フロリダより、愛を込めて! 全盲の娘の子育て日記。

12. ミッシェルとバイオリン


12. ミッシェルとバイオリン                      

学校が嫌いだと言うミッシェルも、小学校の頃に”好きな科目は?”との質問には、「音楽と体育とリセス(Resess/昼休みのこと)」と大きな声で答えていました。 (昼休みは、科目のうちには入らないんだけどな、、。) ミッシェルは小さい頃から、手先を使う遊びと、体を動かす遊びが大好きでした。 大好きなトランポリンに始まり、ジャングルジムの頂上では、さらに上になにか無いかと、両手を上げてバランス良く一人で立ち上がっていました。 補助車のついた自転車のりやローラースケートでは、風を切って進む楽しさを味わいました。 勿論、視力のある人のようには行かない事も多いけれど、運動神経の良し悪しは視力がある無いとはあまり関係ないようです。 

盲児にとっては、耳からの情報が非常に大切なので、私も小さい頃から、良く音楽のテープやCDをかけて聴かせていました。 特にクラシック音楽が好きな私は、妊娠中からお腹の子供達にクラシック音楽聴かせてました。 子供達が通った幼稚園では、朝の登園後、静かにクラシック音楽をかけながら、しばらくの間、子供達を遊ばせてくれました。 一方、主人が家にいる時は、彼の大好きなレッド・ツェッペリン、ボストン、バン・へーレン等のロックのビートを、床に大の字になって、その振動を体全体で楽しんでいました。 幼稚園では、週に一回ピアノのレッスンがありました。 4歳で幼稚園に通い始めても、まだ、完全にオムツがとれなかったミッシェルを見て、その頃の私は、「ピアノなんて、まだ無理じゃないだろうか、、」とピアノのレッスンには、あまり積極的にはなれない私でしたが、幼稚園の先生は、根気良く、熱心にドレミの引き方を教えてくれました。 親の消極的な予想に反して、毎年2月に開かれる幼稚園の音楽会では、短い練習曲を他の子供達混じって一生懸命披露しました。 家に古いながらもピアノがあったので、一人で好きにたたいている事も、よくありました。

アメリカに引っ越してからも、ピアノのレッスンは続けさせたいと思いつつも、高価なピアノには手が出ず、安い古いピアノに手を出す勇気もなく、キーボードじゃ感覚が違う等と考えながら、もっぱら音楽鑑賞を楽しむ日が続きました。 その頃知り合った数少ない日本人の友達で、我が家の娘たちと同年代の息子さん達に、チェロとバイオリンを習わせている人がいて、 なんでも、スズキ・メソッドを教えているグループで、個人レッスンの他に月に2回程グループレッスンがある事を聞きました。 費用もそれ程高くありません。 幼い頃聞いた、子供が練習するバイオリンの音が猫の悲鳴のようだったので、バイオリンはとにかく難しいものだとの思い込みもあり、子供にバイオリンをやらせようとは考えてもみませんでしたが、友達曰く、「ピアノは持ち運びが出来ないけど、バイオリンはどこにでも持っていけて、手軽で良いわよ~。 それにミッシェルにも運び易いじゃない。」との一言に、単純な私は成る程と思い、ミッシェルが7歳の時に、隣町のショッピングセンターで開かれた、このグループのミニ・コンサートを見学に行きました。 それが、ミッシェルとバイオリンとの出会いであります。

その後、グループレッスンを見学し、子供達の活き活きとバイオリンを弾く姿に胸を打たれ、その場でレッスンの申し込みをしました。ミッシェルが8歳の誕生日を迎える時です。姉妹の先生がバイオリンとチェロを教えているグループは、和気あいあいとして人気もあるようで、レッスン時間の空きがないからと約3ヶ月待つことになりましたが、ミッシェルが8歳を迎える丁度一ヶ月前にクラスに入れてもらえました。 隣町まで放課後の片道1時間のドライブは 楽ではありませんでしたが、何か一つでもいいから自信の種を植えてやりたいと、送り迎えも苦にはなりませんでした。 何よりも、真剣に練習に取り組み上達していく娘の姿を見るのは、私たちにとっても楽しみでした。 先生にとっても、盲児にバイオリンを教える事は初めての経験です。 盲児にとってスズキメソッドの良い点は、先ずは耳で聞くことにより曲を覚える事だと思います。 点字の音符はかなり複雑で、ミッシェルも去年から少しづつ習い始めましたが、まだ、一人で読める程上達していないので、ミッシェルの場合は、全て耳から曲を覚えます。 家でスズキ・メソッドのCDを毎日のように聴かせることにより、曲は頭にインプットされるようです。 「良く覚えられるね。」と感心されますが、楽譜を見えない彼女にとっては、暗譜するしか方法はありません。 

