ケネディー・スクールで
International Development Conferenceというイベントがはじまりました。
昨日からこの週末にかけて、開発関連の豪華ゲストのイベントが盛りだくさん。
この「祭り」のキックオフイベントは、
世界銀行総裁のロバート・ズーリック氏による講演会。
一応僕の
就職先の大ボスということなので、どんな感じの人か見に行ってまいりました。
ズーリック氏は、
ハーバード・ロー・スクールとケネディー・スクールの卒業生で、
WTOでの通商交渉でアメリカ代表として交渉するなど、アメリカ政府の様々な要職を歴任。
直近では、ゴールドマン・サックス社の、Senior International Advisorという役職にも就いていたようです。
去年の7月から世銀総裁に就任。
以下、講演の中から印象に残ったポイントを、備忘録的に書いていきます。
- Sovereign Wealth Fundのカネをアフリカに -
最近、産油国や中国など、巨大な貿易黒字を抱える国が、ありあまる外貨準備を運用すべく、いろんな海外資産に投資をするというSovereign Wealth Fundが話題になってますよね。
特に、サブプライム問題でキツネ色に焼けただれたアメリカの銀行たちに、巨額の資金を融通してあげたのは記憶に新しいところです。
でも、Sovereign Wealth Fundのイメージって、そんなによろしくないですよね。なんでメディアとかにたたかれてるのか今ひとつ僕にはわかりませんが、政治色のある投資って、なんとなくみなさん抵抗感あるんですかね?あるいは、アメリカの資産が新興国に買われちゃうことで、アメリカ人のプライドが傷ついているとか(毒)。
いずれにせよ、ズーリック氏は、Sovereign Wealth Fundのイメージをよくするために、運用資産の1%をアフリカの企業の株式(ローンじゃないことがポイント)に出資してはどうか、という提案を、中国とか産油国にしているそうです。
運用の一環で、リターンをちゃんと狙うんだけど、アフリカの経済発展にも貢献する投資なんだから、ファンドのイメージも少しはよくなるっしょ、ということでしょう。
しかも、アフリカ企業なんて、アメリカの焦げ焦げな銀行への投資とのcorrelation(相関)も小さいだろうから、分散投資効果もあり。
で、今、IFC(国際金融公社、世銀の民間投資部門)が中心となって、Sovereign Wealth Fundのアフリカ投資をアドバイスするプロジェクトがはじまっているらしいです。
貿易黒字国のありあまったお金がうまくアフリカに回るようにするというのは、かなり、熱い提案だと思いました!
- そもそも世銀の役割ってなに? -
ズーリック氏は、
「世銀は、『単なる金貸し』ではない!
クライアント(発展途上国)のニーズに耳を傾け、問題解決のお手伝いをする『サービス業者』である」、ということを強調していました。
その上で、以下の3つを今後の重要課題として挙げました。
- Knowledge and learning agenda: 今まで蓄積してきた経済発展と貧困削減のノウハウを、必要な国にうまく移転していく、「コンサル」的役割
- Development of markets and institutions: 経済が発展していくには、健全な市場と、institutions(政府機関だとか、教育機関とか、産業団体とかもろもろ。いまだにこのinstitutionという英語の語感をどう訳していいかわかりません。。。)が必要。これらの育成と強化のためにがんばる
- We have money!: 上記のアジェンダを前に進めるべく、効果的にカネを使いたい
- なぜ世銀は、いまだに中国やインドなどの「中進国」のプロジェクトをやっているか? -
このポイントって、最近よくでてくる世銀やIFC批判です。
最近の高成長をかんがみると、もう中国やインドって、自力で貧困削減していけるだろうから、世銀がやってることは全部ムダ!みたいな。
ズーリック氏は、世銀が引き続き、「中進国」に関わっていかなければならない理由として、以下の3つを挙げました。
- 中進国にも貧困層は多い: 「中進国」といっても、成長の恩恵を受けていない人も多い。世界の1日2ドル以下で暮らしている貧困層のうちの70%は、中国やインド、ブラジルなどの「中進国」に住んでいる。そう考えると、まだまだ世銀に手伝えることは多い
- 環境問題: 「中進国」の大きな課題のひとつが環境問題への配慮と対処。中国などが、いい環境技術を受け入れて、地球に優しい成長を遂げてくれないと、大変なことになる。だから、世銀は、「中進国」での環境がらみのプロジェクトを増やしている。世銀の中には、環境政策とか、カーボントレーディングとか、環境がらみの科学技術とか、民間企業の環境戦略とか、いろんなノウハウがたまっているので、きっとお役に立てます
- 南南協力: 力を持ってきた「中進国」が、これまでの経済成長の経験を生かして、後進国を助けてあげるという役割はますます重要になってきている。そういう「南南協力」をfacilitateするために、世銀ができることは多い
- 世銀と環境問題 -
ズーリック氏は、「環境政策などの大きな枠組みは、国連だとか、各国政府が協議すればいい。世銀は、環境問題の分野では、現場で汗を流す『ブルーカラー』の労働者でありたい」と言っていました。
この趣旨が完全に汲み取れたかは自信がないですが、いままで培ったノウハウを生かして、現場に立って政府や企業に実行可能な方策を地道にアドバイスしていこう、という気合の表れでしょうか。
* * *
とても盛りだくさんな講演で、ズーリック氏は、すごい守備範囲の広い人だなあ、という印象を受けました
講演や、そのあとの質疑応答でも、金融、民間セクター、政府のキャパシティービルディング、保健、環境問題、グローバリゼーション、スーダン、バルカン半島、などなど、有象無象のトピックが飛び交い、
そのひとつひとつのトピックに対して、とてもクリアに答えを返していました。
結構、個人的な感情(や恨みや批判)をまじえた質問をする人も多かったですが、それを全体の聴衆にrelevantな話題にうまくすりかえつつ、返答するテクニックなど、
さすが、「しゃべりの国」アメリカで上り詰めた人は話がうまいんだなあ、と感心しました。
そして、貧困問題が有象無象の現象がからんだ複雑な問題であることを謙虚に認識して、
現場の声に耳を傾けつつ、「honestyとintegrity」をもって取り組んでいこうとしている姿勢など、好感が持てました。
「人生一回しかないんだから、できるだけチャレンジングな問題に取り組んでから、死んだほうがいい」という趣旨のコメントもしてました。
しかも、すばらしいのは、やりたい方向がものすごくハッキリしていること!
世銀は、「サービス業者」で、「ブルーカラー労働者」なんて、とても必要なことだし、いいコンセプトだと思います。
もちろん、これらのビジョンを実行に移すのは、ただごとではありませんが、
ビジョナリ-な司令官を見て、9月から働き始めるのが、楽しみになってきました。