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きょうが一番いい日。わたしの一生の中の、大事な一日だから。

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2007年12月09日
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今日私はある決心をした。
同期の男の子にカミングアウトしたのだ。
その男の子は私が恋心を寄せていた相手だった。
私は去年の8月、この職場の面接を受けた。
性同一性障害を明かして面接を受けた。
「私は体は間違って男体に生まれていますが、
本当は女性です。女性として就職したいと思っています。」
面接では、K.T.事務長、U主任、看護士長、M子先生が
神妙な面持ちで、でも優しさたっぷりの顔で、
「そんな苦しい思いをしてきた人なら、
老人に対しても傷つけることもないだろうし、、、」
と、涙ながらに言ってくれた。
私は泣きそうになるのを堪えながら、面接場を後にした。

それから2週間、音沙汰がなかった。
2週間後、K.T.事務長から電話があった。
「明日から実習に来てみないか」
との事だった。
「私どももはじめてのケースなので、
職場の同僚の対応をどうするか考えたが、
あなたが話したいと思う時に話せばいいと思う。
それまでは私どもからは周りには公表しないでおこうと思う。」
と、とってもあったかな対応だった。
私は心からそのあったかさに感謝した。

あれから1年3ヶ月。
入社してすぐに、同僚からK.T.事務長の悪い噂を聞いた。
「頭がおかしい」「殺したい」「死ねばいいのに」
職場の同僚は口を揃えて、K.T.事務長の事をそう言った。
私は最初、「?」という思いでその言葉を聞いていた。
「職員を全然大事にしない人」
というのが、大方の全職員の考えだった。
私はその真意が分からないままだったが、
同僚達は次々職場を辞めていった。
この施設、設立から10年程経っているのだが、
はじめから続いているのは、栄養士一人と清掃の職員一人、
通所の所長一人のみ。
あとは長くて3~4年。
1年もいれば大ベテランのように扱われる。
とにかく入れ替わりの激しい職場だった。
朝7時過ぎには出勤しなければ仕事が回らない。
休憩もほとんど10分程しかとれない。
まったく取れない日も多々ある。
それで帰りは19時は当たり前。
21時を過ぎるまで働くのが皿にあった。
残業手当は勿論ない。
それでもK.T.事務長は、早く帰るなと怒鳴る。
「あんた達は別にいつ辞めてもらってもかまわないんだから。」
と、「いつ首を切ってもいいんだから」と。
新しい人が入ってきては辞め、入ってきては辞めの繰り返しだった。
ちなみにこのK.T.事務長とM子先生は兄弟で、
常務はその父親。
M子先生の夫が理事長を務めている。
この木花地区ではちょっとした財閥一家だとのこと。
だが、入ってきていた求人も悪い噂が宮崎県内に知れ渡り、
最近では誰も入ってこなくなった。
ハローワークでは、すでにブラックリストに載っているらしく、
まったく面接に来ない為、今度は新聞の広告に出し始めたらしい。
しかし、今ではそれでもまったく面接に来なくなり、
今では、県外に求人を出す事を考えているという。
全体会では毎回のように、
「ヘルパー2級も持ってなくても構わない。
これから取ろうという気持ちだけあれば、
誰でもいいから友達を紹介してくれ。
誰でも採用するから。」
と、言うようになっていた。
その反面、相変わらず「いつ辞めてもらってもいいんだぞ!」
と、何かにつけて怒鳴っていた。
だが、実際に辞めようとする職員がいると、
難癖ばかりつけて、絶対に辞めさせない。
辞めさせない為に作った規則数知れず。
代表的なものは、
その一、「退職するものは2ヶ月前には幹部に報告すること」
その二、「退職届けは、当施設の作った用紙を使用すること。
     但し、幹部が納得しないとその用紙は渡さない。」
その三、「自分が辞める時は、次に入る者を探してから辞めること。」
そして、最近出来たニュー規則が、
その四、「一ヶ月、一名までしか退職は出来ない」
というもの。
これは、通所の職員が1月に2名辞める事が半年近く前に決まっており、
辞めさせたら職場が回らない事に、最近になって気付いたお粗末な幹部が、
急遽作った、お粗末な規則。
K.T.事務長の口癖は「退職する時は円満に退職しろ!」なのだが、
この職場、腹を決めて出社拒否をするまで辞めさせてくれない。
看護士長も、介護リーダーも、その他の多くの職員が、
突然、ロッカーの中を空っぽにして、夜逃げ同然に翌朝から来なくなる。
それでどうにか退職出来るのだ。

