テーマ:恋愛について(2606)
カテゴリ:Serial stores
放課後の校庭。 部活も終わる頃、日が沈み行く。 その冬のある時期がとても好きだった。 辺りは深い赤に染まり、だんだんに暗くなって行く。 空が赤から黒に入れ替わる頃に流れる、その曲が。 誰が流していたのだろう。 その曲が流れる頃には、すぐ隣の音大の練習も終わり、いつもの弦の響きとか、音合わせもなく、ただその曲だけが、校庭に流れ、一日の終わりを促すかのように、そこに居合わせる生徒達を感傷的にさせた。 今日の練習はどうだった? そうでもありませんでした。 そっか、試合は近いの? ええ、明後日です。 がんばれよな。 はい。 いつも優しい先輩がいた。 サッカー部の三年生。 まるで子供と話すみたに話しかけてくれるけれど 私はもっと違う目で見て欲しいと思っていた。 でもその頃の二歳違いは、大人と子供みたいだった。 先輩の後ろ姿を見送るけれど、振り向きはしない。 疲れた足を引きずるように、去って行く。 二年生になって、先輩が高校生になった夏 花火大会に誘われた。 ずっと好きだった事を、誰かが先輩に教えてしまった。 花火がきれいで、彼の横顔がまるで絵みたいに見えた。 本当に自分がそこにいることが信じられなかった。 夢を見ているみたいに、花火を見ていた。 そして彼は子供の手を引くように、人混みに流されないように、離れてしまわないように、歩いた。 彼は、妹みたいに思っていると言った。 そして、もう少し大人になったら、きっともっと違う気持ちになるかもしれないな、と、都電の線路を歩きながら話した夜。 でも、そんな日は来なかった。 三年生になって全てはガラッと音を立てて変ってしまった。 素直な自分は消えてしまった。 ただ激しく日々変化する友人達の間で、良い事も悪い事も見境が無くなってしまったみたいに、反抗を繰り返していた。 一体何に反抗していたのだろう。 何に文句があったのだろう。 何に不足が・・。 甘やかされた世代の、目的の無い反抗なんて、何の意味があったのだろう。 失ってしまった時間は戻らないけれど、思い出すと聴くあの曲は、間違いなく、その時の時間に戻してくれる。 まだ幼くて、夕日が好きで、校庭に立ち、流れるその曲を確かに、先輩の横で聴いている私がいる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.02.25 13:29:51
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