マイクロファイナンス・インターナショナル
ワシントンDCにいったついでに、日本人の元バンカーの枋迫篤昌(とちさこ・あつまさ)さんが起業したマイクロファイナンス・インターナショナル社(以下MFI)を訪問してきました。当初は、広報の方が案内してくださるということだったが、なんと急遽枋迫社長のスケジュールが空いて、ランチをご一緒できることに!!オフィス近くのペルー料理屋でごちそうになる。1時間半くらい時間をとってくださり、起業に至る経緯を話してくださった。とても温和な方だが、ビジョンについて話し出すと超Inspirationalでした。基本的なビジネスモデルは日経BPの記事(http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20061030/112688/にうまくまとめてあるので、日経BPに載ってない情報をかいつまんで書いておきます。ビジネスモデル – 送金とマイクロファイナンスの組み合わせの妙:マイクロファイナンス・インターナショナル社の事業の柱は二つあります。ひとつは、米国のラテンアメリカ出身の移民が本国の家族にお金を送金する際の、送金サービスの提供。ふたつめは、米国のラテンアメリカ移民や、ラテンアメリカの人々向けのマイクロ・ファイナンスの提供。枋迫社長にお会いするまでは、二つの異なる事業を同時にやっているだけだと思っていましたが、この二つの組み合わせにはすごい知恵があるのです!ひとつめの送金サービスというのは、米国の移民が「安く・早く」お金を本国に送れるようにすることです。留学や駐在の経験がある方だと、日本から米国にお金を送るのに高い手数料を取られて、しかも米国の口座の入金が日本での手続きの1週間後とかだったりして、いらいらした覚えはありませんか?日本人でも送金に手間取るのに、ましてや米国内で銀行口座も開けない貧しいラテン移民がどんな苦労をしているかは想像にかたくありません。数十%の手数料を取られた上、現地の家族に届くのが数週間後、たまにはミスがあって届かない、みたいな状況だったそうです。枋迫さんの考え付いた送金システムだと、(1)ラテン移民がMFIに入金、(2)MFIがインターネットでラテンアメリカの提携銀行に送金通知、(3)送金通知を受けてラテンアメリカの提携銀行が移民の家族にお金を渡す、(4)その後MFIが提携銀行にお金を送金、というプロセスを取り、ラテン移民の入金から家族がお金を受け取るまではわずか数時間だそうです。(もちろん、提携銀行はMFIからキャッシュを受け取る前に家族への払い出しをするわけですから、MFIに対して相当の信頼がなきゃできません。その辺は質問し忘れました)で、MFIとしては、移民の入金を受けてから、ラテンアメリカの提携銀行にお金を送り出すまでの間、そのお金を自分で持っておけるわけです。入金から出金のタイムラグは平均20日間(ある程度のまとまった金額になってから送金しようという意図がある)。たとえば、一日に平均1,000ドルの入金があるとすると、1,000ドル x 20日で、20,000ドルが常にMFIのバランスシートに載ってることになります。(MBAの方は、オペレーションで習ったガントチャートを書いてみてください – この計算の意図がわかるはず)この20,000ドルを遊ばせておくのはもったいないので、これを貧しい人向けにマイクロ・ローンとして貸し出すわけです。とはいえ、全部貸し出すのはさすがに危険なので、その4分の1の5,000ドルくらいを貸し出す、ということになります。その5,000ドルはゼロコストで調達できたお金だから、とても安い金利で貸し出せるのです。この送金とマイクロ・ファイナンスの連携の妙、すごくないですか?バックグラウンド:枋迫さんは尾道のご出身。同志社大学を卒業されたあと、東京銀行に入行。銀行時代はなぜか「こいつを遊ばせておくとろくなことはない」とばかり人事部に目を付けられ(!?)きつい仕事ばかり回されたそう。「どんな仕事でも目の前にあることを一生懸命やり、その道のプロになる」だとか「プロフェッショナル = Execution重視: どんな難題でも議論だけにとどまらず、必ずsolutionを提示し、そして結果を出す」という生き様はその頃培ったそうだ。MBA留学の話があったが、むしろ海外駐在をしたいと申し出て、メキシコの語学留学生として派遣されたのが、ラテンアメリカとの関係のはじまりだそうだ。その後、メキシコ、エクアドル、パナマ、ペルーなどの国々に駐在。日経BPにも書いてありますが、メキシコで貧しい家庭の食事に招待され、貧困の深刻さに触れたのが、開発に興味を持ったきっかけだったそうです。駐在を終え、日本に戻られた後は、食品会社や中堅商社の事業再建をやっておられたそうです。