タフツでダイブツ(しゃれになってないか。。。)
明日はタフツ大学のミクロ開発経済の試験。教科書もノートも持ち込み一切禁止なので、ガリ勉中です。そして、壊れ気味です。暗記drivenな日本の受験市場で戦ってきた経験値を見せ付ける予定です。。。ってうそぶいてみるももの、てんで自信なし。勉強していたら、クラスのアイドル、バービーちゃんが面白い記事を送ってくれました。"Ending Famine, Simply by Ignoring the Experts"http://www.iht.com/articles/2007/12/01/africa/02malawi.php?page=1記事は、度重なる飢饉に苦しめられてきたマラウイのお話。これまで、マラウイ政府は、世界銀行のアドバイスにしたがって、市場原理主義的な考え方で、農業への補助は一切やっていなかったそうです。ところが、2005年の大飢饉で壊滅的な被害を受けたマラウイは、経済専門家たちの意見をぶっちぎって、農業への補助金の導入に踏み切ることにしました。具体的には、農民が肥料を購入する際に、購入費用を政府が一部肩代わりすることになったのです。この政策が大ヒット。2006年と2007年には、マラウイは記録的な豊作を記録したそうです(もちろん、単に雨が多かったという要因もあるが、専門家の調査によれば肥料効果も大きかったそう)。穀物の値段も下がり、一般の消費者もハッピー。ここまでは割と普通の話ですが、マラウイ政府も予算がたいしてあるわけではないので、農民全員には補助金は出せず、補助金を受けられる農民を選ばないといけません。誰が補助金を受けるか、というのは、各村の寄り合いで決められるようですが、記事に書かれている、ある村での逸話はちょっと泣けます。詳細は、読んでのお楽しみ。注) 写真はNY Timesより。* * *タフツでのミクロ開発経済の振返りを軽く。シャッフナー教授は、ぬるーいノリでトークを繰り広げるおばちゃんで、よく授業中寝てしまったりしました。。。(すんまそ)でも、ロジックの斬れ味は大変鋭く、一番叩きこまれたのは、一見「イイコト」をしていても、必ずそこには何らかのコストが発生する、ということ。とても当たり前のことだけど、いろんな開発政策を批判的に見るのは、大切なことだと思います。もちろん、批判的になりすぎて、何も行動を起こさなかったら、本末転倒。そこには何も生まれない。だから、行動はしたい。でも、自分の行動が、どういったコストや、externalityや、あるいはspill-over effectを産むのか、行動を起こす前にベストを尽くして考えたい。(もちろん僕らは神様じゃないから、完全な予測を立てることは不可能だけれど)そう思うようになりました。* * *また、教授は、なんか最近のマイクロファイナンスブームに懐疑的らしく、やたらマイクロファイナンスを焼いていたのも印象的でした。「あなたねえ、お金を借りるってことは、利息を上回るリターンが出る投資対象がないと借りる意味がないのよ。」とよくおっしゃってました。そりゃそうだ。よくマイクロファイナンスはfinancially sustainableだぜい!なんていわれるけれど、実は多くのマイクロファイナンス事業者は赤字で、ドナーからの寄付金で損失を埋めている、ということもよく言っていました。たしかに、融資って、案件一件あたり、それなりの固定費のかかるビジネスですよね(審査のための費用とか)。だから、金融機関は、なるべく金額の大きなディールをやりたがるわけです。ところが、マイクロ・ファイナンスだと、そういった規模の経済を取るのが難しい。しかも、貧しい人ほど、投資によって出せるリターンは少ないという現象があるそうです。(規模の経済がないとか、インフラが未整備で市場へのアクセスが難しいからモノを売るためのコストが余計にかかるとか、いろいろ原因があって、貧しさと投資リターンが反比例する現象は、「貧困の罠」の理由のひとつだそうです。)そうなると、本当に貧しい人にサービスを提供することにこだわるのであれば、銀行は、利率を下げるしかなくなります。でも、そうすると、銀行の運営コストがカバーできなくなってしまう。こういうジレンマって、よくわかります。僕も別件のレポートで、マイクロファイナンス事業の財務モデルを組んで、普通の前提で組むと、どうやっても赤字になって悲しい思いをしたことがありますし。で、教授が熱弁していたのは、「そりゃあなた、マイクロファイナンスがビジネスとして成り立てば、すばらしいのよ。でも、本当に貧困層をターゲットにしようとすると、銀行は赤字になってしまいがちなのよ。そして、赤字の事業を続けるには、ドナーからの援助が必要。