焼跡30句
焼跡を実際に見たことはない。焼跡に立ったことはない。焼跡のある時代に生まれたかったわけでもない。それでも、それでも詠みたかった。ただそれだけ。無季。焼跡や足裏ひたと骨を噛み地には屋根人型の礫焼け野原友の手をほどきて逃げし昨夜の爆爆痕に雪降るな血色の土隠すな焼跡や穴から声が声が声がゴミとして片づけられし妻の骨一握の土一握の骨空に日々爆痕や蝶一舞いに蠕動す焼跡に猫鈴焼けて鈴鳴らずここ焦土我等未完の物語爆夜明け母ら皆々死児背負う爆痕や飯乞う人の腹に穴空ばかり見上げ焦土を無に返す知った顔皆死んだ顔大焼土灰色の大腿骨に句を記す焦土にて生き残る我画の汚れ昨夜まで重し畳の風に舞う人探す声人探す声にかき消され焦土得て唄うものらの声絶えず魂まで焼き尽くされし骨は夢残り火で朝飯作る焦土人咲かぬ花咲けぬ花なり灰まみれ黒々と朝黒々と昼紅々と夜屋根瓦焼跡の歯となりて落つ雨降りて焦土より手手生え始め焼跡に人何処かおかしな事のように爆痕や鬼うろつくも憎まれず焼け野原死の燃え始めあまり見るな走る鼠に問うこと多し焼け野原爆音に消されし声の今届く