伸子張り
伸子張り(しんしばり)を御存知だろうか。着物を洗濯する際、まずは縫っている糸をすべてほどいて布切れに戻し、それを一枚の長い反物に縫い合わせてから、手洗いする。干す時に、左右に針が付いた細い竹の棒を、反物に3㎝くらいの間隔で何本も挿し、これでピンと張られた布に上から「ふのり」を刷毛で塗って、生地に再びの張りを施す。これが「伸子張り」。子供の頃、春の天気のよい日に祖母や母は冬物の着物をほどいて洗い、この「伸子張り」をしていた。もちろん、乾いたら、それをまた元の着物の形に縫い直すのだから、とても大変な作業だが、昔の女性はこれをやっていた。(ちなみに高価な晴れ着や訪問着等は、洗い張り専門のお店に出したようだ)子供心に、庭にこの「伸子張り」された着物が並ぶ光景は、とてもきれいで好きだった。ピンと張られた反物が、風にあおられ、揺れる光景を思い出せる。ただの長い布に戻ったものが、再び縫われて着物の形に整う。すごい技術に思われて、大人の女性を尊敬したものだ。もう見られなくなってしまった。でも、田舎のほうではまだ見られる光景なのだろうか?そもそも着物を着る人が減ったし、それを自宅で洗い張りすることも、滅多にないこととなった。そういう私は・・バストが大きく、着物で締め付けられるのも苦手(呼吸器しょう害もあるし)なので、着物はもう何十年も着ていない。結婚する時に持ってきた訪問着も、とっくに年齢的に合わなくなってしまい、正絹の着物生地で洋服を作っている作家さんに、乞われるまま差し上げてしまった。残念だけれど、今は遠い記憶の中の春ののどかな風景として、思い出すことがあるだけだ。