カテゴリ:美術
「羊の群れ」 シャルル・エミール・ジャック 1861年 オルセー美術館
これは「羊飼いの画家」または「羊のラファエロ」の異名を持つ、バルビゾン派の画家シャルル・ジャックの代表作「羊の群れ」、副題「羊の群れを草原に連れ出す羊飼い」です。シャルル・ジャックは、元々版画家と言う経歴を生かして、羊たちを非常に正確かつ生きいきと描き出しました。彼の作品からは、羊たちへの溢れんばかりの愛情と優しさが、草原の春風と共に伝わってきます。 彼のもう一つの功績は、1849年に、コレラが蔓延していたパリから、ミレー一家を誘ってバルビゾンに移住したことです。それ以後、バルビゾンを去る1854年まで、ミレーとは、「一緒に畑や森を探索して歩いた」お隣さんの関係でした。 ミレーの親友であり、彼の伝記を書いたサンスィエにミレーが送った1849年6月の書簡には、この様に書かれてあります。(「ミレーの生涯」サンスィエ著、井出洋一郎監訳)「ジャックと私はしばらく当地に滞在することに決めた。二人共結局家を借りてしまったのだ。物価はパリに比べて極めて安く、パリに出ようと思えば、大した時間もかからずに行ける。とりわけここの風景が素晴らしい。パリにいるときよりもずっと静かに制作に打ち込めるだろうし、もっと良い物が描けると思う。要するに、ここにしばらく暮らしてみたいのだ」。結局ミレーは、この「しばらく」が、その後60歳で死ぬまで、26年間もバルビゾンで暮らすことになりました。
「画面概説」 絵の舞台は、バルビゾン村の近くに広がる、広大な平野です。バルビゾン村の付近には、今でも地平線の見える平野が広がっています。季節は、ようやく温かくなり始めた4月中旬ごろでしょう。緯度の高いパリ近郊は、日本と比べると。やや寒冷で、3月末でも、平均気温は13度くらいです。 ところで、非常に見落としやすい点ですが、今も変わらない平野とはいえ、一つ根本的に変化した点があります。画面上の草原には全く柵がありません。だから羊飼いと羊の群れは、草を求めてどこにでも移動できました。でも20世紀から、フランスの農地は、いたるところに柵が設けられて細分化されてしまいました。また道路脇は、必ず木製の柵や鉄条網、場合によっては家畜が逃げ出さないように、電流を流した電線が張られています。その為に、昔のように、羊飼いが、群れを連れて草原を歩き回るということは、物理的に不可能になってしまいました。 もう一度画面に注目してください。春になって、地面はようやく草で覆われ始めましたが、まだあちらこちらに、土がむき出しになっています。そこに、春の訪れを待ちわびていた羊飼いが、麦わら帽子に長い杖を手にして、数十頭の羊を連れて、草原に出てきました。牧羊犬も一緒です。羊飼いと犬は、これから進もうとする方角を眺めていて、彼らの視線が、さらに画面に広がりを与えています。 羊たちは、冬の間、狭い家畜小屋に閉じ込められていたので、自由の身になって、新鮮な牧草を食んでうれしそうです。先月生まれたばかりの子羊たちは、まだ身体が真っ白で、お母さん羊に寄り添いながら歩いています。羊たちは、夏になる前に、伸びた羊毛を刈り取られることになります。
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最終更新日
2021.11.11 20:35:08
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