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2018.07.05
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 ひろし君の家では、和菓子の製造販売をしているが、一番売れていたのは一個10円でアンコたっぷりの大福であった。多くの客が一度に10個以上買っているし、20個30個と注文する客もいた。当時の大福は純粋な餅で作っていたので、翌日になると固くなってしまう。
 それで残ってしまった大福は、翌朝に餅焼き網で焼いて、ひろし君たちの朝食になることがあった。さらに食べられないくらい売れ残ってしまったときは、餅の部分をアンコと分離して、新しくつく餅の中に放り込んで再生して使っていたものである。現代なら衛生的な観点から問題になりそうだが、昔は常識的な再利用法だったのであろう。

 さて大福談義が長くなってしまったが、春先になるとヨモギの葉を使った草餅や草大福の美味しい季節になる。それでヨモギの葉を菓子材料店から仕入れるのだが、その分だけコストが高くなってしまうのに、売価は普通の大福と同じ10円なのである。
 一種の季節サービス商品なので仕方ないのだが、ケチな紘一郎はヨモギなどは道端や空き地にいくらでも生えているのだから、それを摘んでくればただで使えると考えた。そこでひろし君を連れて近くのねず山へ行き、二人でヨモギを摘むことにした。

 ただ気を付けなくてはいけないのは、ヨモギの若葉は猛毒のトリカブトと形が似ているということである。それで父・紘一郎はひろし君にヨモギの見分け方を教えた。「ヨモギの葉はトリカブトのように光沢はなく、その裏側は白くて細かい毛が生えている」そして現物で比較すると全くその通りだった。
 それにしても材料費削減のためとはいえ、小学校低学年の少年にこんなリスクの高い作業をさせるとは・・・。今になって考えてみると、恐ろし過ぎる時代だったのである。

 さて最初は紘一郎と一緒にヨモギ摘みをして楽しかったひろし君だったが、二度目以降は一人で摘みに行かねばならなかった。忙しい紘一郎は、最初からヨモギの見分け方だけ伝授すれば、ひろし君一人で十分と考えていたのである。そしてヨモギ摘みはひろし君の定番の仕事となってしまったのだ。
 最初は面白がっていたひろし君だが、次第にヨモギ摘みが苦痛になってきた。ねず山に生えているヨモギを探すのや、その見分け方が段々面倒くさくなり、トリカブトも一緒に摘んでしまい、紘一郎に叱られたことも不愉快だった。
 それにヨモギを摘んでいる現場を、クラスメイトに見つけられて、一体そのヨモギをどうするのだと問い詰められて困窮してしまったのである。まさか正直に草大福の材料に使うなどと答えれば、何を言われるか分からない。

 それでひろし君が答えたのは、「ウサギの餌」だった。それを聞いたクラスメイトは、「お前の家でウサギなんか飼っていたっけ?」と怪訝そうに質問してきた。「いやーっ、近所で飼っている家があるのであげるんだ」と言いながら、ひろし君は逃げるように現場から離れていった。
 この日を境にして、ひろし君はねず山でのヨモギ摘みは辞めた。うるさく迫る紘一郎には、もうねず山のヨモギは全て採り尽くしたからと嘘を言い、どんなに叱られても絶対に行くものかと心の中で決心した。

作:五林寺隆

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最終更新日  2018.07.05 17:46:41
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