起業の経緯:その後、ワシントンDC事務所長として、米国に赴任。ワシントンDCは、国際開発のメッカだから、いろんなカンファレンスがあり、枋迫さんもそれらに足しげく出席していたそうだ。その中で、米国での移民問題や、ラテンアメリカの開発問題についての会議があり、そこで国際機関や政府のえらいさんたちが、「こんな問題が懸念されている」みたいな問題提起だけをしているのを聞いた枋迫さんはとてもフラストレーションを感じたそうだ。「開発のプロたちが集まっても、議論ばかりで、ソリューションやエクセキューションがないことを、情けない限りと思った」そうだ。枋迫さんは、その会議を聞きながら、メモ用紙に、「安く・早い」送金システムとマイクロファイナンスの仕組みをビジネスモデルを書き上げたそうだ。これが、起業への第一歩になる。チーム構成:アントレプレナーシップで「誰をバスに乗せるか?」という言葉が出てくるが、素晴らしい創業メンバーに恵まれたのもMFIの勝因の一つ。いろんなきっかけで出会ったプロたちを「桃太郎のきびだんご式」に説得してチームにいれていったそうだ。特に大きかったのは、COOのSCHMITZ氏と、会長のORR氏。SCHMITZ氏は、銀行の送金システム構築のプロ。なにかの会議でたまたま一緒に座って、SCHMITZ氏が自分が考えた新しい送金スキームを枋迫さんに提示したところ、枋迫さんは「俺のアイディアの方がもっと素晴らしいから、俺のチームに入ってくれ」と口説いたそうだ。ORR氏は、ブレトン・ウッズ委員会の重鎮で、国際機関や米国政府などの強いパイプがあるそう。こういう人をチームに入るよう説得できるのは、ビジネス・プランの素晴らしさに加えて、人徳なんでしょうね。コンプライアンス:オペレーションを進めていく上で、枋迫さんが一番重視したのは、コンプライアンス。金融機関がsustainableであるためには、コンプライアンスがキーだというのは枋迫さんの信念だそうだ。送金の仕組みを組み立てていく上で、足しげく米国の銀行監督官庁に通い、法律や規制に則ったシステムになっているか確認しまくったそうだ。もし、利便性とコンプライアンスでトレードオフがある場合は、必ずコンプライアンスを優先したそう。その結果、米財務省、米連邦準備理事会、米連邦預金保険公社などから、100%コンプライアンスを遵守していて素晴らしい!とのお墨付きをもらったそうだ。店舗:ランチのあと、広報の方に、実際の店舗まで案内していただきました。店舗は、ワシントンDCのラテン移民街の真ん中にある。明るい雰囲気だし、店員もよくトレーニングされていてとても感じがいい。同胞の貴重なお金を預かっているんだという責任感やプロフェッショナリズムが伝わってきました。ラテン移民街というとなんとなく険悪で犯罪率とかも高そうなイメージがあるのですが(偏見ですが)、このお店に来ているお客さんたちはみんな本当にいい顔をしていました。こういうのを見ると、やっぱ性善説だ!と思うし、人間に対して希望が持てますよね。今後のビジョン:最後に枋迫さんが今後のMFIのビジョンを語ってくれました。壮大でした!もしかするとオフレコで語ってくれたかもしれない話なので、あえて詳細はここには書きません。ただ、ターゲットマーケットはラテン移民や貧困削減というSocial Enterprise的な分野に限らず、金融システムの新たなプラットフォームを作り革命を起こす!くらいの意気込みでいらっしゃる印象を持ちました。(お話を伺っていて、本当にすごい会社になるんだろうな、と思いました。)まとめ:起業の成功要因のひとつの鍵は、「エクセキューション」にあるんだなあ、と感じました。最後に、枋迫さんから頂いたメールを転載します。MFIの成功要因の本質を突いていると思うので。「一瞬の思いつきではできることが限られてしまいます。チャレンジする目標が大きければ大きいほど、その問題解決のためには慎重な準備と深遠な考察が必要になります。私にとって、「プロ」という言葉は論が立つだけではだめで、きちんと目に見える、分かりやすいソリューションを実現してみせる人のことを指します。ただ、One may change the world, but several of like-minded people may have a better chance....は事実ですので、大きな問題には良きパートナーを見つけることも成功確率を高めることになります。自分を磨くことも大切ですが、如何に情熱を分かち合い、同じ目標に向って進んでくれるパートナーをポイントとなる時期に見つけられるか・・・も非常に大切な要素です。目標というのは、各人の価値観によって千差万別ですが、その価値を金銭の尺度で測るのではなく、自分がどれほど夢中になれるか・・・で計ってみると案外クリアに見えてくるものではないでしょうか。」