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カテゴリ:TMS
鉄道模型趣味(TMS)誌の記事を集めた「鉄道模型趣味特集シリーズ」の第1巻として昭和32年に発行された「鉄道模型作品20題」では,主に昭和20年代の同誌に収録された傑作の数々を見ることができます。作品はOゲージとHOゲージが中心で,HOゲージより小スケールのものとしては,TTゲージと8ミリゲージという,2つのゲージの作品が掲載されています。
まず「8ミリゲージの流線型ディーゼル列車“サンビーム号”」は,伊藤剛氏の作品です(初出はTMS20号)。 ![]() ![]() (『鉄道模型作品20題』より,伊藤剛氏の8ミリゲージ列車。流線型ディーゼル機関車を先頭に連節式の客車が続くのは,スペインのタルゴに通じるところがあるかもしれない) 交流3線式で,製作されたのは何と日米開戦の年,昭和16年。伊藤氏は「なんとか膝の上で工作出来るものとして遂に8ミリを作ることを決めました。…軌間は河北一久氏が子科展で9.5ミリを発表して居られたのでもう一段下まわるつもりで8ミリにしたのです。幸いに空襲にも焼けず現在まだ動きます。」と述べられています。驚くことに,ギア以外はほぼ全て自作されています。 ![]() (RM MODELS 平成25年11月号より) なお,ここで伊藤氏が紹介されている河北氏の9.5mmゲージとは,昭和9年に発表されたBB型電気機関車で,後にTMS32号に掲載されています。 ![]() (TMS 昭和63年4月号より,河北一久氏の9.5ミリゲージ機関車。「Postage Stamp」すなわち切手と比較してその小ささが強調されている) [追記]小スケールの鉄道模型を切手と比較した例としては,他に,「ラジオと模型」(少年文化社)昭和24年2月号に掲載された「郵便切手大の機関車」があります。軌間10ミリで縮尺は1/150とされています。 ![]() (「ラジオと模型」(少年文化社)昭和24年2月号より) 一方,TTゲージは以前ご紹介したとおり,縮尺1/120,軌間12ミリという規格であり,「20題」では,佐藤昌武氏のハドソン式蒸気機関車(初出はTMS36号),荒川弘文氏のドックサイド型蒸気機関車(初出はTMS40号)の2作品が掲載されています。 ![]() 佐藤氏は,昭和12年2月に1/100・軌間11ミリのED17電気機関車を製作され,戦後の昭和25年6月には,TTゲージを踏まえ,軌間12ミリのスロ60客車を製作されたそうです。そして,湯山一郎氏のすすめにより,スロ60では1/110を採用したと「20題」には記載されています。 その後,8ミリゲージとTTゲージをめぐり,TMS誌上ではちょっとした意見の応酬が行われることになりました。 ![]() (8ミリゲージとTTゲージをめぐる意見の応酬の舞台となった,昭和32年から翌33年のTMS各号) きっかけとなったのは,当時,二井林一晟氏がTMS誌に不定期に連載されていた「こんな話が……」というコラム的な文章です。 TMS108号(昭和32年6月号。表紙を飾るのは,新車(!)・小田急SE車)の「こんな話が……」では,二井林氏が関西の16番ゲージャー18名に対して行ったアンケートの結果を元に,16番ゲージについて述べられています。 そして,質問の3番目で,「TTについてどう考えているか?」と問うたところ,「やはりこの質問は時期尚早と見えて『今の所何も考えていない』とか『パーツが多く出て見ないと何ともいえない』という意見が30%も出ていささかガッカリしました。しかし約60%を占める最多数の意見は『16番より小さいゲージは採用しない』とはつきり言い切つて居り,その理由としては先づ工作上の点でTTは普通の腕の人がヤスリや半田鏝を使つて工作を楽しむには小さすぎる,16番が限度だとする人が多く,又アメリカ型ならいざ知ず日本型それも小型車輌の工作はTTでは甚だ困難で,大きな20米車の様な限られた車輌しか動かす事ができないともいつています。この点はTT用の本格的パーツが出来れば或程度楽になりましようが,一方運転面でも『16番からTTに移つた処でそれなりに欲が出るから決してスペースは小さくならず,むしろ8ミリゲージ位に迄小さくならないと日本の家屋で20米車が楽に通るレイアウトを作るのは無理ではないか』といい,この点で『TTはOに対するSゲージの様に中途半端だと思う』といつている人も少なくありません。…関西にはどうもTTのパイオニヤになつてやろうという程の人は見当りませんでした。…『TTは完全な運転主義ゲージといえるかどうか? 将来もし8ミリゲージ等の更に小さいゲージが普及して来たときに果してTTは8ミリに対するゲージ上の優位性を持つているかどうか?』という疑問をいだく人もあり,今後共TTは多難の道を歩んで行かねばならぬのではないかと思います。」として,当時,欧米のいくつかのメーカーから発売されていたTTゲージについて,その将来性に疑問を呈する意見が紹介されました。 こうした意見に対し,TTゲージの8800形蒸気機関車・客車(TMS103号掲載)を発表されるなど,TTゲージの製作に取り組まれていた益田昌氏が反論を寄稿されるのですが,それについては次回ご紹介したいと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020.09.01 21:52:52
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