2007/09/19(水)18:04
「ル・コルビュジエを見る」を見る
先月末に越後島研一氏の「ル・コルビュジエを見る」という新刊が中公新書から出たので読んでみました.著者は前作の「現代建築の冒険」で近代日本の住宅史をごく少数の基本的パターンの遷移で捉えるという野心的な試みで読者を魅了しましたが,本書でも卓越した記憶力に支えられた構想力と表現力で,本質的に空間的な存在である建築を平易な言葉で解き明かすという困難な仕事に果敢に取り組んでいます.
ひとことでいえば,これはル・コルビュジエのどこがなぜそんなに凄いのかを,16ページのカラー口絵を含む膨大な写真と文章で表現している本.新書には珍しく,見る本でもある.
第1章革新では1931年のサヴォワ邸まで,
第2章変貌では第2次大戦末まで,
第3章成熟では戦後をロンシャン教会堂まで,
とル・コルビュジエの生涯を3つの期に分けて解説,最後の第4章では前川國男,丹下健三,安藤忠雄,伊東豊雄など何人かの日本の建築家への影響がまとめられています.
建築界の巨人を讃えるだけでなく,その作品の問題点も指摘しているのは立派.
あまりぎくしゃくしたところがなく素直に読めるので,読みながら著者の思惑とは別に色々なことを考える余裕があります.(建築には全く素人の)僕が思うには,結局ル・コルビュジエという建築家はものすごく合理的な人で,目の前の問題(戦争による都市の破壊と復興とか)をあまり伝統というかそれまでのいきさつにとらわれずに,いちばん合理的に解決しようとすることができた.その結果が一見多様な(実際多様なのだけれど)スタイルの形態になっていったんじゃないだろうか.
僕には「第一次世界大戦によって破壊された街で,安価な住宅を、緊急かつ大量に確保するための(p.22)」ドミノ原理というのが非常に大切なものに思えて,サヴォワ邸なんかはドミノ原理を世の中に広く受け容れさせるための広告塔なのではないかという気さえします.
現代日本の建築家たちも,地震や台風による被災地の避難所や仮設住宅にもっと力を入れて,被災者のプライドを傷つけず,未来への希望を与えるようなもの,永住に繋がっていくようなものにしてくれてもいいのじゃないかと思いますね.