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カテゴリ:小説
何とかおねえちゃんをなだめてから一日、もう少しで狼の洞窟につく、というところで、私たちは野営することにしました。夜は、魔物が凶暴化することが多い……とはいえど、今回は洞窟の中なのであまり関係はないのですが、念のため、ということで明日から洞窟の調査です。
「ブレッシング!」 「ありがとうございます~」 「いえいえ、美しいお嬢さんが喜んでくださるなら、いくらでもこの身を捧げましょう。……ヒーリング!」 野営の準備をファイさんとクロードさんに任せて、アウラさんは通りすがりの冒険者さんたちにたくさん支援しながら回っています。 「……相変わらずナンパ好きだな。アウラ」 「何を言っているのですか、ファイ。わたくしは、神の愛を皆さんに等しく与えているだけですよ」 「の割には、男には見向きもしてない気がするが?」 「それは偶然ですよ。ほら、あなたにもブレッシング」 「いらねぇ! それは戦闘中だけで十分だ。ていうか暇なら手伝え」 「あ、じゃあ私が手伝いますよ?」 「何を言っているのです! ティアさん! こんなことをしてしまったら、あなたの指が穢れてしまいます!」 「こんなこと呼ばわりか」 「それにあなたには、わたくしたちの心とおなかを充たす食事を作る、という重大な使命があるでしょう」 「いや、そこまで重くはないから」 「大丈夫ですよー。今、おねえちゃんが見てます」 「……」 「……大丈夫なんでしょうね?」 シュゴゥッ!そんな音を立てて、アウラさんとファイさんの間を何かがすごい速さで通っていきました。 「……いやぁ、晩御飯が楽しみですねぇ、ファイ」 「やっと反応してくれてうれしいけど、俺に振るな」 「ほら、さっきブレッシングしましたし」 「伏線だったのかっ!」 「っていうかお前らちゃんとやれよ……」 結局アウラさんとファイさんがずっと遊んでいたせいで、クロードさんが一人で野営の準備をしていました。いつものことなので、クロードさんはあきらめ顔ですが。 「そういえば、アウラさんって普通のビショップさんとは装備が違いますよね。何でなんですか?」 「わたくしにはあんな無粋な鎧なんて着れませんよ。それにあの棍棒! 野蛮人ではないのですし、わたくしには必要ありませんよ。」 そんなアウラさんは、いつも素手で、修道服のようなものを身に着けています。 「でもその服って、修行時代に着るやつだろ?」 「よく知っていますね。修道院は全寮制ですから、閉鎖的で、あまり情報は公開されないのですが」 「俺を誰だと思ってんだ」 「……盗賊」 「お前……まさか……」 ……一瞬、アウラさんの顔が曇ったように見えたのですが、気のせいでしょうか。 「アウラさん」 「はい? どうかしましたか?」 「……いえ、なんでもないです。あ! お茶入れてきますね!」 以前、夜にふと起きたとき、アウラさんが月のほうを見ながら、何かに話しかけているのを見たことがあります。あのときのアウラさんは、まるで、別人のような雰囲気だったので、私は声をかけられませんでした。 「おーい、俺にもお茶くれー」 「あ、はい。今行きますー」 他の人にも秘密はあります。でも私は、そんな秘密を皆で共有できるような。そんな、家族みたいな。いえ、家族以上のギルドにしたいって、そう、思います。 「そろそろ寝るかぁ」 「そうだな、明日に備えて寝るか」 「え……あの、私のお茶は?」 いつになるかわからないけど。 「あー、ねむねむ」 「ティアー、あたし奥に行くよー」 「……うぅ」 いつか。きっと。 そして今日も、アウラさんは月に語りかけます。 さんじゅうろっけいにげるにしかず-4-へ……続く? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.10.14 20:12:37
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