カテゴリ:美術
「力」 ボッティチェリ 1470年 テンペラ ウフィツィ美術館
「七つの美徳」 ところで、当初商業裁判所がピエロ・デル・ポッライオーロに発注した7点に共通するテーマは、「七つの美徳」でした。これは、過去の巨匠達がしばしばテーマとしました。最も有名な作品は、バチカン宮殿の「署名の間」にある、ラファエロの壁画「美徳のアレゴリー」です。作品の理解を深めるために、まずこの説明から始めます。 つまりフィレンツェの商業裁判所では、裁判官たちは、これら「7つの美徳」に基づいて、裁決を下すということです。ただ私なら、巨匠が描いた直筆の作品を背もたれにして座るなどと言うことは、到底できません。 「7つの美徳」のうちの最初の4つは、「枢要徳」(すうようとく)とも呼ばれていて、(英語のCardinal virtues)知恵、力(勇気を含む)、節制、正義からなります。この4つの美徳は、古代ギリシャの哲学者プラトン著の「国家」第4巻中に、次のように表されています。「この国家は知恵があり、勇気があり、節制を保ち、正義をそなえていることになる」 「7つの美徳」の最後の3つの要素は、「対神徳」(仏語ではVERTU CATHOLIQUE、カトリック的美徳)と呼ばれていて、信仰、希望、愛(慈悲を含む)です。新約聖書の、「愛は忍耐強い、愛は情け深い、ねたまない」の言葉で有名な「コリント信徒への手紙」第13章13節に書かれた「それゆえ、信仰と希望と愛。この三つは。いつまでも残る。その中でも最も大いなるものは、愛である。」が、対神徳の主要典拠となっています。 「画面概説」 最初にライバルのピエロ・デル・ポッライオーロが受注した「七つの美徳」のうち、納期遅れとなって、ボッティチェリが制作することになった「力」は、考えようによっては、最も表現しにくい寓意です。なぜなら、ポッライオーロは、他の6つの美徳を、玉座に座した女神像として表していて、各々の違いは、手にしたアトリビューション(役割を示す持ち物)でしかありません。 例えば「信仰」では、女神は左手に十字架を、右手にカリス(聖杯)を持っています。これなら人体のプロポーションが異常であっても(下半身が大きすぎて、頭が小さすぎる)、また蝋人形のような血の気のない表情であっても、見る者がテーマを見間違うことはありません。 まずボッティチェリは、ポッライオーロが背景に使った、誇張されすぎた線遠近法によって、女神像を前に押し出すという空間処理を緩和した上、むしろ勝利を確信した女神の力強い表情と、左足を半歩前に出させたポーズによって、女神が見る者の方に迫ってくる効果を生み出しました。 また同時期か、直後に制作された代表作の一つ「ユディトの帰還」で、敵将の首を切り落として、堂々と帰還する女傑ユディトの表現は、「力」で描いた女神像が、その下敷きになったと思われます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.12.19 12:46:47
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