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万人のための美術史 森耕治

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2021.08.25
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カテゴリ:美術

「スフィンクスの謎を解くオイディプス」アングル 1808年 ルーヴル

これは新古典主義の巨匠アングルのローマ時代(1806-1820)の作品「スフィンクスの謎を解くオイディプス」です。制作の2年前に、栄えある「ローマ賞」の受賞者として、ローマへの給費留学を実現できた彼が、留学の成果を、母校のパリ国立美術学校に送った作品の一つです。同時に送った作品の中には、有名な「浴女」(ルーヴル美術館)も含まれていました。





 絵のテーマとなっているのは、ソポクレスが書いた、古代ギリシャ悲劇の最高傑作「オイディプス王」の主人公で、後にテーバイ国の王となるオイディオプスが、テーバイの民を苦しめるスフィンクスの出した謎々を解くエピソードです。同テーマの作品としては、約半世紀後にギュスターブ・モローが描いた「オイディプスとスフィンクス」(メトロポリタン美術館)に、フェルノン・クノップフの「愛撫」が有名です。



「オイディプス王のストーリー」

それでは、作品の理解のために、まず古代ギリシャの三大悲劇詩人ソクラテスが書いた、「オイディプス王」のあらましを簡単に説明します。

テーバイという国の王ラーイオスは、妻イオカステーの間に男の子オイディプスをもうけましたが、神託によってやがてその子が自分を殺し、母を自分の妻にするであろうということを知り、山の中にまだ赤ん坊だったわが子を棄てました。そのときに両親は、生まれたばかりの子どもが、山の中で野獣の餌食になるよう手足を紐でくくっておいたのです。でも子供の泣き声に気づいた羊飼いによって助けられ、コリント王のポリュポとその妻メロペーによって引き取られ、実の子として育てられました。オイディプスと言う名は、ギリシャ語で「足が腫れたもの」という意味があります。山に捨てられたときに、足をくくられために、発見されたときは足が腫れていたのだそうです。

後に知らずに実の父親を殺すことになる彼の運命は、実は両親に殺されかけたことに発する、いわば因果応報のエピソードでした。

しかし、大きくなって自分の出生を疑ったオイディプスは、アポロン神に神託を仰ぎました。しかし、答えはえられずに、かえってオイディプスに「故郷に.近づかぬように、両親を殺すことになる。」という神託が与えられました。育ての親を実の両親と信じる彼は、両親に災難が降りかかることを恐れ、国を離れて旅に出かけました。そして、中央ギリシャのボーキスというところにたどり着たとき、山の中の狭い道で実の親ラーイオスと鉢合わせになりました。しかし、道を譲ろうとしなかったオイディプスと実の父ラーイオスとその従者の間で争いとなり、オイディプスは実の父をそうとは知らずに殺してしまいました。

その上彼は、偶然にも 知らずに殺してしまった実の父ラーイオスが王をしていたテーバイにたどり着きました。そこの山道で旅人達を苦しめていたのが、この絵のテーマとなったスフィンクスなのです。スフィンクスは山道で、旅人に「朝は四足、昼は二本足、夜は3本足になって歩く生き物はナンだ」という謎を出して、答えられない者を片っ端からかみ殺していました。

そこで、テーバイの国の摂政クレオーンは、スフィンクスを退治したものには、国と、未亡人となったお后のイオカステーを后として与えるとのおふれを出しました。でもこの未亡人のイオカステーは、オイディプスの実の母だったのです。   そうとは知らないオイディプスは、スフィンクスに遭遇して、ナゾナゾに「答えは人間だ。幼いときには4本足で這い、青年期には2歩足で歩き、歳をとると杖をついて3歩足で歩く。」と見事に答えました。謎を解かれてしまったスフィンクスは、その後、山の上から深い谷に身を投げて死んでしまいました。

  そして英雄となったオイディプスは、テーバイ国の国王となり、未亡人となっていた実の母とそうとは知らずに結婚しました。実の母との間に子供まで作りましたが、後に真実を知って、自らの目をつぶして放浪の旅に出ました

「画面概説」

場所はテーバイ近郊の岩山の峠道です。ここで、スフィンクスは、やって来る旅人に謎々を出しては、旅人たちをかみ殺していました。左下の岩の上に、アングルのサインと、制昨年の1808年が見えます。さらにその下には、スフィンクスが殺した旅人の足と、人骨が転がっています。画面左右の端と下側は、アングルがフランスに戻った1804年に、キャンバスを継ぎ足して加筆しました。


 画面中央では、槍を二本持ったオイディプスが、赤いマントを肩にかけだけの全裸で、暗い背景から浮かび上がっています。彼は左足を岩に乗せて、スフィンクスを見据えながらスフィンクスが出した謎々に解答を出したところです。彼の表情は確信に満ちて、恐怖のかけらもありません。むしろ左手でスフィンクスを指さして「死ぬのはお前だ」と言わんばかりです。

 その反対に、スフィンクスはオイディプスよりもはるかに小さく描かれ、影になった顔からは、謎々を解かれてショックを受けた様子が窺えます。また、オイディプスが、手のひらを上にしたポーズと、スフィンクスが左手を手前に差し出すポーズは、まるで愛犬にTa patte (タ・パットゥ、お手)と言っているかのようです。獰猛な怪獣を一瞬にして手なずけたことを暗示しています。

 
 ところで、人間をカミ殺すほど獰猛なはずのスフィンクスが、大きい目の犬程度の大きさで描かれているのには、理由があります。ルーヴル美術館が所蔵する古代ギリシャの赤絵式の壺には、柱頭の上に、お利口に座っているスフィンクスの姿が描かれてあります。恐らくアングルは、この壺からヒントを得たのでしょう。






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最終更新日  2021.08.25 21:06:26
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