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真理を求めて

2004.08.18
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カテゴリ:映画
戦争を描いた映画の中でも、もっとも感動的で心に残っているのは、僕にとってはこの映画だ。この映画では戦闘シーンというのは冒頭の一部分だけで、戦闘そのものの悲惨さを訴えてはいない。この映画が訴えかけているのは、戦争によって失われる日常の何でもない平凡な幸せというものだ。

戦争がなければ得られたであろう平凡な幸せが、そのほとんどすべてが奪われてしまうと言うことの悲惨さを静かに語っている。それがとても心に残り、大きな感動を覚える。

主人公のアリョーシャと呼ばれる19歳の兵士は、戦功を立てた褒美に休暇をもらう。これは、かなり異例のことで、故郷の村に帰って母親に会うために、行きに2日、帰りに2日、母親と過ごすために2日の、合計6日間の休暇をもらう。その休暇の間の出来事を描いたのがこの映画だ。

アリョーシャは、好青年という言葉がぴったりくるとてもいい子だ。素朴で、純真で、自分のことよりも人のことを優先してしまう心の優しい子だ。母親と過ごす時間はわずかだというのに、頼まれたことを断れず寄り道をして時間を潰してしまう。

戦友の家族に届け物をしたり、偶然出会った女の子を助けて一緒に列車に乗ったり、列車事故にあって被害にあった人を助けたりしているうちに、彼の休暇はほとんどなくなってしまう。最後は、母親とほんのちょっと会話を交わしただけですぐに帰らなければならなくなってしまう。

母親に会うというだけのことで、これだけ大きな感動を受けるということがこの映画のすごいところだと思う。それは、ちょっと会いに帰るだけでも、どれほど難しいことかということが、それまでとても丁寧に描かれているからだと思う。映画の中の登場人物であるアリョーシャも母親も、それを取り巻く村の人々も、ただ一目会うということがどれほど感動的なのかということが、痛いほど伝わってくる。そこで、映画を見ている僕も映画の中の人物に共感し、感情移入しているのをとても感じる。

平凡な幸せが奪われている戦争という状況の中では、本当にごく平凡な幸せがどれほど尊いものかというのがよく伝わってくる。僕自身は戦争を直接知らない世代に属するけれど、この感覚は伝わってくる。それは、おそらくまだ戦争の傷跡を引きずっていた昭和30年代に生きていたからだろうと思う。その感触が全く感じられなくなった、豊かになったあとに生まれた世代は、果たしてこの平凡な幸せが奪われることが戦争の悲惨さだという感覚が伝わっているだろうか。

皮肉なものだが、豊かになればなるほど、幸せを感じるために刺激が必要になっているようだ。かつては、平凡なことでもたいへんな苦労をして手に入れなければならなかったので、それを手にした時の幸福感というのはとても大きなものだっただろう。戦争は、すべてにおいて何も手に入らない状況を作るので、戦争下では、すべてが幸せを感じるための条件になっただろうと思う。

苦労して手に入れたものには愛着と執着心が生まれるものだ。だが、簡単に手に入るものは、それを失ってもあまり残念な気分にならない。豊かになるということは、だんだんと幸せの種を失っていくことでもあるというのは皮肉なことだなと思う。

戦争は大いなる不幸で、平凡な幸せを破壊する。しかし、苦労せずに手に入れた平和は、もはや平凡な出来事では幸せを感じられなくしてしまう。そういう皮肉があるので、宮台真司氏などが、極限状況の体験の復活という意味で、アイロニーを込めて徴兵制の復活などという話をするのだろうと思う。韓国映画の持つ緊張感は、韓国における徴兵制との関連が大きいと宮台氏は語っていた。

「誓いの休暇」は、戦争が平凡な幸せを破壊するという点で、最大の悲惨と不幸をもたらすことを描いて秀逸だと僕は思う。アリョーシャが出会ったシェーラという女の子との恋も、もし平和な時代だったら、平凡ではあるけれど幸せな結末を迎えていただろう。夫を裏切った戦友の妻も、平和な時代であればそのようなことはなかっただろう。

これらの悲惨と不幸をもたらすからこそ戦争を避けるために最大限の努力をしなければならないと思う。しかし、それと同時に、ただ避けるということを優先させるのではなく、そのために力を尽くしているという意識の方を鈍らせてもいけないと思う。平凡な幸せを幸せと感じなくなるような鈍感さとも、我々は戦わなければならないのではないかと思う。

戦争という悲惨さによってもたらされる偶然の限界状況ではなく、自らが選び取った限界状況の下で、緊張感を失うことのない生き方をしたいものだと思う。「誓いの休暇」はすぐれた映画で、大好きな映画ではあるけれど、戦争の悪を描いた反戦映画という単純な理解ではなく、人間にとっての限界状況の意味を考えるためのものとしても受け止めたいものだと思った。






最終更新日  2004.08.18 12:32:43
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