マイライフ・マイシネマアルカディア

2021/07/17(土)19:49

「蜜蜂と遠雷」

映画館で見た映画(518)

「夜のピクニック」を読んで、恩田陸は素敵な作家に思えた。映画「夜のピクニック」も良かった。そんな遠い思い出に原作を読んでから、この作品を見たかった。けれど、先に映画作品を見てしまった。原作を知らないのですべてが新鮮で次に起こることも予見できずに、興味を持って見た。 素晴らしかった、良かった、いい作品だと思った。 感動したところはあちらこちら、ところどころで涙を流し感じ入ってみた。 神童や天才と呼ばれる若きピアニストが超一流のプロピアニストを目指してピアノコンクールでしのぎをけずる話。 主演松岡茉優。ショートボブの髪型からして、20歳の女の子であれば広瀬すずでよかったのではないかと思えた。当代一のスター女優・広瀬すずが最適ではないか、映画のヒットも考えるとそう思えた。松岡茉優であればしらない観客も多いのではないか。事実、知人は松岡茉優を知らなかった。しかし、知らない分、役柄・栄伝亜夜として存在した。広瀬すずでは広瀬すずが認識されて、栄伝が感じられないかもしれない。私が、松岡を知ったのはNHK朝ドラ「あまちゃん」でのアイドルグループのリーダー役だった。アイドルを目指す十代の女子がタレントとして集められたなかでピンでは無理だからグループで売り出すという方針。その中でのリーダー役。美人でもかわいくもなく、この子はアイドルにはなれないな、だからリーダー役、そう思った。アイドルとして売れることはない、と思った。松岡茉優はスターにもアイドルにもなることはなかったが、この作品を見て、女優になったなと感じた。テレビドラマ「やすらぎの郷」のバーテンダーや映画「ちはやふる」のクィーンなど、私が見る松岡はチョイ役であった。TVCMにも出ているので人気もあるのだろうけれど、彼女の女優度を感じたことはなかった。この作品を見て栄伝として栄伝を演じきった松岡を見て、いい女優になったなと思った。 共演の森崎ウィンも新人の鈴鹿央士もいい演技をしていた。松坂桃李は芝居がヘタだと思っているが、今作では引き出しを増やしたんだなと人気者として作品に出演し続ける経験値を知った。ブルゾンちえみはブルゾンらしい役どころで、片桐はいりも彼女が似合う役どころと見えた。眞島秀和の役どころはいい役者としてはもったいない使い方に感じた。平田満はいい味出してるいい役どころである。鹿賀丈史の役どころも申し分なく。斉藤由貴を審査委員長としてキャスティングしたことは芝居巧者の彼女に託したことは大成功だと思える。彼女とともにいる審査員の外人が素晴らしかった。審査員としての自然な演技で英語でのやり取り、それにともなう字幕を読んでいるとまるで外国映画を見ているような錯覚にとらわれるほど。この役者アンジェイ・ヒラはよかった。 光石研もいい芝居してました。 映画を見て、後追いになるけれど原作を読んでみたいと思った。 みなさまにお薦めする映画作品です。 2019年/日本/119分/G 監督:石川慶 出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士、臼田あさ美、ブルゾンちえみ、福島リラ、眞島秀和、片桐はいり、光石研、平田満、アンジェイ・ヒラ、斉藤由貴、鹿賀丈史 お薦め度 「​蜂蜜と遠雷​」★★★★☆(90%) <ネタバレ> 本当にこのような子供がいるのだろうか。音のならない鍵盤で板で演奏の練習をする者が。そこが大きな疑問ではあるが、若き若者だけが持つ怖いもの知らずの強さ。そして、大聴衆に恐れをなさず楽しめるすごさ。 母を亡くした苦しみから立ち直るべく7年を要し、最後の挑戦としてチャレンジャーとして出戻ってきた主人公・栄伝亜夜。彼女の苦しみも悲しみも必要最小限しか描かれない。それを見て彼女の慟哭をくみ取っていくしかない観客。音の世界。音楽の世界。プロの境地。それを映像化できた具現化できた作品である。もちろん、観客にわかるように演者の表情や行動やしぐさで、うまくいった、失敗したを表現したいささかの残念さあるけれど、いたしかたないこととも思えた。この作品のためにピアノレッスンを何カ月も続けた出演者は素晴らしい演奏演技として結実していたと思える。 原作にあるのかないのか、不要なものや不敬なものに見えたふたつのシーンがある。 不要なものは審査員が客席で演奏中にホットドックをほおばるシーン。 不敬なものは審査員長と審査員が演奏中に私語を交わすシーン。演奏中に言葉を発するなんてあってはならないと思うのだが。 片桐はいりはいい味を出していたが、彼女のシーンはあえて入れなくても良いのではないだろうか。 冒頭、クライマックス、エンディングと登場する馬。馬は何を意図するのか。私にはわからない。 心地よく何度もリフレインしてしまう、人を酔わせる曲や演奏よりも、超絶技巧にとんだ連弾のほうが評価が高いなんて、コンクールというものはそういうものだということを忘れていた。 フィギュアスケートがどんなに優雅に素晴らしくすべっても、4回転みごとに跳んだものが優勝するように、胸に響く歌を歌うより低音から高音まで、はては他人が出せないハイトーンで歌うものが優勝するように、きざみこむ奏法を完璧にこなすものが優勝するピアノコンクール。それを魅せてくれた。 コンクールの結果は、エンドロールの始まりであった。

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