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次の日の夕方、昨日より少し早い時間に山崎は院生室に一人でやってきた。ドアをノックする音に返事をしたのは、衛だった。山崎はおずおずとドアを開けて顔を見せると、あの、アキラさんは?と弱々しい声でたずねた。
「おい。」 衛は床に転がっている塊を蹴った。 「てっ。」 机の下で、床に銀マットを敷いて眠ていた暁は、びっくりして飛び起きて机に頭を打った。 「てめぇ、今蹴って起こしたろ。」 机の下から這い出してきた暁は、はねた髪の毛を手で押さえつけながら、衛を睨んだ。 「お前はそれくらいしないと起きないだろ。時間だよ。」 衛はそういうと、視線を入り口に向ける。その視線を追うと、先で山崎がペコリと頭を下げた。 「おお、悪い。すぐ行くからミーティングルームで待ってて。」 暁は立ち上がって、もう一度頭を手で撫でつけると、4色ボールペンと裏紙を2,3枚引っつかんで山崎の後を追う。 「あ、マモル。コーヒー二つね。」 出て行く直前に衛に向かってウインクすると、返事を待たずにドアを閉めた。衛はチッと舌打ちしながらも、コーヒーを淹れる為に立ち上がった。 「昨日はごめんな。今日はカトウは一緒じゃないんだ?」 暁は机を挟んで山崎の向かいに座ると、ボールペンを右手でクルクルッと回した。はい。と答えた山崎は、いつになく緊張の面持ちで、膝に手を置いたままピシッと背中を伸ばしていた。 「えっと、実験の計画見る約束だったよな?」 暁はボールペンでポリポリと頭をかくと、覗き込むようにして山崎を見た。 「それは昨日、マモルさんに見ていただいたので・・・」 「あー・・・、ホント、ごめんな。」 暁はまいったなという顔で、笑ってみせた。 「あのっ、今日は、言いたいことがあって・・・来ました。」 声が裏返るんじゃないかと思うくらい力の入った感じで言われたものだから、暁はちょっとびっくりして目を見開いた。 「あ、うん。聞くよ?・・・どうした?」 山崎は思考に口が付いていかない感じで、2,3度パクパクしてから、真っ赤な顔をして切り出した。 「俺、昨日、衛さんに言われて、気づいたんです。」 「うん?」 暁は、またあいつはなんか余計なこと言いやがったなと思い腕を組むと眉を寄せた。 --- 君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・30 人物紹介 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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