又、ミッシェルは絶対音感を持っています。生活の騒音、全てに名前があります。 蛍光灯が発するジーといった音も、Bフラット(シのフラット)だなんて話しています。 ある時、音楽の好きな4年生の全盲の男の子に会いました。 やはり、彼も同じように、何をたたいてもどの音かちゃんと解ると話していました。 全盲であることと絶対音感を持っていることに関係があるかどうかは解りませんが、音楽の好きなミッシェルにとっては大変ありがたい事で、何よりもバイオリンの調弦に便利な事は確かであります。 反面、特売の安いCDを買おうものなら、「音が狂っていて、聞きづらいから、もう2度とそのCDはかけないで!」と怒ります。 私にはちゃんとした曲に聞こえるのですが、ミッシェルには絶えられないようで、以後安いCDには手をださない事にしました。 グループのリサイタルでも、他の人の演奏で音が外れていようものなら、「うぇ~!」と思わず声をだしていました。 「自分も音を外す事があるでしょ、人の演奏中に失礼だから、黙って聴きなさい。」とさとすのですが、相手の反応を見ない彼女は、正直に率直に自分の気持ちを言葉に出して、失敗することが良くありました。 今では、そんな事もなくなり、親の私は赤面する事がなくなりました。

曲を覚える事はそれ程、苦労はないようでしたが、バイオンの弓を弦に垂直に、尚且つ曲がらず、スライドさせずに引く事には、大変苦労しました。 見えないので、弓がまっすぐに弦の上を動いているかどうかは、回りの大人が教えるか、本人が音を聞いて、判断するしかありません。スズキ・メソッドは、親も一緒に練習に参加して、家でも子供の練習の指導をするように勧めています。 私もBook1ぐらいまでは娘と一緒に、弾けていましたが、その後はついていけなくなり、もっぱら口うるさく、弓が曲がってる、姿勢が悪い、と指導する方に回っています。

熱心に練習をするミッシェルですが、今まで2-3回壁にぶつかり、止めたいと口走る事がありました。毎日の練習の大切さを教えたかったので、宿題が多くても、夜遅くなっても、出来る限り練習を強制した私への反抗だったかもしれません。 でも、毎日こつこつと練習をしたからこそ、ここまでの上達があったことを話して聞かせると、本人も、そのとおりだと納得。 最初から上手だったら、学ぶ楽しみはありません。 今では、バイオリンはミッシェルにとって一つの大きな自信となっています。 大変だからと言って途中で投げ出していては、ここまで上達しなかったでしょう。 これからもこつこつと練習を続ければ、もっと上達するでしょう。将来は多くの人にバイオリンを披露する機会だってあるかもしれません。 勿論、人それぞれ得意分野は違います。でも、好きなら投げ出さずに、こつこつと努力をすることが大切だと本人も解って来たようです。 苦手な読書も、毎日少しづつですが、読もうと努力するその姿にも、娘の成長の様子が見られます。 


さて、上の娘のステファニーですが、彼女が幼稚園の時の私のピアノの指導が厳しすぎた為か、いやになったのでしょうか、楽器を始めたのは中学のスクールバンドにはいりクラリネットを吹いたのが初めてでした。 子供が幼い頃は、下手でも「じょうず!じょうず!」と誉めてあげるべきでしたが、私は「手が猫の手になってない、だめだ、だめだ」とついついしかる事の方が多く、完全に失敗したと思っています。 だから、学校でクラリネットをやりたいといった時は、私は内心とても嬉しかったです。 スクールバンドで3年クラリネットを楽しみましたが、盲学校でピアノやクラリネットを習い、上達の早いミッシェルをみて、音楽に関しては彼女にはかなわないと思ったのかどうか、お姉さんとしてのプライドもあってか、楽器の演奏よりも、もっぱら学校のスポーツ活動と読書に熱中しています。




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