高論歩事件帳 どうしてこうなるのかなの巻2
♪♪♪どうしてこうなるのかな♪♪♪ の巻2 公民館の座敷では村長が髪の毛の薄くなった頭を手拭いで拭いながら、保育所建設の説明を始めた。「待機児童を無くするため、公民館の横の村の敷地に18名を預かる保育園を建設するいことにしました。これは、村長選挙の公約でもあり、住民の切なる願いでもあり、新保育園の開園により、当村の待機児童は県内で初めて待機児童ゼロを達成できるのです。以上が保育所建設の説明であります。」 上座にずらりと座った、議員、課長さんが、パチパチパチと村長の説明に手を鳴らした。高論歩刑事と丸田万吉巡査の前に座っていた農家の親父さん風の男の手が上がった。「だが、村長さんよぅ、その保育園の理事には阿晋村長の奥様の昭子さんが名を連ねていて、聞くところによればよぅ、保育園の名前が、阿晋太郎保育園と言うことで、そこに、村の補助金を出すことにしてるってのぅ、こりゃあ、いくらなんでもやりすぎだんべぃ」 村長、頭の汗をふきふき、にこにこ顔で答弁、「そうだいな、昭子のことを、村長婦人だと皆が持ち上げるもんだから、昭子は喜びすぎて、勘違いして偉くなったような気持になって、あちこち出かけていろんな役を引き受けていただよ、、昭子には、よおく注意しておくっぺ、そんで、保育園の理事も辞めさせるべえよ、阿晋太郎保育園の名前についちゃな、おらあのほうが、こっぱずかしくて、やめてもらっただよ、補助金についちゃ、それが建設の条件だったし、議会も賛成したことだしよ、 よかんべえ、、村長もそうだが、議員さんもそうだけんどな、みんな村のために一生懸命働いてるだぁよ、賄賂とは言わねえが、余禄というか、少しはいい思いをさせてもらってもよかんべえ、お偉い、国の議員さんなんかは随分甘い汁を啜ってるよ、もっとも、それがなけりゃ誰も議員や村長を引き受けやしねえだぁよ、まあ、村の明日のためにやったことなんだ、、こんなとこで、勘弁してくんろ」 次の質問者は眼鏡をかけた小難しそうな女だった。「質問します、建設予定地の300坪の土地の値段は不動産鑑定士によれば、坪三万円、300坪だと、900万円になりますがそれが、、、♪♪♪、、、ど.う.ち.て.300万円になってしまうのかなああ、、♪♪♪」 途中から節をつけて唄うような喋り方で質問した。「あのぅう、お答えします、財務課長の山室でございます、この度の保育園建設には、村長さんの奥様の昭子様が尽力されておりましたので、村役場としても、積極的に推し進めたい思いでありましたので、、」「それは、関係ないでしょう、村の財産なんですよ、課長は村長の奥様、昭子様が保育園の理事になっているから、600万円も値引きしたのですか?それは村長に命令されたのですが、それとも、課長が忖度したのですか?まさか、記憶がないとか、記録を捨てたとか、言わないでしょうね、お答え下さい」「あのぅう、村役場の者ですから、国会議員や国の官庁のお役人様とは違いますので、都合よく記憶を消したりできませんし、記録を捨てたり焼いたりもしていません。そもそも、記録を消滅させるスレッダーなども村役場にはございません。さて、600万円の値引きを誰が決めたのかというご質問ですが、私が忖度したのでございます。600万円の値引きは妥当であったと考えます。何しろ、阿晋村長の友人が建設されるのですし、あのぅう、奥様の昭子様が保育園の理事であったのですから当然のことだと考えます。何しろ阿晋村長は村のために全国を飛び回り、外交をこなし、年内には村の憲法まで変えようかという、権力者なのです。村民の支持率も70%を超える高さです。我々村役場の職員は皆、村長の気持ちを忖度して仕事をしているのです。いちいち村長さんの了解をとっていたのではスピードのある仕事はできません。これは、どこの会社も同じことなどではないでしょうか?忖度して仕事をこなし、成果を上げる、だが、失敗した時には自己責任をとり、村長を傷つけない、それが正しい公務員の在り方なのです。あのぅう、忖度無くして仕事なし、忖度できぬは無能者です、村長さんの手足になって働くことは忖度職員になることなのです」「もう一度質問します、それで、村長の友人だから、特別な値引きをしたのですか?それを依怙贔屓といううんじゃありませんか?それであなたの心は痛みませんか?」