疑問がわいた。 同様のことが林業にもある。日本は世界に冠たる森林大国で、やり方次第で経済成長の担い手になる。各地の森林組合が森林の所有者の土地を取りまとめて施業を集約。森林に路網を敷設する。そこに立木を伐採して丸太にする機械(ハーベスタ)や丸太になった木を集積地に運ぶ運搬車(フォワーダ)を入れて機械化林業を推進する。 それを製材・合板・製紙などの一次加工、住宅・家具などの二次加工につなげれば、木材をベースにした一大産業が形成され、雇用創出効果は大きい。 だが、現在の林野庁や環境省の政策が貧弱で、この成長機会を奪っている。 事業推進の中核は各地の森林組合にすべきなのだが、林野庁や環境省、各地の自治体がスーパー林道開発といった安易な山林の公共事業の予算をつけるために、楽な仕事で生活できると、難しい(だが、やりがいのある)林業事業の高度化に向かう意欲を奪っているのだ。 例えば、森林は大気中の二酸化炭素を吸収、固定するために地球温暖化ガスの吸収源とされている。このため、2006年から間伐のための補正予算がついた。当時、森林関係の公共事業は減少傾向にあったため、本腰を入れて林業の高度化に乗り出そうとする森林組合がふえつつあった。だが、この予算でまた楽な公共事業の世界に戻ってしまったという。 吸収源対策の間伐のほとんどは、仕事の楽な伐り捨て方式。本来、間伐した木は搬出し、家具などに加工したり、バイオマスなどのエネルギー源になったりしてはじめて二酸化炭素が固定される。伐り捨てでは、伐った木はその場で朽ち、二酸化炭素の発生源になるだけ。だから二酸化炭素の吸収源とはならないのだが、そこまでチェックしている役所は皆無に等しい。 やる気のある事業者が利益をあげ、事業を拡大できるようにする競争政策を拡充しなければ、日本経済は成長せず、雇用も創出できない。 「近いうち」に始まるはずの総選挙では、そこを1つの争点にしてもらいたい。今度こそ農林漁業に本格的な競争原理を導入しないと、日本の経済はいよいよ弱って行く。