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読書のスるメ

2012年06月15日
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カテゴリ:ホラー小説
ここは、市民病院の病室。二人部屋だ。
僕は、名は、スナジマ。ドコにでもいる、ごく平凡な名前の男。
そんな俺と同室になったのは、サトウというヤツ。

年の頃は、俺と同じぐらいだと、看護士から聞いている。

看護士が気を利かせ、同じ年頃の俺たちを、あえて、同室にしたのだ。
しかし、俺には、余計なお節介でしかなかった。
なぜなら俺は、サトウを。

性格的に好きになれなかったのだ。

サトウ、コイツは、とにかく根暗で、嫌みばっかり言っている。
もうコイツの嫌みを聞くのは、ほとほと、あきていた。
そして、今日も……。

「でも、ついてないですね。ただ、そんな人間も、たまには必要なんです」

癌(がん)なんて、珍しい病気じゃない。
テレビで、見たんだけど、人が、八十五才まで、生きるとして。
女は、四人に一人、男に至っては、二人に一人の確率だ。
そう珍しい病気じゃない。

早期であれば、今の医学で、何とか克服できるレベルまで、きているんだ。

つまり、二人に一人だから、五分五分って事。
珍しい病気じゃない。が、まさか自分が癌になるとは思わないじゃないか。
しかも僕は、まだ十五才だ。神さま、あんまりじゃないか。

「運命なんです。受け入れて下さい」

サトウは、さっきからブツブツと、カーテン越しにつぶやいている。
サトウは、僕が入院する、ずっと前から、ここにいるらしい。
病名は、誰にも言ってないらしく、不明だ。
看護士さえも教えてくれない。

隣の部屋に、骨折で入院しているミツウラさんが、語ってくれた。
サトウが、何十年前から、ずっと入院してるかを、だ。
とにかく、僕とサトウは、気が合わない。
むかつくのだ。存在自体が。

だから入院した当初からサトウとのベットの間にはカーテンを引いたまま。
僕は、サトウと顔を合わせないようにしていたのだ。
あまりにブツブツ、嫌みを言うから。

もうサトウの話は、よそう。
……それにしても、入院してから、誰、一人として、お見舞いにこない。
親は、もとより、兄弟、友達も誰一人として。
なんでだろう。

僕が、癌だから落ち込んでいると思って、気をつかっているのかな。
でも僕の癌は、早期発見で、命に別状はないという事らしい。
だから、短い入院生活だと思う。

一ヶ月くらいか。

長くても、三ヶ月といった所だろう。
だから後々(のちのち)の事も考えると、誰もこない方が、気が楽でいい。
しかし、ずっと嫌みばかり言う、サトウと二人っきりじゃな。
息が詰まって、気分転換の一つもしたくなる。

「うふふ。死のが、怖いですか」

「……」

「でも、そんなに気を張る事はないですよ。今に分かる」

というか、サトウ。お前、やっぱりウザイ。
僕は、癌でも死なないんだよ。
早期発見なんだ。

僕は、サトウを嫌っている。ヤツも、それを知っているはず。
それでも、サトウは、何が面白いのか、僕にブツブツと話しかけてくる。
そして、サトウのいう事は的を射ていて……。
言い返せないから、余計に頭にくる。
だから、ウザイんだよ。

しかし、何も分かっていないのは、ヤツの方なんだ。

早期発見だから、死なないと分かっている。
分かってはいるが、飽くまで、癌だ。
死が直面している気がする。
だから怖いんだ。
本音は。

「うふふ。死ぬのは、怖いですか」

当たり前だ。
死ぬのが、怖くない人間なんているか!
やっと、僕が、サトウに反論できる余地を見つけた。
これ幸いにと、サトウに、僕が、反論しようとした……と、その時!

「うふふ。僕は、死ぬのが怖くないんですよ。全然ね」

と、不気味な事を言い始めた。
コイツ、死ぬのが、怖くないのか。サトウの病名はなんだ?
あり得ない。一体?

「人間は生まれたら、遅かれ、早かれ、必ず死ぬんですよ。分かります?」

「……」

「後は、時間の問題だけなんです」

どうやら、サトウは、死ぬのが、怖くないらしい。
あり得ない。あり得ないぞ。
理解不能。

そんな人間いるのか?

とにかく、僕は、またもサトウに反論するチャンスを失った。
というか、サトウも、死を目の前にした病気を患っているのだろうか。
そう思ったらサトウが哀れに思えてきた。
何とも表現できない気持ちに。

表現できない。

そんな哀れにも似た不可思議な気持ちになった。
サトウ、お前、死ぬんだな、と。
ご愁傷さま、と。

「うふふ。死んだ後、人間はどうなると思います?」

「……」

「分からない。だから不安なんでしょう?」

図星だ。
段々、表現できない気持ちが、分かってきた。
やっぱり、サトウは、死を目前にして、死に対して、悟りきっているのだ。
そうじゃないと、死が怖くないんて、あり得ないんだ。

だからといって、サトウも、死んだ後の事を知ってるとは、思えない。

……またサトウに、対して、新たな疑問が湧いてきた。
サトウ、コイツは一体、なにものなんだ?
そして、病名は?

