カテゴリ:美術
「雷雨の後のエトルタの断崖」 クールベ 1869-1870年 オルセー これはリアリズムの巨匠クールベが描いた「雷雨の後のエトルタの断崖」です。1870年春に開催された第二帝政最後のサロン(官展)に、同じ場所で描いた「嵐の海」別名「波」とペアにして出展されました。皇帝ナポレオン3世に反抗した共和主義の闘士クールベが、画家として頂点に達していた時の作品です。 ノルマンディ―育ちのモネが、それまでエトルタの美しさを知らなかったとは思えませんが、少なくともクールベとモネの二人が、文豪デュマと劇的な出会いを果たしたおかげで、二人の巨匠が、エトルタの海辺で、肩を並べて絵を描くことになりました。特にモネは、その後も繰り返しエトルタを訪れて、50枚以上の作品を制作しました。 クールベも1869年からエトルタで、異なる天候と角度から、9点の海の絵をシリーズで描きました。これは19世紀仏絵画の中で、風景画をシリーズで描いた最初の例です。もしかすると、モネが後に、エトルタのシリーズを始めとして、「ルーアン大聖堂」「ポプラ並木」「睡蓮池」等をシリーズで制作するようになったのは、クールベが霊感を与えたのかもしれません。 「画面概説」 嵐の後、流れるような雲の間から、夏の太陽が、メガネ岩の「アヴェルの門」と、小石ばかりの浜辺を左上から照らしています。「アヴェルの門」の左にそびえる「針岩」は、ちょうど岩陰に隠れて見えません。左側には、大きな岩をくりぬいて作られた漁師の家も見えます。でも浜辺には人影がなく、波の音だけが聞こえてきそうです。 この絵は,決して写真のように描かれているわけではありません。しかし、泡立つ波、陽光の中にそびえる断崖、漁船に漁師の家等、過去の巨匠は、誰一人として描こうとしなかった現実の風景です。概念を継ぎ接ぎして、理想化された世界ではありません。しかも、潮風を肌で感じ、波の音を聞きながら、陽光を身体全体で受けながら「現場」で描いた作品です。 ![]() また、青空を背景に、光を浴びて浮かび上がった「アヴェルの門」や、陽光を反射して眩しい浜辺と、反対に逆光になって、黒いシルエットとなった漁船等、クールベが、刻一刻と変化する、光の効果に関心を持っていたことを示しています。 クールベとモネの間には、画風に大きな違いはあっても、「目の前の物をあるがままに描く」と言う本質的な点において、相通じるものがあったのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|