テーマ:独り言(100)
カテゴリ:独り言
ファミレスで私立の男子高校生が四人でモノポリーだかバンカースだか人生ゲームをしていた。結構真面目な学校の征服の子達だった。
少しうるさいくらいにはしゃいでいたけど、とても楽しそうだった。ゲームの中で不動産を取得するのに必死だった。破産してしまった子を皆が笑った。株で大儲けした子はガッツポーズをとっていた。 その隣の席ではやはり私立の女子高生がかなり淫靡な征服の着こなしをして、四人がけのテーブル席に無理やり7人で座って、何語だかわからないような彼女たち特有の言葉でしゃべりまくっていた。 お化粧をしている子もいれば、携帯でメールしている子、髪を梳かしている子もいた。 その他にも似たようなグループがあと三組くらいいた。 だからその禁煙専用室は物凄い騒音だった。もともと騒音指数とは航空機騒音の測定評価のために考案されたらしいけれど、中高生の集団の為であってもおかしくはなかったと思う。 コンピューターに向かう事も飽きたので、たまには手書きで書こうかな、なんて思ってやって来たけれど、とんでもなく場違いだった。だから学生の子達を何気に眺め観察していた。 今の時代は若さというのが重大視されているように思う。前はもっと大人であることが重視されていた。だから早く大人になりたいと思っていた。行動も大人のように振舞っていたと思う。早く大人なりたい。早く大人になって自由になりたいと思っていた。大人になっても自由なんてそんなに簡単に手には入らない事を知らなかったけど。 子供でいること、幼くいることが、結構まかりとおってしまう今の時代。何でもいいけれど、学生を見ていてそう思ってしまった。 たまに行くマクドナルドに目の怖い女の子がいる。目の回りにくっきりとアイラインをバッチと描いている。まだ17歳くらいの子だけど。マクドナルドだから言葉は丁寧語だけれど、表情が反抗期そのもの。反抗してますって感じに満々ている。何故かマックに行くといつもその反抗少女に当たってしまう。どこかにかわいらしさを見つけようと思って彼女を見ると、何見てんだよ!という表情をする。その気持ちもわからなくはないけれど。私もその年頃に大人にジロジロ見られるのが凄く嫌だったから。それにしても本当に可愛げというものが微塵もなかった。相手が若くて格好いい男の子だったらきっと愛想もいいのだとは思うけど。 高校生の頃バイトしていた店のオーナーの娘が、藤圭子(前川清のもと奥さんと言うよりは、宇多田ヒカルの母親)をもっと綺麗にしたような人で、グラマーで、色気があった。その頃まだ25歳くらいで、声も乾いた色気というのか、とにかく、見た目はかわいい綺麗さなのだけれど大人びた色気のある人だった。仮にその人を小百合としよう。 小百合さんは考えられないような人と結婚した。高校生の私から見ればただのスケベ爺みたいな人と。お金はしこたまある人だった。 小百合さんには同じくらいの年頃の商社に勤める素敵な彼がいた。二人はちゃんと付き合っていた訳ではなかったけど。彼が小百合さんを好きで店に頻繁に来た。その店は中国料理店だった。小百合さんは店のフロアーを取り仕切っていた。看板娘だった。 その商社の彼を隆志とすると、隆志さんは綺麗で強気な小百合さんが好きだった。小百合さんは若くて強引な隆志を嫌いではなかったけれど、お互いが似すぎていて、どちらも素直になれないから、いつもあんな奴なんて言っていた。 「いい、男はね顔や若さじゃないのよ、男は甲斐性と地位と名誉よ。あと女に尽くさない人は駄目よ、だからあんな奴は駄目」 そんな事を小百合さんは良く言っていた。 「小百合さんがたまに会ってる、あのお金持ちの男の人のほうが隆志さんよりも良いということなんですか?」 と聞くと 「まあそうゆうことね。間違いはないわ」 「でもはたから見ていると小百合さんと隆志さん、お似合いですけど。それに隆志さん、男らしいと思います」 その時小百合さんは何故かはっとした顔をした。まるで初めて私を見るような表情を見せた。 すると少し嬉しそうな顔をして 「そう思う?」と言った。 「ええ、そう思いますけど」 と私は言った。 小百合さんとそのお金持ちの人は帝国ホテルで結婚式を挙げて、豪華客船で長い長い新婚旅行に行ってしまった。