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カテゴリ:文学その他

 このところ急激に寒くなってきた。どうかすると一日中、鉛色の厚い雲が空をおおっており、たまに雲の合間から陽がさしても、低い位置から斜めに差し込む光には冷えた大気を暖める力はない。北風が嵐のようにびゅうびゅうと吹き、建物と建物の間で渦をまいて唸り声を上げる。

 昨日と言うべきか、今日と言うべきか、どちらが正しいのかよく分からないが、とにかく今朝まで仕事をし、それから床について昼過ぎに目を覚ました。起きようとしたら、なんだか腰が痛い。曲げても伸ばしても痛い。これはまずい。なにかの祟りなのか、それとも誰かの呪いなのか。気持ちは若いつもりでも歳はごまかせぬ。

 近くのスーパーまで食い物を調達しに外へ出たら、ちょうど陽がさし、少しばかり青空ものぞいているのに、白いものがひらひらと舞ってきた。おお、風花ではないか、これはまたロマンチックなと思ったが、冷たい外気は腰に良くない。腰をいたわりながら、早々に家へ戻った。

 平地に風花が舞うということは、山のほうはおそらく本格的な雪なのだろう。平野を囲む山のほうに目をやっても、かすんでよく見えない。それほど高い山ではないから、クマやシカのような獣はもとからいやしまいが、イタチぐらいならまだいるかもしれない。そういえば、母さん狐から白銅貨をもらって、町へ手袋を買いにいった子狐の童話を書いたのは新美南吉であったか。

 ところで、「風花」 なる言葉を知ったのは、高校時代に読んだ福永武彦の短編によってであった。「倫理社会」 のような受験にあまり関係のない授業は、多くの生徒が他の教科の宿題をやったりと、ほとんど公然たる内職の時間になっていたのだが、たまに読書の時間にもあてていた。先生方にはまことに申し訳ない。

 その息の向こうに、白い細かなものが宙に舞っていた。それはあるかないか分からない程かすかで、ひらひらと飛ぶように舞い下りた。その向こうには空があった。鉛色に曇った空がところどころに裂け目を生じて、その間から真蒼な冬の空を覗かせていた。その蒼空の部分は無限に遠く見えた。かすかな粉のようなものが、次第に広がりつつあるその裂け目から、静やかに下界に降って来た。
「ああ風花か。」
 彼は声に出してそう呟いた。そして呟くのと同時に、何かが彼の魂の上を羽ばたいて過ぎた。
福永武彦 「風花」 より   
新潮文庫 『廃市・飛ぶ男』 所収   


 『死の島』 をはじめ、福永の長編にはさまざまな実験的手法や技巧を凝らしたものが多いが、そのような余裕のない短編では、作者の資質である感傷性が生に表出される嫌いがある。ややもすると 「少女趣味」 っぽい感じがして、辟易してしまうところもあるのだが、ぼろぼろの文庫を引っ張り出してちらちら読み直してみると、この短編には明らかに作者自身の過去が影を落としている。

 年譜によれば、福永は終戦間際に急性肋膜炎にかかり、療養をかねて帯広に疎開している。その後、いったんは帯広中学の英語教師になるのだが、病気が再発してふたたび長い療養生活を余儀なくされる。その間に、離婚してまだ幼かった息子と別れることになる。その息子とは、いうまでもなくのちに芥川賞をとった作家の池澤夏樹のことである (参照)

 いまのような特効薬のなかった時代には、胸の病というのは文字どおり命にかかわる病気であった。幕末の高杉晋作や沖田総司から、石川啄木や正岡子規、さらに戦後の堀辰雄にいたるまで、多くの人が命を失っている。戦前の文学青年にとって、肺を病んで蒼白い顔をすることは一種の憧れであったらしいが、とにかく栄養と休養をとって長期の療養をする以外に処置のしようがない不治の病であった。そういえば、中学や高校の先生の中にも、結核の手術で片方の肺がほとんどないというような人もいたりした。

 ところで政治的な前衛と芸術的な前衛を結びつけること、言い換えれば政治的社会的な革命と文化や芸術の革命を結びつけることは、戦後の花田清輝の活動の出発点にあったテーゼであるが、それはまたかつてのロシア・アバンギャルドの夢でもあった。

 エイゼンシュテインやメイエルホリド、マヤコフスキーなどによって進められた先鋭的な芸術運動が、最後には党の指導という名の下で政治への屈服を余儀なくされたのは、もちろん花田も知っていただろう。自殺した者、粛清された者、亡命や沈黙を余儀なくされた者は数知れない。フランスにおいても、党に忠誠を誓ったアラゴンはシュルレアリスムを捨て、シュルレアリスムを守ったブルトンらはトロツキーに接近する。

 そういった歴史的経緯について、花田が無知だったとはとうてい考えられない。むろん花田の活動がすべて無駄だったわけではあるまい。しかし、最後には新日本文学会を拠り所として党中央に抵抗するところにまで追い詰められた花田には、そもそもいったいいかなる計算があったのだろうか。疑問は尽きない。こんなことを考えたのは、最近、亀山郁夫の 『ロシア・アバンギャルド』 (岩波新書)なる本を読んだから。

 それにしても寒い。報道によれば、元F1レーサーの片山右京と一緒に富士に登った友人らが遭難したらしい。富士の頂上は零下をはるかに下回るらしいが、寒さに震えているのは、もちろん山の獣だけではあるまい。






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Last updated  2009.12.18 23:36:35
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政治の侍女   まろ0301 さん
 ソビエト政権に招待されたアンドレ・ジイドが1937年に刊行した『ソヴェト日記』は、文学者の直感というものの凄さを教えてくれますね。
 この本を「反ソビエトの宣伝本」としか読めなかった人が多かったようですが、文学、芸術というものの自律性をどう考えていたのか。
 言論も芸術もすべて政治の侍女であるという考え方は、時代を中世に引き戻します。
 ロシア・フォルマリズム、ロシア・アバンギャルドが弾圧される事なく成長していたら・・とつい夢想してしまいます。そうなれば、『1984』『われら』も書かれずにすんだのでしょうが。 (2009.12.20 18:04:54)

Re:政治の侍女(12/18)   かつ7416 さん
まろ0301さん
ジイドは当時のソビエトの若々しい理想主義については、高く評価しています。しかし、その一方でその生まれたばかりの「理想」が、頑なな官僚主義によって蝕まれかけていることにも目を閉ざしていません。

人は自分たちが孤立していると感じたとき、自分たちを批判するものはすべて敵か、敵の同調者であるかのような思考に陥りがちです。しかし、孤立しているときこそ、周囲の声によく耳を傾けることが必要というべきでしょう。

都市を除いて識字率も非常に低かった革命当時の状況を考えると、前衛的な芸術運動が社会に受け入れられなかったのには致し方ない側面もあるでしょう。しかし、当面の必要性のみを重視してすべてを政治に従属させる理論が、「プロレタリア芸術」という名前で正当化された結果、文化とひいては社会が貧血状態に陥ってしまったことは歴史的な教訓とされるべきことでしょうね。
(2009.12.21 01:31:06)


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