多田製作所のロコメート(補遺その2)
これまで多田製作所のロコメートについて何度かご紹介してきましたが,いくつかの点を補足しておきたいと思います。既に書いたことと重複する点もありますが,ご容赦願います。<4種類のセット>ロコメートには,4種類のトータルセットが確認されています。C58のセットとしては,機関車と貨車4両のセットと,機関車と貨車3両のセットがあり,3両のセットは後から加わったようです。ひかり号のセットとしては,車両4両のセットと3両のセットがあり,3両のセットは後から加わったようです。4両のセットは,いずれもパッケージに写真が用いられているのに対し,3両のセットのパッケージはイラストで,単1乾電池3本を入れるスペースが設けられており,レール磨き用の紙ヤスリが付属しています。この他,広告によれば単品販売もあったようですが,今のところ現物を確認できていません。<ARNOLD BR66との関係>多田製作所は1967年末にロコメートを発表しましたが,C58蒸気機関車セットの箱や説明書の写真に写っている機関車は,C58ではなく,ARNOLDのBR66(1963)でした。(写っている機関車は,ARNOLDのBR66を加工したモデル)そこで,両者を比較してみると,動輪の配置など,多田製作所がARNOLDを参考にしたことがよくわかります。(上からARNOLDのBR66,ロコメートのC58,ロコメートの動力を撤去し小茂田商店から発売された無動力のC58,童友社のプラモデルのC58)また,童友社から1969年に発売されたC58がロコメートを参考にしていることは,動力構造が酷似していること,童友社がC58のナンバーをロコメートと同じ「C5890」としていることから(注),まず確実といってよいでしょう。その童友社のC58は,ARNOLDのBR66と同様に第2動輪がフランジレスとなっていますが,童友社がARNOLDのBR66をも参考にしたのか否か,私は現時点で判断する決め手を欠いています。童友社の初期の広告では,自社製の貨車の代わりにリマ製?の欧州型貨車が写真に用いられていますので,同社がロコメート以外の外国製Nゲージも参考にしていたことは間違いないと思いますが・・・。(注)ロコメートでは,C58のナンバーは「C5890」となっていますが,これは多田製作所がC58に「90A」,ひかり号に「90B」の品番を与えていたためと思われます。(左からARNOLDのBR66,ロコメートのC58,ロコメートの動力を撤去し小茂田商店から発売された無動力のC58,童友社のプラモデルのC58)<玩具見本市への出展>玩具商報258号(1967年11月1日)掲載の多田製作所の広告では,「第六回日本玩具国際見本市開催中ご多忙中にも拘らず多数ご来場、当ブースにお立ち寄り下さいまして、ご意見ご注文等をいただき、厚くお礼申し上げます。益々、皆様のご要望に応えた製品を発表していくよう努力いたします。誌上を借りて、お礼のご挨拶にかえさせていただきます。」とあります。(玩具商報258号より)そして,トイジャーナル1967年11月号5頁に掲載された,第6回日本玩具国際見本市の記事では,ロコメートが以下のように紹介されています。「学研の交換台つき電話セット,アサヒ玩具,一宏工業のフリクション自動車,浅草玩具のパイルドライバー,今井科学のサンダーバード,国際貿易のスペースマン,多田の九ミリゲージ,増田屋,日模,学研のラジオコントロール玩具,等々魅力商品がいっぱいである。」(池袋・西武百貨店 商品部趣味雑貨部係長・海士慶二郎氏)「マスコミものではバンダイが一段と光っております。このほか河田のブロックとかエポック社のゲーム類,それに変ったところでは多田製作所の九ミリゲージをあげることができるでしょう。ただしこの九ミリゲージは,日頃輸入品を見なれているせいか,輸入品と比較すると若干見劣りするきらいもありますが,プライスラインの取り方はうまいと思います」(新宿・京王百貨店 営業第四部雑貨第一課第一係長・田辺宣孝氏)また,「日本模型新聞 鉄道模型版」2号(1978年10月20日)に掲載された,故・加藤祐治(株)関水金属社長(当時)へのインタビューによれば,多田製作所は,1968年に,ドイツ・ニュルンベルクの国際玩具見本市にも出展していたとのことです。インタビュアー「当時、鉄道模型で出品した日本メーカーがおりましたか。」加藤氏「今は見られないが、Nゲージで玩具の多田製作所さんでした。Nゲージ専門メーカーでないが、おもちゃの鉄砲などを作っている会社でして、(昭和)四十三年に出品していました。結果は良くなかったようです。その後やめたという話を聞いています。」<多田製作所のその後>法人としての多田製作所は2007年に都内の不動産会社の傘下に入り,2008年に解散しています。