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カテゴリ:心身の健康、不登校、ひきこもり
川崎市カリタス学園の児童への殺傷事件、
その後、わが子も同じような事件を起こすのではないかと44歳の息子を父親が刺殺した事件で、 「ひきこもり」が悪い意味でクローズアップされています。 このことについて、所属する団体の記事に書いたものを、多少手直ししてここに載せたいと思います。 「ひきこもり」と言っても一人一人状況は違いますし、何と言っても現在の日本では 15~34歳の若年無業者は56万人 満40歳~満64歳のひきこもりは61万3000人 合計すると117万人を超えるのです。 私は、現在の日本の教育や社会の状況を考えると、この数字はなかなか減少しないだろうと考えています。 また、世間体を気にして家族の問題を他の人に話しにくい日本人の気質も、それに拍車をかけているように感じます。 さきほど、お昼のワイドショーを見ていても、わが子が他人に危害を加えるかもしれないと恐れ、「自分の責任でなんとかしよう」と手にかけた父親に対し、「気持ちはわかる」とか、「自分も同じような状況なら同じ選択をしたかも」という橋下徹氏の発言が紹介されていました。 しかし私は、気持ちはわからないでもありませんが、その論調にはとても心配なものを感じます。 私は、この父親が覚悟を持って息子の問題に向き合わなくてはならなかったのは、家庭内暴力が始まったという中学生の頃だったと思うし、そのことへの問題提起はもっときちんとされてほしいと思うのです。 確かに、仕事をせずに家族以外の人とのつながりがなくなっているわが子や親族を見て、心配になる気持ちはよくわかります。 親の責任で何とかしなければと、家族だけで解決したいと考える気持ちも理解できます。 今の社会では、「ひきこもり」というとマイナスイメージだけが先行していますし、その原因も「親の育て方が…」というような偏見を持たれやすいので、親自身もなかなか人には相談しにくいのでしょう。 きっと成長と共に子どもは動き始めるだろうと見守るのは大切ですが、それは放置しておけばよいということではないのです。 「不登校になると将来ひきこもりになる」という偏見もありますが、決してそんなことはありません。 まず、「不登校のきっかけ」は、ほとんど学校に関わることばかりです。 「いじめ」「部活」「教師のからかい、無神経」などなど、枚挙にいとまはありません。 現在は、「不登校は誰にでも起こりうることで問題行動ではない」と、文科省ですら明言しています。 むしろ、不登校は子ども自身の心身が過度に傷つかないための防衛反応です。 危険な場所から身を守ることができ、安心して自分の学びができる場所が見つかったら、むしろ自分の意志を持つたくましさを身につけて、自分の道を歩き始めます。 子どもが安心して学校から一時撤退できる時間を、いかに早く持つことが出来るかが肝心です。 親自身が不安に駆られて、子どもの不安や辛さ、苦しみに寄り添うことができないことが問題なのです。 そうならないためには、親自身が不登校への正しい理解や、共通する経験を持つ人と安心して話し合えることが大切です。(各地にある親の会にまず参加してみましょう) そのうえで、必要な相談機関や病院、もちろん学校などと主体的に関わる必要があるのです。 つまり、親だけで学校に何とか行かせようとするのは、一番良くない対処方法なのです。 その意識はかなり浸透してきたようで、20年前と今では、親の会に参加するまでま時間は随分変わりました。 かつては不登校が始まって一年以上も経ち、親が万策尽きてやっと参加する人が多かったのですが、現在は数か月で親の会に参加する人が増えてきました。 私の印象では、小中学生時代に不登校になり、その時の親の対処が適切であれば、そのことでこじれてしまうことはむしろ少ないような気がします。 しかし、大学までは順調に成人したはずの人のひきこもりの場合は、悩んで親の会に参加する人は少数派です。 「きっと疲れたんだろう」「少し休んだらまた仕事をするだろう」という期待を持ちながら、見守るうちに月日が経ってしまうのが現実でしょう。 でも、それを見守っている親が不安でないわけはありません。 