2022/10/30(日)11:16
読書レビュー 「ファーストラヴ」島本理生:著 文春文庫
「よだかの片想い」を読んで、映画を見て
「ナラタージュ」を読んで、映画配信を見て
「ファーストラヴ」を読んだ。
島本理生に溺れる。彼女の小説に惹かれる。
負のイメージのものを負のイメージでなく肯定していく気がする。
裏腹な真相。
彼女の本はそこはかとなく奥深く、深く、深く、ふかく……。
主人公は美人の臨床心理士・由紀。
由紀には大学時代に兄妹のように仲の良かった迦葉(かしょう)がいた。迦葉は弁護士。迦葉の兄・我聞に惹かれ、結婚し、一児を持つ。迦葉とは距離を置く関係であった。
父親殺しの女子大生・環菜のノンフィクションライターとして白羽の矢が立った由紀は国選弁護人となった迦葉と共同して真相をつまびらやかにしていく。そこで対峙する由紀自身の過去。
深い闇、閉ざされた世界、国際的画家の父親のアトリエ教室でモデルとなり男子学生の視線の数々を長時間浴び続けた環菜の精神は壊されていった、のか……。父との軋轢が……。
表題「ファーストラヴ」からして、とてもこのような事件の物語だとは思ってもいず、それは宮崎あおいの映画「初恋」で描かれたのが事件であったことを思い出すと、ファーストラヴ(初恋)は”事件”なのなだなぁ、とふと思ってしまった。
丹念に描かれ、心のひだに触れるような筆致の島本理生に私は心酔し始めているのかもしれない。
第159回直樹三十五賞受賞作。
ファーストラヴ (文春文庫) [ 島本 理生 ]