ぼくのギター
僕がフォークソングに目覚めたのは中学2年の時。文化祭で一年上の先輩が二人で生ギターで陽水の「東へ西へ」をやった。かっちょよかった。それから同級生と語らって3人でギターを始めた。友人のAはすぐにモーリスの3万円のギターを買ってもらった。僕は実はその3年ほど前に赤色のガットギターを買ってもらっていた。僕は小さい頃はHERO志向で、大きくなったらキカイダーになって正義の為に戦おうと真剣に思っていた。キカイダーにチェインジするジローは赤いガットギターをもっていたから同じようなのを買ってもらった。でもガットギターはナイロン弦だから陽水を弾くには音が違った。そこでそのギターにスチール弦を張り替えたんだけど、弦高が高くておさえにくい、ネックが太くてコードを押さえにくい、しまいにネックが反る、とさんざんだった。中学の卒業祝いとして親にねだってフォークギターを買ってもらうことにした。僕と同じくまだギターをもっていなかった友人Bとお茶の水下倉楽器に行った。予算はなんと6万円!我慢して待ったんだからいいのを買いなさいという親心。下倉の店員さんはヤマハのL-6という表板、裏板ともに単板のものを勧め、Bはそれを買った。僕は、当時シクラメンを歌っていた布施明がもっていたマーチンD-45に憧れていたから胴回りにインレイを施したキンキラキンじゃないとだめで、L-6は地味すぎた。僕はモーリスのものを選んだ。ヘッドにはTF MORRISと縦書きでCF MARTINと見まがうもの。これは表板は単板、裏板は三枚板だったかな。表板は確かスプルース。店員さんは、このモーリスは弦高が高いですよ、L-6の方が低温の響きがいいですよ、と勧めたが外見に拘る僕は迷わずモーリスだったなあ。その後、やっぱり弦高に悩まされ、友達のL-6の表板の白さ(えぞ松)が自分の、ありふれた黄色よりもきれいに見えて自分の選択を後悔した。けばい女性を彼女に選んだが、友人の、清楚で色白の彼女に惹かれる優柔不断な男みたいだ。結局、大学2年の夏休み、2週間中学校のプールの監視員のバイトをして得られたお金3万円全部を使って、憧れのヤマハを買った。手持ちのお金の限界でL-6は買えず、FG-300D。えぞ松の合板、胴回りはL-6のような清楚なものを希望していたが、このFG-300Dはインレイが施されたものだった。今でももっていて時々弾くのはこれ。今から3年前だったか、友人A, Bと3人で集まってギターの夕べをやった時に、L-6のBはオベーションに変えていた。Aは3万円のモーリスのまま。僕はFG-300D。オベーションもアンプにつながず生では音量が小さかった。Aのはさすがにいちばん長寿だったから疲れたのか音がくぐもっていた。そして、僕のの音をAは、「龍の音、いいなあ」とほめてくれてすごくうれしかった。そのときの曲目は、風「北国列車」「22才の別れ」「なごり雪」「海岸通」「古都」「はずれくじ」かぐや姫「妹」「神田川」「加茂の流れに」「あの人の手紙」「ぼくのお父さん」「置手紙」井上陽水「東へ西へ」「心もよう」「夏祭り」。今でもマーチンは憧れだけど、ギターは弾き込むほどに、愛撫するほどにいい音で応えてくれるという。その意味では馴染んでいないマーチンよりも僕にはヤマハの方がいい音出してくれるだろう。中学時代からの友人でシンガーソングライターをやっている粕谷大児君はレアーマーチンを愛用している傍ら、2万円のヤマハも愛用していて、それを使ってStreet Liveしていると、ギターフリークが「いい音してますね」と寄ってくるそうな。その彼が、僕のギターも十分いい音鳴らしているはず(韓国と日本との距離があるから実際に音を聞いてもらえないんだ)とお墨つきをくれたので、結構うれしい。定年後の楽しみに、自分へのご褒美として将来マーチンを買うことがあるかもしれないが、そうなってもこのヤマハを手放すことはないだろう。