そのうちに、親子の会話もなくなり、そのような状態の家族のことを身内や知人にも話せなくなり、やがて親も退職して社会との接点が少なくなると、いよいよ家族が社会から孤立してしまいます。 川崎市の事件では、同居する叔父や叔母が精神保健センターに相談していたようですが、本人との接点がほとんどなくなってしまった状況で支援機関に相談しても、本人の気持ちは全くわからない状態でのアドバイスしかできません。 ですから、悩み始めた時が家族以外の人に自分の悩みを話す時なのです。 私は、問題を複雑化・深刻化させるのは、家族が孤立してしまうことが大きな要因だと思います。 家族の危機対処への研究はいくつもあるのですが、家族社会学での 「家族ストレス対処理論…二重ABCXモデル」(マッカバン、アメリカ)が参考になると考えています。参考 実は、この理論を知ったのは、慶應通信で卒論を書いた時であり、あれからすでに20年が経過しています。 この論文が発表されたのは1980年代ですのでもう40年も前の研究ですが、私は今もとても参考になる理論だと思っています。 要するに、家族内でストレスがかかる事態が生じたら、まずそれまでに家族が持っている資源(知恵、情報、能力、身内のサポートなど)で何とかしようと頑張るでしょう。(前危機段階) その後、今までの方法ではうまくいかないと判断し、次の対処方法を求めて相談・支援機関、同じ体験をした人たち、医療機関などにつながろうとします。(後危機段階1) そこで得た情報で新しい家族のやり方を試して、それがうまくいくかどうかを判断しながら次の方法を模索する。(後危機段階2) その循環がうくまく流れ始めたら、問題の解決につながるという理論です。(良好適応) その繰り返しの中で、家族のつながりや信頼関係も強まり、その安心感の中で家族それぞれが力を蓄えて自ら動くことが出来るようになることも多いのです。 もちろん、やってみてもうまくいかないことだって起きますし、その方が多いかもしれません。(不適応) それは当事者が必要としていることと違っている時に起きることが多いようです。 人には、今その時に必要なものが違いますし、求めるものも時間と共に変化します。 親の愛情を求めている時に正論で責められたら、切れてしまうというようなことです。 その部分は誰にもわからないことなので、ずっとわが子を見つめて心配してきた親の感覚で試行錯誤するしかないことです。 今まで、何人もの不登校やひきこもりの子を持つ親御さんや、時には当事者のお話を聞いてきましたが、それぞれこの理論のプロセスに沿っているような気がしています。 とにかく、家族内でなんとかしなければと思い詰めることは、一番良くない対処方法です。 初期の段階ではそのように頑張ることも必要なのですが、そればかりでは限界があるとできるだけ早くに気付き、次の段階へと進むことがとても重要だと思います。 先程のワイドショーでは、親が相談できるところがないなどと話されていましたが、そんなことはありません。 全国ひきこもり家族会連合会のページから、各地の親の会や相談機関等のリンクがあるので、悩んでいる方はまずそれを見てほしいです。 そして、できればすぐに近くの親の会に足を運んでみてください。 同じような体験をしている人たちと話すことで、「一人ではない」という気持ちになり、孤独感が少しは軽くなります。 そして、他の人の話を聞くことで、具体的な日常生活の知恵や対処方法に気付くこともできます。 今回息子さんを殺めてしまった父親は、「ぶっ殺してやる」という息子の言葉に強い危機感を抱いたようですが、一般論としてはそのような言葉を発することでガス抜きをしていることが多いのです。 過度に恐怖心にかられて超えてはいけない一線を越えないでほしい。 家族と言う枠から一歩踏み出すことが、今できる最善のことなのだと思います。 【追記】 斎藤環氏「ひきこもりの犯罪率は低い」…リスクは自殺、無理心中、子殺し6/4(火) 22:16配信 斎藤氏は2日のツイッターで「ひきこもりはモンスターではない。ひきこもりは通り魔にならない」と投稿。「でも、ひきこもりは家庭内暴力をともなうことがある。家庭内暴力は往々にして『子殺し』の悲劇につながる。それは防ぎうる悲劇だ」とした。 4日のツイートでは「定義に合致する意味でのひきこもりが通り魔をした事件はいまだかつて存在しません。ひきこもりの犯罪率は著しく低いです」と投稿。