フロリダより、愛を込めて! 全盲の娘の子育て日記。

2. いよいよ、育児開始!

2. いよいよ、育児開始!                                     
 家に帰ってから、娘の良く眠ること、眠ること。聞きなれた音、雰囲気。世田谷通りの交差点の角に立つ、騒音の激しいところでしたが、10ヶ月近くお腹の中で過ごしたなじみの深い部屋に戻って、娘も安心したのではないでしょうか。眼の周りを真っ赤にはらして、検査の後がうかがえました。苦しい思いをしてやっとこの世に出てきたのに、母に抱かれる前に、こんな小さなからだで、病院で検査を受けていたのかと思うと、娘が不憫で初めて涙があふれて来ました。そして、初めてこんな体に生んで申し訳ないという思いが広がり、私は泣くことしかできませんでした。

 そんな時主人が言ってくれました。”これは、父親の僕のせいでも、母親の君のせいでもないんだよ。彼女が自分で神様と決めて生まれてきたんだよ。無眼球で、全盲でこの人生を頑張って生きて見たいって。そして、僕たちを両親に選んでくれたんだ。だから、精一杯親として僕たちのできることを彼女の為にしてあげようよ。” 私の魂に響く、強く優しい言葉でした。

 ”え?私のせいじゃないの?彼女が自分の意志で選んで来たこと?” そう思った途端に、気持ちが急に軽くなりました。トンネルの向こうに光が見え、前進する目標が出来たそんな気持ちになりました。そうなんです、娘は何か訳があってこのような試練を選んで来たのです。本人はもとより、周りの人間が嘆き悲しむ理由はありません。そして、自分に超えられるハードルだからこそ、神様は与えてくださる。そう言う思いが強くわいてきて、私は涙と一緒に悲しみは洗い流し、何があっても私を母親に選んでくれたこの子の為に頑張ろうと決心しました。

 主人には軽い障害をもった双子の妹がいます。彼女たちと育った経験から、主人が主張しました。”家族が子供の障害のことを隠そうとしたり、なにか負い目に感じたりする態度が、本人に一番いけない。そうすると、本人も、自分は人より劣っているのではないだろうか、と敏感に感じるようになる。障害も一つの個性だよ。眼が無い、それが彼女の個性の一つだって、胸をはって人に話していこう!” だから、もう母として自分を責めることもやめ、また、彼女の無眼球を引け目に感じることもやめ、”これも一つの個性!”だと考えるようにしました。、、、とは言っても、人間には最初から強い人も、また弱い人もいますから、私の場合、正直なところこれは勇気の要ることでした。”胸を張って、私の娘には目がありません。”と笑顔で話せるまでには、相当時間がかかりました。娘の症状を話すときは、体がカーと熱くなり、いつも、冷や汗をだらだら、流していました。

 娘が生まれて10日目に、初めて国立小児病院を訪れました。いつも大変混んでいて、2-3時間待つのは当たり前。生まれたばかりの子供の通院は決して楽ではありません。それでも、娘の症状を気遣って、午後の誰もいない時間に見てくださるなど、先生の色々と娘の負担が軽いようにと気遣ってくださいました。検査の結果、眼が無いので、光も感じていないことが解りました。小眼球のお子さんだと、光覚(光を感じる力)のあるお子さんもいるそうです。この、光を感じる力がある、ないはとても大きな違いがあることが解りました。光を感じれば、それに向かって進めます。夜と昼の違いもわかるでしょう。光を感じないと言うのは、全くの暗闇の世界です。さらに、同じ時期に形成される聴覚の検査を受けましたが、聴覚には異常が全くみられないことが解りました。(一つの感覚を失うと他の感覚が発達すると良く聞きますが、娘の場合は、音感がとても良いようで、音楽が大好きです。)他に問題がないか、脳波をしらべたり、さまざまな検査を受けました。他に障害は無いかは発達と共に観察していくとの事でしたが、1ヶ月検診で、心臓に雑音が聞こえ、心臓の右心室と左心室の間の壁に穴が空いている心室中隔欠損があると言うことが判明しました。

 検査が一通り終わり、無眼球と心室中隔欠損症の二つの症状があることが解ったので、これからはこの2つの治療に専念です。それまでの、先の見えない不安から開放され、目標が出たので、気持ちが少し落ち着きました。でも、それもつかの間、いよいよ実践に移る段階です。人生は短いようでも長い長い道のりです。困難の時期を通っている時は苦しくても、今となっては、一つ一つが良い思い出で、私たちにとって人生の大切な肥やしとなりました。また、出会った多くの人たちに色々と助けられて来ましたが、逆に娘の存在が周りの人たちに与えた良い影響も大きいと感じています。この世に無駄なものは一つもないと信じています。いかに個人がその体験から学び、その体験を肥やしにするか、その気持ちが大切だと感じます。そして、人生は一冊の問題集だという言葉を聞きました。ひとつ解いては次へ進む。気が付いてみると、本当にありがたいことに、多くの経験・知識・知恵がたまっているものですね。



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