未だに「福島の原発不安」をあおる2次被害
Wedge5月号が「放射能・ワクチンへの不安 カルト化からママを救うには」と題し、「ニセ科学が生み出す実害行政とメディアの責任」を追及している。社会学者で福島大学特別研究員の開沼博氏と、医師でジャーナリストの村中璃子氏が対談形式で告発しているが、実態のすさまじさに空恐ろしさを覚えるほどだ。私の不案内な子宮頸がんワクチンの話は割愛し、もっぱら開沼氏による福島の放射能問題に絞って実態を見ると――。<福島の惨事に便乗する言説によって、2次被害と呼べる問題が明確に出ています。(原発)事故直後の「急性期」には、避難する過程で多くの人が命を落としました。放射線の危険性を過剰に煽る報道によって、農業や漁業に従事する人の中に自殺したり、将来への悲観から廃業したりする人が出ました。しかし、……「慢性期」の現在も惨事便乗言説による実害は発生し続けている>避難を続けて心身が不調となり、亡くなった人は2000人を超え、福島の地震・津波で亡くなった約1600人を上回っている。相馬・南相馬で避難経験を持つ人の糖尿病は1.6倍となり、福島の子供の肥満は一時、全国1位になった。現在、被曝による健康被害の可能性は極めて低いと科学的に勝負が付いている。「過剰反応を煽り続けることは明らかに有害です。今は(行政などが)過剰反応に適切な対応をとって来なかったことの問題を議論すべき時期です」と開沼氏は憤る。誤った言説の周辺には、経済的利得を得ようとする怪しげな業者や得体の知れない「専門家」と称する人物が存在する。彼らが組んで被害者につけ込み、特殊な食物や薬を売り込んでいる。<有名なニセ科学の「EM菌」。放射能を排出できるなどともっともらしいデータをでっち上げている。有名どころでは「通販生活」。ひたすら不安を煽る論者を並べ立て客を囲い込む。「DAYS JAPAN」もデマを流して、地元紙にとりあげられたら逆ギレして誹謗中傷記事を出す始末>こうした2次被害はなぜ続くのか。開沼氏の分析は鋭い。<NPO、法律家、自称ジャーナリスト、自称専門家などの「支援者」側に責任がある。彼らの共通点は勉強していないことです。放射線に関する知識をほとんど持っていないにもかかわらず、自分達は正義だと自己正当化する。原子力ムラならぬ「不安寄り添いムラ」が形成されています>正義の味方を実践していると思いたいのだろう。専門家が科学的な問題点を指摘すると、「弱い被害者と支援者を潰そうとしている」という言説を大々的に外部に流して圧力をかけ、「自分たちは正義の味方」なのだ、と自他を信じ込ませようとする。それにより自己の利得を得続けて行く。それだけなら、まだいい。「支援者」は地元を復興しようと努力する人たちを罵倒し、その行為をやめさせようとする。福島の農家や漁師が「安全でおいしいので食べてください」と売り歩くと、「毒売るな!」という非難が漁協などに殺到。地元のNPOが子供たちと一緒に幹線道路を清掃しようとすると、「子供を傷つける殺人者」などという誹謗中傷の非難を浴びせる。「支援者ムラ」には法律家や学者が入っているのに、そうした根拠のない「差別行為」を黙認している。もはやカルト的人権侵害行為がまかり通っているのだ。そうしたカルト集団は今や福島では圧倒的に少数派なのに、朝日新聞やテレビ局などの大手メディアが彼らを支援し、「少数派」に見えないようにしている。<メディアは(まともな)サイレントマジョリティを無視しようとする。(福島から)自主避難する人は取り上げるけれども、その何倍も存在する自主避難から戻ってきた人……は取り上げない。福島から震災後自主避難して県外に移った人って20~40%いると思っている記者が多いですが、正確には2%に過ぎません>事態がわからないときは安全サイドに立って判断するのはやむを得ないとしても、状況が分かってきたら、「安全だ」という情報を正しく大きく伝えるのがメデイァの役割だ、と開沼氏は強調する。大体、反原発者は反安保で反安倍首相。今回の熊本震災では米軍の輸送機オスプレイが投入されたが、朝日や毎日はその効果よりも「オスプレイの危険性」ばかり過剰に報道する。フィリピンの台風時にオスプレイがいかに活躍したか、は報じない。そうした偏った報道では困るのだ。もう1つ、開沼氏らが指摘するのは、行政や政治家の無責任な態度だ。自分たちが「被害者」に対して冷たいと見られまいとして、明らかに科学的に決着がついた今でも、少数の「支援者」をおもんぱかって、結論を先延ばしする。政治家と役人は科学的なデータを元に、福島の安全性をもっと強調すべき時なのだ。