封印解除。
ずっと、ずっと、しまいこんでいたパジャマを出した。お風呂上りに袖を通す。 救急車で閉鎖病棟に搬送された時に着用していたもの。当時の苦しかった事が思い出される。救急車を乗り継いで搬送を受け入れてくれた病院。受け入れてくれてありがたかった。付き添いの人もなく、ひとり搬送される車内で、救急隊の人が手をにぎってくれた。今になって落ち着いて思い出す。どれだけ、こころが落ち着いただろう。 ナース室に一番近い、重症患者の部屋に入った。父・母・弟が深夜になってやってきた。母は泣いていたように思う。目も満足に開けない。何も会話はしていなかったように思う。ただ、涙があふれた。それは、ほっとした涙、申し訳ない涙だったように記憶している。翌朝、看護士さんに起こされる。点滴はまだついたままだ。点滴をつるしているその細く冷たい鉄につかまりながら歩く。歩けなかった。部屋から出られなかった。退院したその日、また、歩けなくなった。それからしばらくの間、車椅子の生活だった。そんな事が思い出される。 アタシはもがきながらもこうして、自分の足で歩く事も食事を摂る事もできる。良くなっているではないか。何も出来なかった時とは違う。考える事が出来ている。それだけでいい。アタシは確実に人らしくなっている。そして、感情が持てるようになった事。どれだけの回復だろう。 きっと、また、明日からがんばれるそんな気がしてきた。