000000 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【ログイン】

読書のスるメ

2012年07月10日
XML
我輩は、アリとキリギリス のモデルとなったキリギリスの直系子孫。
ただ、そうはいっても、他のキリギリス達と何も変わらない。
ドコにでもいるバッタの一種。

しかし我輩は、昆虫界の紳士、そして一流の音楽家。

他の虫達は、みな一様にどちらも勘違いと言うが、それは、どうでもよい。
事実、我が輩は、紳士で一流の音楽家なのだから。ま、自称だが。
少なくとも我が輩の中では、そんな事は、問題ではない。

ただ、ちょっとした事情が、あってな。
ま、アレだ。我輩の家は、没落貴族と呼ばれる状態になっている。
真の貴族ではないのだが、祖父の代までは、そこそこの家系だったからだ。
そう呼ばれても、なんら不思議もないと思っている。
落ちぶれたというヤツだな。

我が輩は、演奏や作曲で、なにかと忙しい。
そんな我が輩が、なぜペンをとり物書きの分野に手を染めたのか? だが。
かいつまんで言うとこうなる。

広く流布しているアリとキリギリスという童話を初めて読んだからである。

なに? まったく意味が分からんとな。
まぁ、そうせくな。まずは、この実態を知ってもらわないと、だ。
童話の内容があまりにも、我が輩の祖父の話とかけ離れていたという事だ。
そして、我輩の心を傷つけたという事実がある。

ならば、裁判に持ち込めば?

……なんて、馬鹿げた事をいうでないぞ。
我輩は、人間ではなく昆虫なのだ。昆虫が裁判なんて、おかしいだろ?
しかし、無論、昆虫界にも裁判所なるものは、ある。

あるが、昆虫界の裁判所に人間を出廷させるわけにもゆくまい。

しかもアリとキリギリスの作者、イソップは、すでにこの世を去っている。
死人に鞭を打つよう、被告にしてもしかたがあるまい。
しかしながら、我が輩は、傷ついている。

そうして、逆に我が輩が人間の裁判所に出廷したらどうなる。
想像に難(かた)くない。笑いものであろうな。
そんな事は、いうまでもない事だが。
ただ念のため記しておこう。

なぜなら人間にとって、我が輩は、しょせん昆虫でしかないのだから。

勝訴、敗訴の話ではない。
しょせん昆虫が起訴しても人間は話すら、まともに聞いてくれないだろう。
というか、そこまでもゆくまいて、悲しい実情だがな。

だから我が一族の為、そして我輩の気持ちに従って筆をとった次第なのだ。
そのイソップとやらの鼻をあかす為にな。

むぅ……?
生きてない人間の鼻をあかすのって、どういう事だ、だと?
どうやら主には、想像力が足らん様だな。

そうではない。
逆説的に考え、イソップの鼻をあかす事態を想像してみろ。
イソップは、人間どもに人気がある。という事は、昆虫風情が、だな。
分かってきたであろう。主にも。

こんな愉快な事は、そうそうなかろう?

そうじゃ。
我が輩は自身の中で、鼻をあかし、満足して愉しみたいだけなのだよ。
別に実際のイソップの権威を傷つけたいわけではないのだ。

自己満足。

ただそれだけだ。
そして、我輩の気持ちを表現する事によって、我輩は救われるのだ。
祖父から聞いた、祖父の実情を書きしめす事によってな。

そして、むしろ我輩は、イソップを尊敬しておる。
我輩の中にある一つの真実を短い物語の中で表現しきっておるのだからな。
しかも、誰にでも分かり易く。

それは同じ創作者として、畏怖(いふ)の念にも似た感情だ。

しかし尊敬しておるからこそ、言いたくなるのじゃ。
ちょっと考えてみてもらいたい。主は、主自身、思った事がないか?
仮に主が創作者だとして。

自分と同じ創作界に住む、より高みにいる人物と肩を並べてみたいと、な。

そして、いつかは、その人物を越えてみたいと、だ。
少なくとも、我輩は、紳士で一流の音楽家。
常々、そう思っている。

ま、よい。話を続けよう。
まず、言わずもがな我輩の家系は音楽家。特技は、演奏なのじゃ。
そして、祖父から聞いた、あの時は……。

すなわち、あの時だ。
キリギリスは、初夏から秋の終わりまで、自由に遊んでいたという件だな。
少なくとも祖父は、遊んではいなかったと言っていた。
我輩も祖父の言葉を信じている。

アリ達が、汗水たらし一生懸命、働いている。

だから、それを演奏という形で、応援しておったそうだ。
そう。人間界で例えれば、ミュージシャンと呼ばれる人種だったんだな。
ミュージシャンの生き方を考えて欲しい。
ミュージシャンは……。

会社に勤めて、一生懸命、働いている人達の事を曲に書くだろう?