だから、マイクロファイナンスは援助の形態の一つなのよ。そうなると、援助金を使うという意味では、マイクロファイナンスも、貧困層へのcash transferも、農業への補助金も、インフラ整備も全部一緒。だったら、単にマイクロファイナンス、マンセーっていうんじゃなくて、本当に貧困層にリーチして、援助1ドルあたりの貧困削減効果が高いのはどの手段なのか、考えなきゃいけないのよ。場合によっては、マイクロファイナンスをやる前にインフラ整備にお金を使ったほうが、貧困層がビジネスをしやすい環境が整って、その後のマイクロファイナスがうまくいきやすいってこともあるでしょう。」(筆者注: もちろん、貧困層じゃない人たちにファイナンスを提供して、彼らのビジネスを伸ばすことで、雇用を生み出させて貧困層を雇う。。。みたいなspill over effectを狙うという考え方は、ありなんだと思いますが。また、貧困層向けのローンでも赤字幅が少ないのなら、単なるcash transferに比べて、援助1ドルあたりでリーチできる人数は多くなる、という考え方もあると思います。)でも、授業の最初のほうで、教授が補助金やcash transferの説明に時間を割きまくっていた理由が、よくわかった気がします。市場原理主義者の僕としては、「補助金とcash transferかよ。ふっ、時代遅れな。これからは、ビジネスと貧困層へのリーチを両立させるのが、かっこいいのさ!」とコバカにしていましたが、よく考えると貧困層をターゲットとして、事業を収支トントンにするのは簡単なことではないんですよね。そうなると、収支トントンにしようとして、気づかないうちに、途上国の上・中流階級にサービス提供してました、なんていう「Mission Drift」は要注意だと思いました。そして、貧困層をターゲットして、赤字になって、ドナーの援助に頼るのならば、自分のビジネスの赤字を埋めるというのが援助のもっとも効果的な使い方か、ということを真摯に問わなければいけない。ちなみに、この授業で僕のチームが書いたグラミン銀行とダノンのヨーグルト事業に関するレポートも、そういう結論になりました。(レポートの背景・テーマの詳細は、こちら: http://plaza.rakuten.co.jp/kocchan0826/diary/200709250000/)カナダ人医師ニーナの分析によると、バングラディシュの貧困層の子供たちは毎日ヨーグルトを食べないと、今の栄養失調状態から抜け出せない。ところが、気鋭の中国人エコノミストのウェイの分析によれば、今の貧困層の所得を考慮すると、現状のグラミン・ダノンのヨーグルトの価格(一応市場価格よりは低い)では、貧困層が毎日ヨーグルトを買うのは無理。ってことは、この価格のままでは、せっかくのヨーグルトも、ヨーグルトを普段から食べられるバングラデシュの中流階級が、価格低下の恩恵を受けるのみでありましょう。もちろん、ヨーグルト工場ができることで、雇用を生み出したり(※ただこの地域の失業率はそんなに高くないから、単に雇用を生み出すだけでなく、高い給料を払えないと、benefit創出にはならない)、酪農産業が地域に形成される、というインパクトはある。でも、栄養失調の子供をもつ本当に貧しい人たちが、このヨーグルトを買えないのであれば、この事業は、「Mission Drift」しているのかもしれない。じゃあ、グラミン・ダノンがヨーグルトの価格を下げると、会社の収益はどうなるか、ということを、僕が財務モデルを構築して分析。どうコスト削減をしても、どんな好意的なシナリオを組んでも、会社は毎期2千万円程度の赤字になる。ってことは親会社のグラミン銀行とダノンが、この2千万円の損失を埋める必要あり。(初期投資は1億円だから、ROIはマイナス20%だ)じゃあ、毎年2千万円をたれ流して、ヨーグルトを作り続ける意味はあるのか?栄養失調問題を緩和するというmissionを達成するために、もっと効果的な2千万円の使い方はないのか?ニーナの、「2千万円でビタミンやヨードなどの栄養素をたくさん買って、それを貧困層の食べる米に加えたほうがよっぽどdirectな効果があるんじゃん」、という渋い提案でレポートは校了したのでした。チーン。うーーん、難しい環境の中で、限られたリソースで結果を狙っていく開発業界って、大変な業種ですよね。。。来学期、「Business at the Base of the Pyramid」という授業を取る予定ですが、様々なsocial entrepreneurたちが、こういう問題をどう乗り越えているのか、いい学びになるといいなと思ってます。* * *試験はあとひとつ!そしたら、日本だ。はやくラーメンと焼肉が食べたいっす。