『ヘヴン』川上未映子
川上さんの本は以前に読んだことがある。関西弁でかなり自由奔放な文体、ちょっと読みづらい印象だった。「ヘヴン」はその印象を裏切る、いい意味で普通の本。私が印象的だったのは、斜視が原因でいじめられている「僕」といつも冷めた目でいじめを見つめている「百瀬」が話すシーンで、僕がいじめられる訳を納得できない件について、「みんなが同じように理解できるような、そんな都合のいい世界なんてどこにもないんだよ。みんな決定的にちがう世界に生きている、最初から最後まで。あとはその組み合わせでしかない。・・・その組み合わせの中で僕たちの側で起こっていること、君の側で起こっていることは一見つながっているように見えるけど、まったく関係のないことでもあるんだってことだよ。さっきまで君は斜視が原因でいじめを受けていると思っていた。でもそんなのは僕にとってはまるで関係がないことだった。」と持論を展開するシーン。いじめを否定しない、肯定もしない、ただそれができるかできないかはたまたまだということ。いじめられている人がその訳を知りたくても、いじめる側とはそもそも見えている世界が違うということ。それはさびしいけど現実的でとても合理的な考えだと思う。いじめられている、誰にも理解してもらえないと、もがき苦しむのも人間のあり方だと思うが、そもそも誰も他人の思考の中には入っていけないという考えがあることに気付き、そこから開放されてもいいんじゃないかと思う。百瀬の考えは決して善ではないが、苦しむ人が気付いていない発想がある。百瀬の提案していることがいじめを考える上での突破口だと思う。