「あのぅう、村長の友人ですから信頼もできますし、村のために保育所を造ろうとしているんです、その人を特別扱いすることのどこが悪いのでしょうか、依怙贔屓して、何が悪いのでしょうか、なにしろ、阿晋村長の大学時代からの友人なのですよ、、特別値引きは当然だと思います」「しかし、村の土地は村人皆の財産です。役所だけの判断で勝手に値引きしてよいものでしょうか?損失分の財産はどう補填するのですか?」「あのぅう、大変申し上げにくいのですが、もう、この村の土地を買う人はいませんのです。超高齢化が進んで、すでに消滅可能性村ですし、村全部が土砂災害危険地域に指定されました。既に、山間部では空き家は増え続け、不動産評価額はあってなきがごときものになっています。あのぅう、人口減少が進む中、毎年毎年、土地の評価額は下がる一方、土地の資産がやがて負債になる日も近いのです。山間部では、もう山の管理ができない、山をタダでいいから誰か貰ってくれ、村で引き取ってくれという話が頻繁に出てきている有様です。どなたかに山を貰っていただきたいのです」「それでも、村長の友人だからという理由で、便宜を図って、保育園建設の許可を出し、、特別な値引きをし、補助金を出すというのは、不公平な政治ではありませんか?」「あのぅう、公平、平等というのは、あくまで建前でございまして、そんなことはありえないことなんです。とかく、役所というものは、いろいろなしがらみや、人間関係、貸し借り、選挙の地盤のやり繰りなど、いろんなことが絡んでいるのでございます。あのぅう、公平平等ではことは進まんのですよ、そりゃあ、あんたも子供じゃないんだから分かると思いますが、世の中、不平等だらけで、不平等があるから、ことがうまく進むのであって、不平等を受けた人が平等平等と騒ぎますが、それは不平等が当たり前の世の中だからなんですよ、これは世界を見ても、歴史を見てもわかりますよね、不平等が無くしたら、世の中がひっくり返りますよ、あんたの家の中でも、家族みんな平等ですか?そうじゃないでしょう?だいたいは、男が割を食っているのでございます、そんなところで、ご理解いただきたいと思います」 最後の質問者が立ち上がった。「ところでよ、保育園というのは、赤ん坊から、小学校へ上がるまでの子供を預かるんだべ、そんな子供が村のどこにいるのけえ」「ええ質問ですがぁ、そこが大問題なのですなぁ、当村の少子高齢化率は非常に高く、高齢者は村人口の50%を超えております。そして、子供の人口比率は極端に低く、実は、保育園を作っても、18名の定員に対して、入園者は2名しかおりませんのだ。じゃあ、保育園建設は全くの無意味、無駄使いだという人もおるんですがぁ、いつか希望溢れる明るい村にするためにも、保育園を建設しておかねばならのですよ、子供がいないからと言って、保育園を造らなばよぅ、ますます村は寂れんだべぇ、子供を産めるおなごがおらんのですからなl、よそかぉら、おなごや、子供を、攫ってきてもいいから、子供を増やしたい思いでいっぺえなんだ、そんだからな、爺さん、婆さんも、諦めずに、朝鮮人参でも食って、もう一度頑張って挑戦して、、子供を作る努力を惜しまずに、毎晩励んでほしいのですがよぉ」 村長、言い終わって、恥ずかしいのか、冷や汗がでたのか、毛のない頭の汗を手拭いでごしごし拭う、公民館の中、しーーんとして、しらけ鳥がとんでいた。扇風機の音だけがぶーーーんと響いていた。抗議のプラカードを持って、ピンクのブレザーを着た50がらみの女が絶叫した。「違うだろーーーー!右だよ右、、左じゃねえよ、、、このハゲーーーーーーー!!♪♪♪、、ばばあや、じじいがはげんで、、どうなるのか、なああ♪♪♪」 馬鹿馬鹿しすぎて、高論歩刑事と丸田万吉巡査は公民館の外に出た。外では、油蝉までが、じーーんじーーん、ちがうだろーちがうだろーと、暑くるしく鳴いていた。 クーラーの壊れたカローラの車内はサウナ並みの温度になっているのだろうな、大事件だと呼び出されてきて、茶番劇を見せられた高論歩刑事は、ぽんっと、丸田万吉の巡査の肩を叩き、「チッチッチ、、、あのぅう、あついですねえ、丸田万吉巡査殿、、、、、」丸田万吉巡査の首がちょこんと縮んだ。(おしまい)作:朽木 一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村