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2019.02.21
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 現在は国民の休日になっている『敬老の日』だが、実は昭和22年9月15日に兵庫県多可郡野間谷村で、村主催の「敬老会」を開催したのが始まりである。なぜ9月15日に決まったかと言うと、その頃は農閑期で気候も良い日が多かったからだと言われている。
 また敬老会を開いた趣旨は、お年寄りを大切にして、その豊富な知恵を借りて村づくりをすることだったらしい。その後も、そんな敬老会が兵庫県全体で行われるようになり、さらには「としよりの日」として全国的に広がっていったのである。

 そして時は流れ、「としよりの日」という名前は余りにもストレート過ぎるという意見が飛び交い、昭和39年に「老人の日」と改名された。また「としよりの日」の発祥地である野間谷村から、「こどもの日」と「成人の日」があるのに「としよりの日」が祝日ではないのはおかしいという訴えが繰り返された。そしてとうとう昭和41年に、現在の国民の祝日である「敬老の日」が制定されたのである。

 前書きが長くなってしまったが、ひろし君が小学3年生のころはまだ「としよりの日」と呼ばれ、祝日でもなかった。ただすでにこの頃には「としよりの日」はかなり全国的に普及していて、小学校の担任にも「君たちはとしよりの日に何をプレゼントするの?」などと聞かれていた。そんなこともあり、ひろし君も祖母のたねに何をプレゼントしたらよいか考えていたのである。

 しかしいくら考えても、なにをあげたらたねが喜ぶのか良く判らない。それで母のみつ子に相談すると、「ひろちゃんからのプレゼントなら、おばあちゃんは何でも喜ぶと思うけど、できれば下駄が良いんじゃないの。」という答えが返ってきた。実は今年の母の日にみつ子に下駄をプレゼントしたのだが、きっとみつ子も嬉しかったのだろう。
 それでひろし君は、お年玉や小遣いを貯めていた貯金箱をひっくり返して、梅ヶ丘商店街の一番奥にある山岡下駄店まで走って行った。年寄りといっても、たねはまだ50代後半である。ひろし君はたねの年齢や風貌を下駄屋のおばさんに伝えて、たねに似合いそうな下駄を選んでもらった。

 さっそくひろし君は、プレゼント用に包装してもらった下駄を、たねの住んでいる代田橋まで届けることにした。以前は小田急線、井の頭線、京王線を乗り継いで代田橋まで行ったものだが、今回は買ったばかりの自転車で行くことにした。ちょっぴり不安だったが、東松原を通って甲州街道へ出れば、電車で行くよりずっと早く着くからである。
 
 それでもたねの家に着くまでは30分近くかかる。自転車で遠出したためか、ひろし君はかなり息切れしてしまった。さて1年前までは月に1~2回は必ずたねのところへ泊りに行ったものだが、最近はもう半年以上たねと逢っていない。
 以前はたねのところへ行くと必ず『少年』という月刊誌を買ってもらっていた。ある日たねに「雑誌を買ってもらいたくて来るのだろう」と見透かされ、「そんなことはない!」と怒ってすねまくった記憶が残っている。
 だが最近は父の紘一郎が『少年』を買ってくれる。それでたねのところへ行くのが遠のいてしまったのかもしれない。やはり以前たねのところへ頻繁に行ったのは、『少年』が目当てだったのだろうか・・・。

 そんなことを考えながらペダルを踏んでいるうちに、いつの間にかたねの家についてしまった。たねは菓子屋を辞めて小さな食堂を営んでいる。店の扉を開けると「いらっしゃいまし」という懐かしい声が聞こえた。
 「なんだひろちゃんか、お客様と勘違いしちゃったよ、今日はどうしたのかい?」久し振りにたねに逢ったためか、ひろし君はしばらくモジモジとしていた。

 「えーと、今日はとしよりの日だから・・・おばあちゃんにこんなものを買ってきたんだ・・・。」ひろし君はやっとそれだけ言いながら、丁寧に包装されている箱をたねに手渡した。
 「いったい何だね」と言いながら、たねは丁寧に包装紙をはがしている。そしてそっと箱を開けると、しばらくの間じっと箱の中を見つめていた。「ありがとう、ひろちゃん・・・」小さな声でそう言うや否や、たねはそのまま家の奥にある仏壇に、下駄の入っている箱を置いて何かを呟いていた。

 戻ってきたたねの顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていたが、気の強い彼女は凛とした佇まいは崩さず、「こんな高いものを貰ってもいいのかい?」と何度もひろし君に確認していた。ひろし君はなんだか照れくさくてたまらない。
 「今日はちょっと他に用事があるので、もう帰るよ」と言い、「いま来たばかりなのだから、もう少しゆっくりしていきなさい」と言うたねの言葉を無視して自転車を発進してしまった。

 ひろし君がペダルを踏み込みながら後ろを振り返ると、ずっと手を振っている小さなたねの姿が見えた。どうしてもう少し優しくしてやれないのだろうか。
 ひろし君はなんだか悲しくてたまらなくなってしまった。そして今度来るときには、もう少し優しい言葉をかけてあげようと決心したひろし君であった。すると突然「ひゅーっ」という音を立てて、生暖かい秋風が吹きつけてきた。まるで濡れたひろし君の頬を乾かすように・・・。

作:五林寺隆

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最終更新日  2019.02.22 09:53:32
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