そして、歌って応援する。
ただし我輩の祖父とミュージシャンと呼ばれる人には、大きな違いがある。
それは、歌った結果の報酬と呼ばれるモノだ。

祖父は、ソレを求めなかった。

だから怠けて、遊んでおったと他の虫達からも言われた。
そして、イソップも、キリギリスが、遊んでいたと表現したのじゃろう。
ただ、それは致し方のない事だと、祖父も分かっておったようだ。

じゃ、なぜ、報酬をもらわないのか?

創作者なんて虫種は、自分の思うままに生きたいと思っているからだ。
祖父は、その気持ちを忠実に実行したダケの事だ。
当然、好き勝手にやれば……。

必ず、それをありがたいと思う虫と迷惑だと感じる虫が現われる。

その両方をひろう事は、祖父には無理だっただけの話だよ。
だから報酬なんて考え方は浮かびもしなかった。
それだけの事なんだ。

報酬を受け取らない代わりに想うままに生きる方を選んだんだな。

ありがとうと想ってくれた虫からありがたく日々の糧を恵んでもらうだけ。
我が輩の祖父は、それだけで、満足していたのだろう。
ま、そのなんだ?

始めに書いた没落貴族というのも、そこ辺りが原因なんだがな。

ただ勘違いするでないぞ。
我輩の家系以外のキリギリス達は真面目に働いておる。
報酬をもらうプロの音楽家としてだ。

我が一族だけが、怠け者と呼ばれるキリギリスなのじゃからな。

そして、祖父のそんな自由気ままな人生にも、辛く、厳しい冬が来た。
寒く、そして、どんな虫にも食料が欠乏する冬がきたんだ。
イソップ作のアリとキリギリスだと……。

その冬。
祖父は、アリの家に行き、冷たくあしらわれ、トボトボと、帰ったとある。
が、それは、断じて違う!

違うのだ!

我輩は、祖父とは、40年近く一緒に過ごした。
そして祖父が、後悔なんてする事は、そうそう無かった。
だから、自信を持って言える。

報酬をもらわず夏の間中、アリを歌って応援し、そして困った時に頼った。
しかし、余裕のないアリに裏切られ、それを断られた。
ただし祖父の中では当然の事だった。

もしその状態が嫌だったら真面目に働いていたと、そう思う。

そして、我輩が、一番、言いたかったのが。
このトボトボと表現された事と、かけ離れた 事実なんだ。
童話では、さもキリギリスが怠けて遊んで、後悔したという書き方である。
が、祖父は冬、以降も演奏し続けた。

また、困っても誰も助けてくれないと知りながら。

それが、なにを意味するのか、分かるかな?
そうじゃ、祖父は、それでも自由気ままな演奏を選んだのじゃ。
自分自身で考え、選択してな。

より、後悔を少なくする為に、だ。

それをトボトボとひとくくりで、表現して、いいわけがないではないか。
スタスタと 、もしくはスッと、と表現して欲しいと思っている。
ただし……。

祖父の心の内の確かなところは、我輩にも推して測る事しか出来ない。

しかし、その後も演奏を続けたのも事実なのだからな。
ま、よい。我輩が、こんな気持ちである事だけ、皆に知ってもらえればな。
そして我輩は、そんな祖父が本当に好きだったし、尊敬していた。

だから、我輩も自由気ままな演奏を選んだ。
それは、怠け者と皆から言われる生き方なんだが。
少なくとも後悔はしていない。

言いたい輩には、言わせておけば良いんだ。

我輩は、我輩の好きなように自由気ままに生きてみせる。
どうせ、生き物は最後に死ぬんだ。
悩んでもしょうがない。

一流の音楽家として、好きなように生きてみせるぞ!

祖父のように。
それが祖父から我輩に、唯一託された大切な言葉(たから)なんだしな。
ま、そんな次第だ、我輩が言いたかった事は。

あっ……、と。
最後に言い忘れていたよ。
我輩の家系は、祖父の代から没落し始めた。
それは、あの愛すべき、怠け者、イソップのつぶやきから始まったんだ。

「どうせ最後は死ぬんだ。物書きとして好きなように生きてみせる!」

……というつぶやきからだな。
それを草葉の陰から聞いておった祖父が感化されて、没落し始めたんだ。
それも、これも、全て、神の定めた運命かも知れない。

ただし、我輩は、運命なぞ信じないがな。

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

↑次号、キリギリスとアリのアリ登場!(ウソw)。






最終更新日  2012年07月10日 17時14分10秒
コメント(0) | コメントを書く
[ショート・ショート] カテゴリの最新記事

Copyright (c) 1997-2017 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.