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「あほやなあ」という貴方の声が(恋文)


「あほやなあ」という貴方の声が                    匿名  48歳・主婦・神奈川県
 山笑う季節に成りました。木々の緑もここぞとばかりに色鮮やかに競い合っております。
こんな良い季節に、貴方にお会い出来たなんて、何と幸せなことでしょう。本当にお久し振りで御座います。
 今年、祖母の三十三回忌の知らせを受けた時、正直言って迷いました。
結婚して、この大和の地に住みついてそろそろ三十年近くになろうとしている現在、生まれ育った岐阜の田舎は、私にとても遠い存在になっていたからです。
 折り返し祖父からの電話があり、「これが最後の法事だし、こういう機会でもなければなかなか来れないと思うから、今回は是非主席して欲しい」と言われ、さらに「俺も歳をとったし」と、しみじみした口調が続き、私は重い腰をあげてのでした。

 
あの頃、私は高校一年生でした。貴方はすでに社会人。十歳も年上の叔父様です。二十六歳という若いあの頃の貴方がとてつもなく大人見えて、私はひたすら甘えてばかりいたような気がします。
 マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』
 貴方が初めてプレゼントして下さった本です。私はこの長い小説を徹夜で読みふけりました。赤いビロードのブックカバーをつけたこの本は、私の机の引き出しの中で、今も健在です。
「パチンコせえへん?」と、いたずらっぽく誘う貴方に、わざと不良っぽく「もちろん」と慣れたようなふりをして入ったパチンコ店。本当は初めての私は、トンチンカンな行動しかとれなくて、それをからかうような眼差しで眺めていた貴方でした。そして、それからしばらくして、貴方は私の叔母さんと結婚されましたね。
 あの頃頂いた結婚式の招待状は破り捨てました。つでに数々頂いた貴方からのお便りも破り捨てました。そのあと涙が拭いても拭いても止まらなかったことを覚えています。もう決して会うことはない、会うまいと決めていた貴方に、はからずも祖母の法事でお会いして、少女時代にタイムスリップしてしまった私です。
貴方はやっぱり昔と同じ大人の叔父様でした。
 貴方の奥様である叔母が、半年前に亡くなられ事をお聞きしていながら、こんな手紙書いてる私を、貴方は許して下さいますか。
「あほやなあ」
 貴方の声がふと聞こえたような気がします。
 ごめんなさい。そして、さようなら、ほんとにさよなら。



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