「家庭内暴力と通り魔は攻撃性のベクトルが逆なのでほぼ両立しません。今後懸念すべきリスクは、将来を悲観した当事者の自殺と無理心中(未遂)、疲弊した親による『子殺し』」とした。 長男を包丁で刺したとして殺人未遂の疑いで逮捕された元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(76)=東京都練馬区=は「川崎の20人殺傷事件を知り、長男が人に危害を加えるかもしれないとも思った」との趣旨の供述をしている。捜査関係者によると、熊沢容疑者は、長男について「中学2年のころから家庭内で暴力や暴言があった。その後、引きこもりがちだった」と説明しているという。 斉藤環氏の「家庭内暴力」についての記事 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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痛ましい事故が続いていて、心が痛む。こうした事が起きるたびに、友人や知り合い達のお子さん達のことを想う。親も子も両方ともに苦しんでいる。
みらいさんの言うように、親たちは、勇気をもって必要な相談機関、支援機関、医療機関に行ってほしい。できるだけ早い方が良いと思う。親は老い、子どもの不安と焦りからくる怒りが大きくなる。手に負えなくなるのだ。親が、恥ずかしく思う必要はない。親だって生身の人間だ。いつ自分の命が途切れるかわからない。 一人で抱え込まず、子どもの将来のことを思って、他の人たちの力を借りてほしい。 みらいさんが参考にとあげてくれた、家族社会学での 「家族ストレス対処理論…二重ABCXモデル」(マッカバン、アメリカ) を友人たちにも紹介しよう。 (2019年06月05日 21時35分39秒)
ショコラさん、おはようございます。
>みらいさんの言うように、親たちは、勇気をもって必要な相談機関、支援機関、医療機関に行ってほしい。できるだけ早い方が良いと思う。 私は、できることなら公的な機関よりも先に親の会や当事者の会に参加してほしいと思っています。 そこでは、「生きた地域資源の情報」と「仲間」がいるからです。 相談機関や病院なども決して同じではなくて、そこでは「担当者、相談員」という人間が対応します。 中にはその職に向いていない人だっていることがあります。 その地域の相談機関や病院はどのような対応をしてくれるのか、どのような支援があるのかということは、経験者が一番知っているので、その情報を親の会などで収集し、自分の現在の状況に必要なこと、利用可能なことをある程度つかんでから支援機関で相談した方が、お互いに問題が明確になりますから。 >親は老い、子どもの不安と焦りからくる怒りが大きくなる。手に負えなくなるのだ。 その通りです。 >親が、恥ずかしく思う必要はない。 現代社会は、「ひきこもり」は誰にでも起こりうることだと思います。肝心なことはその後にこじらせないことなのです。 >一人で抱え込まず、子どもの将来のことを思って、他の人たちの力を借りてほしい。 これは、年齢に関わらずとても大切なことだと思います。 親はいつも「初心者」なのですから、経験者に相談することがいつの時代も大切なことですし、そのことを通して自分を育て成長できるはずです。 >みらいさんが参考にとあげてくれた、家族社会学での 「家族ストレス対処理論…二重ABCXモデル」(マッカバン、アメリカ)を友人たちにも紹介しよう。 社会学系のほとんどの研究や論文は過去の事例や事象を分析して理論化したものです。多分、現在も新しい研究結果が世界中で発表されているでしょうが、この理論は自分たちが現在どのような段階にあるかを知る参考になると思うし、「良好適応」につなげるには何が足りないのかを考えるヒントがあると思います。 ショコラさんも、身近な事例でこの理論に照らし合わせて考えてみて、何がその人たちに必要なのか、また本人が一番求めているのは何なのかを一緒に考えてあげてください。本人の行動選択基準が見えてきたら、アプローチの方向も見えやすくなると思います。 (2019年06月06日 08時23分55秒) |
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