「うふふ。いえね。僕は、知ってるんですよ。死んだ後の事」

えっ!
そんな馬鹿な!?
サトウは、こんな馬鹿げた事を言うヤツじゃなかったはず。
どうした? いつものサトウは、どこにいった?
理路整然としている、いつものサトウは?

「うふふ。隣の部屋にミツウラさんが、いるでしょう」

「……」

「あの人に聞いたんですよ。死んだ後の事」

ミツウラさん。
骨折で、入院している、あの人か。あの人は、ただの普通オッちゃんだ。
サトウは、ミツウラさんのざれごとを、信じているのか。
お前ほどの透徹(とうてつ)としたヤツが。

「うふふ。信じられないでしょうね」

「……」

「でも僕は、信じています。なぜなら……」

サトウは、そこで言葉を止めた。そして、嗚咽(おえつ)が、漏れてきた。
もしかして、サトウは……。そうなのか? 本当にそうなのか?
あり得ない。あり得ないけど……そう思ってしまう。
サトウは、幽霊? なのか。

違う。
サトウは、死を目前にした病気で。
死を悟りきりって……。

「そう。僕の命は、もう終わっているんです」

「……」

「もう死んでいるんですよ。一緒の部屋にいて、気づきませんでしたか?」

「……」

「僕が、もう、すでに死んでいるって事に」

やっぱりだ。
サトウは、死を目の前にした病気を患って(わずらって)いるんだ。
そして、すでに自分は、死んだ気でいるんだ。
僕は、サトウが嫌いだった。

けど、「元気出せ!」という言葉くらいは、かけたい気分になった。

「今、君が思った事。全然、的を射(え)てないですよ」

でも、君は、泣いているんだろう。
嗚咽が、漏れているんだよ。だから、サトウ、君は死んだ、気でいるんだ。
現実に戻って来い。最後の最後まで、全力で生きるんだ。
と僕は、サトウ、そう言いたかった。言いたかった。
言いたかったんだけど……。
言えなかった。

「うふふ。その前に、なんでお見舞いの人がこないのか、分かりますか?」

「……」

「最近、医者や看護士を見かけました?」

サトウの嗚咽が止まった。
と同時に、不思議と空気が凛(りん)と、張り詰めた。
サトウは、何か、大事な事を、僕に告げようとしているようだ。

「それは、僕を見れば分かる。君は、重大な事を見落としているんです」

なんだ?
サトウ、お前は、何が言いたいんだ?
俺は、早期発見の癌でだな。命には、別状もない…ん……だ。

「僕も、君も、幽霊なんです」

「……」

「そして、ミツウラさんは、幽霊と話が、できる人なんです」

「……」

「更に君は、僕を、サトウと呼んでいる」

「……」

「でも違うんです。僕は、サトウ、じゃない。そして君の名前は……」

僕の名前は、砂島(すなじま)。
だから、なんなんだ。サトウが、「うふふ」と笑った。
サトウは、何とも不気味な笑みを浮かべたのだ。

「うふふ。砂島くん。サ・ト・ウ。そう。サトウとも読めるんですよ」

僕は、思い切って、ベットを仕切っているカーテンを、サッと強く開けた。
そこには、誰もいなかった。ただ無情にベットが在(あ)るだけ。
サトウは、すでに……死んでいたのだ。
そうとしか思えない。
幽霊だと。

そして、僕は声をあげようとする。

「そうです。僕と君は二人で一人の魂なんです。多重人格の幽霊なんです」

「……」

「そして、君は、僕の片割れの幽霊。まだ分からないんですか?」

馬鹿な。
僕は、もうすでに死んでいたのか。
でも、僕の癌は、早期発見で、命に別状はないって。

「うふふ。都合の良い記憶を作り上げる位、君は死ぬのが怖いのですか?」

「……」

こ、声が出ない。そ、そんな、馬鹿な。あり得ない。
僕は、自身の手を、そして、足を見てみる。
ない。ないのだ。透けている。

そんな。
そんな馬鹿な。ウソだろ!
僕たち二人が、多重人格の幽霊で、どちらも死んでるなんて話。

「うふふ。本当にそうでしょうか?」

「……」

くそっ。声さえ出れば。
いや、手や足がない時点で、アウトなのか。
そうなのか。本当にそうなのか。

サトウは、自分が、幽霊だという事を受け入れていて、僕は……。

馬鹿な。違う。
僕は、早期発見の癌でな……、嫌だ! 死にたくない。
僕は、まだ十五才なんだ。死ぬには早すぎる。
早すぎるんだよ。あり得ない!

「うふふ。少なくとも、僕は、もう死のは、怖くないですよ」

「……」

「うふふ。なにも言えないでしょ。君も死んでいるんです。気づきなさい」

死にたく…な……い。
僕は、そう思うのが、精一杯だった。
なぜなら、僕もサトウのいう通り、幽霊だったのだから。

「……」

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最終更新日  2012年06月15日 21時06分49秒
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