本との関係記

2012/04/07(土)07:11

松本たかし集

俳句関連の本の感想(12)

 全く俳句を詠めなくなっているので読む方に回る。  朝日文庫現代俳句の世界3「川端茅舎 松本たかし集」のうちの半分。代々の能の名門に生まれ、従兄弟に泉鏡花がいる。病気がちだったため能役者の道から外れ、俳句の道に入った。全集などを除けば句集は僅か五冊と、名の通った俳人の割には少ない。 「人を吐くやうに居(すわつ)て鳴く蛙  一茶」のように、句の後に俳号を記して紹介するやりかたはよく見かけるが、現代俳人になると特別にそれらしい俳号を用いない人も多いので「雪山と降る白雪と消し合ひぬ  たかし」とやられても、俳句に詳しくない人には「たかしって誰だよ急に」となるので気をつけないといけない。  従兄弟の泉鏡花と影響しあっているような句は見られず、虚子直系の素直な写生句の数々。加藤楸邨を勝手に師と定めつつ西東三鬼に憧れる私の好みには、そもそも虚子系の人は合わないのだけれど、苦痛は感じることなく読めた。 「自分は俳句作りのこと故、戦時中も、自然の美しさに会へば、感動せずには居られず、感動すれば、句を作るより致し方なく、さうした作句のみに終始して、結局、時局や戦争に関した俳句は出来なかつた。さうなつたのは、別に卑下すべきことでも、誇ることでもなく、又特に主張があつたといふ訳でもない。自分の性癖の自然に随ひ、無理な作句態度を採らずにゐたら、さういふ結果になつたといふまでゞある。極りきつた目的の為の、無理と不自然を犯した制作ほど、面白くないものはない」 解説より。主宰誌「笛」創刊号に掲載の<笛誕生>の中の文章。    実在した能役者宝生九郎を主人公にした小説『一番能』も収録されている。能の知識がないから細かいことが分かりにくかった。  10句、選んでみた。 行人や吹雪に消されそれつきり 赤く見え青くも見ゆる枯木かな 輪飾を掛けし其他は総て略 行き消えて又行き消えて枯野人 雪山と降る白雪と消し合ひぬ 舟蟲が来て露草の気高さよ 眼つむれば駆けりゐる血や日向ぼこ 天高しのけ反り見れば塔も反る 草枯るる猫の墓辺に猫遊び 綺羅星は私語し雪嶺これを聴く  あとは「凭り馴れて句作柱や夜の秋」のような柱を欲しく思った。 朝日文庫 1985年

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