まぁ、そんな事はどうでもいいのだが・・・。
それでも私はK.T.事務長に恩があると思っていた。
私を生まれて初めて「女性」として就職させてくれた職場だったから。
恩がある、とは少し大袈裟かもしれないが、
私を「女性」として就職させてくれた、大切な職場だと思っていた。
数時間前までは。。。

最近、どうも先輩の同僚の発言に腑に落ちないところがあり、
それに、毎日の過酷な労働状況とK.T.事務長の信じられない発言に不信感も募り、
どうしても確かめておきたい事が出てきた。
それは、、、
本当に私の性同一性障害の事は、幹部だけに止まっているのだろうか、
という思いであった。
K.T.事務長は11月の定例会の際、こんな発言をしていた。
私が誕生会担当で司会をしていた際の事なのだが、
話は、男性利用者から女性職員に対するセクハラ行為があった事に対する話であった。
ある男性利用者を女性職員が入浴介助中、こんな事が起きたらしい。
女性職員はまだ介護経験が浅く、介護の対応にも不慣れだった。
その為、入浴介助中に男性利用者の体を洗っている際、男性利用者から、
「(股間を指し)手で洗え!」
と、言われた言葉に意味がよく分からず、言われるまま手で洗ったという。
そうすると、今度は「お前の穴に入れさせろ!」と言われたという。
その状況を、K.T.事務長はすこぶる上機嫌で、とても楽しそうに、
喜ばれながら、状況をとても詳しくお話しになられた。
その際、今度は女性利用者に対する、男性職員の対応にも話が及ばれた。
その話をかいつまむと、こうだ。
「男性職員は女性職員には絶対に敵わない。
女性職員の優しさには、絶対に男性職員は敵わないのだから、
女性職員以上に男性職員は優しくならなければならない。
むしろ、自分が女性になったつもりで対応しなければならない。
だからと言って、「おかま」になれと言っているのではないぞ。
女みたいになれといって、「おかま」になる必要はないんだぞ!」
と、再三にわたって何度も「おかま」という言葉を連呼した。

そして今日。
同期の男の子に、勇気を振り絞ってメールをしてみた。
「私の生まれつき抱えてる、難しい疾病のこと、誰かから聞いてる?」と。
すると、思いも寄らない返事が返ってきた。
私はこの瞬間まで、K.T.事務長や、この施設の幹部を信じていた。
信じていたかった、、、というのが、正直なところだが。。。
その男の子の返事は、
「大分前から知ってたよ」
との答えだった。。。
頭の中が真っ白になった。
私は、今まで友人や知人、家族に、
「はじめて女性として就職できたんだぁ」
と、自慢気に話していた。
「今は女性として生活しています。」と。

だが、「女性として生活している」と思っていたのは、
私一人だけだったのだ。
周りは私の戸籍も体も「男性」だという事を知っていたのだ。
ひとしきり泣き、嗚咽を洩らした後、嗤いが込み上げてきた。
私は好きな男の子の話もしていた。
誰にも「男体」と気付かれないように、トイレでも、更衣室でも、
一人、悪戦苦闘していた。
「女性」の側に見られていると思い込んで、
一生懸命結婚の話題や生理、出産の話題にもついていこうとしていた。

みぃんな、周りは知っていたのだ。
私が「女」じゃない事を・・・。
私一人が「女性と思われている」
と勘違いしてやってきた事を考えると、
だんだん嗤いが込み上げてきた。
一人、自分の部屋で、嗤いが止まらなくなった。
うすら寒い嗤いが込み上げてきて、抑えきれない。

私は、「裸の王様」だったんだ・・・。








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最終更新日  2007年12月10日 03時38分28秒
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