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2019.05.03
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 マンガだけは誰にも負けないくらいよく読んでいたひろし君だが、小説はおろか絵本の類も読んだことがなかった。母親のみつ子は、そんなひろし君を見ていて、このままではバカになるのではないかと心配でしょうがない。
 そこで梅が丘商店街の外れにある書店に行き、店主に小学三年生が読める小説を探してもらった。それが『とんち彦市』という小学生向きの読み物であった。

 はじめは余り興味の湧かなかったひろし君だったが、産まれてはじめて読んだ小説の面白いこと。二流マンガよりずっと面白いし、いろいろな知識が身についたような気がするのであった。
 子供の彦市が得意のとんちで、殿様たちを感心させる話なのだが、読んでいるひろし君も感心してしまうくらい、素晴らしいとんち話が次から次へと、たくさん出てくるのだ。ひろし君の目前には、なんだか長い道がずっと広がって見えるような気がしたものである。

 それから3か月後に、商店街の小旅行があった。貸し切りバスで江の島へ海水浴に行くのである。バスの中は床屋のおじさん、酒屋のおばさん、米屋の娘たちなど、よく知っている顔で満杯だった。
 皆が歌を歌う。米屋の由紀ちゃんが、美しい声で皆がよく知っている唱歌を歌った。拍手喝采である。ひろし君は音痴なので静かにしていたが、妹の知子がマイクをとった。彼女は由紀ちゃんと同い年である。歌ったのは歌謡曲の『ドドンパ娘』で、ドスとコブシ回しが子供と思えないほど上手で、これまた拍手大喝采だった。
 ところが父の紘一郎は気に入らない。「子供は由紀ちゃんのように童謡や唱歌を歌うものだ」と知子に文句を言い続けている。そう言いながら、自分は一杯入った勢いで『芸者ワルツ』なんかを歌ってしまう始末。そして歌い終えてから、「こりゃあ、子供の教育上よくないかな」などと笑いながら言い訳するのだった。

 一通り皆が歌い終わると、今度はお約束のバスガイドさんの歌がはじまる。さすがプロ級の上手さに、またまた拍手大喝采。そのあとにいよいよ、ひろし君が待ちわびた『なぞなぞタイム』が始まったのである。
 「英語で月のことを『ムーン』と言いますが、太陽のことは何というでしょう?」商店街で英語のできる人は少ないが、中学生で参加していた少年が「はい、サンです」と当たり前の回答を返した。(それじゃあなぞなぞにならないじゃないか)ひろし君は、じっくり考えてみた。
 そしてはっと気が付いて手を挙げる。「ホエールズです。大洋ホエールズです」とプロ野球の球団名を回答とした。「お見事、当たりです」とバスガイドが答える。
 「それではもう一問、日本で一番有名な花は何という花でしょうか?」。「はい桜です」(またまたこれはなぞなぞなのに、バカな奴ばっかりだな)またひろし君が手を挙げる「相撲の若乃花です」。「またまた大正解、坊やは物知りだね」とバスガイドがお世辞を言う。

 「ひろし、凄いじゃないか」と紘一郎に褒められたせいか、俄然ひろし君は調子に乗ってしまった。そして「今度は僕がなぞなぞを出します。お日様は、朝と夕方は大きく見えるけど、昼は小さく見えるのはなぜでしょう?」
 バスの中はしーんと静まり返ってしまった。誰も分かる者などいるはずがない。ひろし君は確信した。そして「ガイドさんは分かりますか?」と追い打ちをかけたのである。ここまでやると可愛げのない餓鬼に成り下がってしまう。
 そして場が白けているのもお構いなしに、得意になって解答を説明するのだった。「お餅に例えれば簡単です。つきたての餅はふんわりと大きいけど、だんだん小さく固まってしまいますね。でもそれを食べるときに焼くと、ぷーっと膨らんで大きくなりますよね。だから夕焼け小焼けと言うのです」

 「君は東大に行けるぞ!」と大歓声、そしてまたまた拍手大喝采。ひろし君は嬉しくって堪らない。紘一郎も満足そうに頷いている。ただこれは『とんち彦市』の中のお話をそのまま流用しただけであった。でもひろし君にとっては、めったに褒められない『紘一郎の心証を良くした記念すべき日』だったのである。

作:五林寺隆


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最終更新日  2021.08.09 13:14:37
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