そのお金持ちの人は三度目の結婚だった。 小百合さんが新婚旅行に行っている間に隆志さんが店に一度だけ来た。 何て言ったらいいのかわからなかった。いつものように紹興酒とあわびのオイスターソース煮とペキンダックを運んだ。 「もう卒業だね」 と隆志さんは言った。 「君もいなくなるんだね」 「小百合さんも」 と言ってしまった。 「そうだね。彼女ももうここにはいないんだったね」 「そうですね。もうここには戻らないと思います」 「フラられた男も悪くないって思われたいな」 と隆志さんは笑って言った。 「カッコ悪いって思うんだろうな、きっと」 照れ隠しのように言っていたけれど、内心は泣きたいような気持ちだったのではないかと思った。 「こんな事聞いてもいいのかと思うんですけど、今でも好きですか?小百合さんのこと」 隆志さんは何てことをこの子は聞くのかと言うような顔をした。けれど良く考えてからちゃんと答えてくれた。 「好きだよ。急に人の気持ちなんて変われるものじゃないでしょ。でもどうにもならないから、忘れるしかないけど。でも今はまだ忘れられない。悔しくてね」 「小百合さんは隆志さんが本当は好きだったんです。私そう思ってます。でも、怖かったんだと思うんです。駄目になった時のことが。似ている同士だから・・」 隆志さんは暫くそのことについて考えた後に 「君は良くわかるんだね。いろいろな事が」 と言ってため息をついた。 それから三ヵ月後小百合さんは新婚旅行から帰ってきた。私は春休みを終えて社会人になっていた。 小百合さんから連絡があって店に寄るように言われた。お土産と卒業のお祝いをくれた。 とても幸せそうだった。相手の人は年もかなり上だったし、三度目と言う事もあって、女性の扱いにも馴れていたから、長く一緒にいても、ケンカもなかったらしい。女好きな人で信じられないくらいまめな人だった。 「私のいない間にアイツ来た?」 と小百合さんに聞かれた。 「隆志さんのことですか?」 「そうよ」 「一度だけ来ましたけど」 「何か言っていた?」 私は困ってしまった。何を何処まで話すべきか・・・。 「小百合さんは何を聞きたいのですか?」 「何って、何か言ってたのね」 「それを聞いてどうするのですか?」 「どうもしないわよ」 「元気そうでした。元気に振舞っていたと言った方がいいのかもしれませんが」 「そう。それで?」 「それだけですけど」 「えね、何か隠してない?」 「そんなに気になるのなら、何故・・・」 「何故なんなの?」 「すみません。失礼します。いろいろありがとうございました」 「ちょっと待ってよ。まだ何も聞いてないわ」 私は止める小百合さんを振り切って店を出た。 何故か小百合さんが許せなかった。 何も小百合さんが聞かなければ、隆志さん来たんですよってこっちから全てを言えたのに。 でも私には関係のないことなのに、何故こんなにこだわってしまったのか・・・。 小百合さんはその後、子供を沢山産んで子沢山な母親になった。 隆志さんはカナダ支社に行ってしまった。 最近になって小百合さんと偶然あった。本当に偶然。昔のように今でも綺麗な人だった。 小百合さんに誘われてティールームへ行った。 昔の話を沢山した。そして隆志さんのことも。 小百合さんの夫は相変わらず女好きで、生活は充分困らない以上に満たしてくれるけれど、何人かの愛人がいると小百合さんは言っていた。もうかなりの高齢だと思うけれど達者な人なのだろう。 隆志さんを忘れられなかったと言った。本当はやはり好きだったと。 だからあの時言わなかった事を小百合さんに言った。 「今でも小百合さんのこと好きですか?」 と私が隆志さんに聞くと 「好きだよ。急に人の気持ちなんて変われるものじゃないでしょ。でもどうにもならないから、忘れるしかないけど。でも今はまだ忘れられない。悔しくてね」 と言った事を。 それを聞くと小百合さんは涙ぐんだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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