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万人のための美術史 森耕治

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2021.07.24
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カテゴリ:美術

「雷雨の後のエトルタの断崖」 クールベ 1869-1870年 オルセー

これはリアリズムの巨匠クールベが描いた「雷雨の後のエトルタの断崖」です。1870年春に開催された第二帝政最後のサロン(官展)に、同じ場所で描いた「嵐の海」別名「波」とペアにして出展されました。皇帝ナポレオン3世に反抗した共和主義の闘士クールベが、画家として頂点に達していた時の作品です。

 絵の舞台となったエトルタは、ノルマンディーの海辺の町で、海の中に突きでた白亜の3つの巨大なメガネ岩と、水面から突き出た円柱形の奇岩「針岩」が人気を呼んで、パリのお金持ちたちのリゾート地として、賑わっていました。また「針岩」は、モーリス・ルブランの小説で、アルセール・ルパンが登場する「奇岩城」のモデルになりました。モネがクールベと知り合ったのは、恐らく1865年頃のはずです。
 なぜなら、モネの未完の大作「草上の昼食」の左端に、座り込んだクールベの姿が描かれているからです。また制作に行き詰まったモネが、クールベに助言を求めたことも知られています。
そして1868年、モネが高校卒業まで暮らしたノルマンディーのル・アーヴルに里帰りしている時に、クールベがやってきました。二人は、ル・アーヴルに「モンテ・クリスト伯」や「三銃士」で有名なアレクサンドル・デュマが滞在していることを知り、いきなり面会しに行きました。その場で意気投合した3人は、その夜は、デュマの手作りのディナーを楽しみました。デュマは料理研究家でもありました。そして翌日、3人そろってエトルタに出かけることになったのです。 


 ところでこの作品は、オルセーで、印象派の名作ばかりを集めた5階の、最初の部屋に、長い間展示されていました。なぜリアリズムのクールベの作品が一点だけ、印象派と一緒に展示されてあるのか不思議でしたが、同じ部屋に、モネが全く同じ場所で描いた「エトルタの荒れた海」(1868-1869)が展示されていたことで、疑問が解けました。まだ無名に近かったモネに、技術面と、アンチ・アカデミスムの思想面で多大な影響を与えたクールベの存在を、来館者に知ってもらおうという、学芸員の配慮だったと理解しました。

ノルマンディ―育ちのモネが、それまでエトルタの美しさを知らなかったとは思えませんが、少なくともクールベとモネの二人が、文豪デュマと劇的な出会いを果たしたおかげで、二人の巨匠が、エトルタの海辺で、肩を並べて絵を描くことになりました。特にモネは、その後も繰り返しエトルタを訪れて、50枚以上の作品を制作しました。

クールベも1869年からエトルタで、異なる天候と角度から、9点の海の絵をシリーズで描きました。これは19世紀仏絵画の中で、風景画をシリーズで描いた最初の例です。もしかすると、モネが後に、エトルタのシリーズを始めとして、「ルーアン大聖堂」「ポプラ並木」「睡蓮池」等をシリーズで制作するようになったのは、クールベが霊感を与えたのかもしれません。

「画面概説」

嵐の後、流れるような雲の間から、夏の太陽が、メガネ岩の「アヴェルの門」と、小石ばかりの浜辺を左上から照らしています。「アヴェルの門」の左にそびえる「針岩」は、ちょうど岩陰に隠れて見えません。左側には、大きな岩をくりぬいて作られた漁師の家も見えます。でも浜辺には人影がなく、波の音だけが聞こえてきそうです。

この絵は,決して写真のように描かれているわけではありません。しかし、泡立つ波、陽光の中にそびえる断崖、漁船に漁師の家等、過去の巨匠は、誰一人として描こうとしなかった現実の風景です。概念を継ぎ接ぎして、理想化された世界ではありません。しかも、潮風を肌で感じ、波の音を聞きながら、陽光を身体全体で受けながら「現場」で描いた作品です。
 19世紀半ばまで、風景画は通常、屋外のスケッチを基にして、アトリエで概念的かつ理想的に創り上げられた世界でした。それに対して、クールベが生みだした風景画は、目の前の光景をあるがままに描き出したものです。

 また、青空を背景に、光を浴びて浮かび上がった「アヴェルの門」や、陽光を反射して眩しい浜辺と、反対に逆光になって、黒いシルエットとなった漁船等、クールベが、刻一刻と変化する、光の効果に関心を持っていたことを示しています。

クールベとモネの間には、画風に大きな違いはあっても、「目の前の物をあるがままに描く」と言う本質的な点において、相通じるものがあったのです。







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最終更新日  2021.07.24 22:50:05
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